187.それからは、先生は
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│ それからは、先生は、
│ パソコン画面を見ながら、
│ ワタシの年齢や血液型といった基本的なことから訊き始めて、
│ 次に、
│ 病歴、服用中の薬、アレルギー、
│ 基礎体温の記録の有無、
│ 妊娠検査薬で調べたかどうか、その陽性を確認したのはいつか、
│ ツワリの具体的な症状、
│ お腹の、おへそよりも下の方は痛まないか・・・などを質問し、
│ ひとつひとつ確認していきました。
│ そうして、
│ 先生が、ワタシの結婚状況について尋ねたときでした。
│ ワタシが、
│ 未婚で、結婚の予定も無いことを伝えると、
│ 先生が手を止め、こっちを向きました。
│ ワタシの顔を見て、
│ 少ししてから尋ねました、
│ 「・・・ちょっと答えにくい質問かもしれないんだけどさ、
│ お相手の人、今日はどうしたの?」って。
│ ワタシは、顔を俯けました。
│ 「えと、その・・・」って、口ごもってしまいました。
│ しばらくすると、
│ ワタシの代わりにお母さんが答えてくれました。
│ 「あの、逃げられちゃったみたいで・・・」
│ 先生が、
│ パソコンのキーボードを、少しカタカタと鳴らしました。
│ そのあと、
│ 「・・・どこに行ったか分からないし、連絡も取れなくなった、
│ そういう認識で合ってますか?」って訊きました。
│ お母さんが言いました。
│ 「はい。
│ ・・・だよね?」
│ ワタシが黙って頷くと、
│ 先生が、再びキーボードを打ち始ました。
│ そうして尋ねました。
│ 「警察か弁護士には相談しましたか?」
│ お母さんが答えました。
│ 「いえ、まだです。
│ 私も、
│ 今朝、ウチの娘から聞いたばかりでして・・・。
│ それに、まだ妊娠が確定したわけではありませんから・・・」
│ 「今後、相談の予定は?
│ あぁ、
│ これからの検査で娘さんの妊娠が確定したと仮定して、ですが・・・」
│ 「主人には、まだ何も伝えてないんです。
│ なので、
│ 今ここで、はっきりとは答えられません。
│ ただ、
│ 多分、そうなると思います」
│ 「警察か弁護士に相談することになるだろう・・・ということですね?」
│ 「はい」
│ 「分かりました」
│ そう言った先生は、更に訊きました。
│ 「出産するかどうかについては、
│ 方針未定の欄にチェックが入ってますが、
│ これも、
│ 検査の結果を見て、
│ それから家族で話し合って決める・・・ということですね?」
│ 「はい。
│ 娘には、そうしようと言ってあります」
│ 「そうですか。
│ ウサギさん自身は、どう思っているんですか?」
│ 急に話が振られ、驚いたワタシは、
│ 顔を上げ、先生を見ました。
│ 「え?
│ あの、どういう・・・」って訊き返しました。
│ キーボードを叩いていた先生は、
│ 手を止め、顔をこちらへ向けて言いました。
│ 「あぁ、ゴメンね。
│ ちょっと僕の言葉足らずだったよね。
│ 仮に・・・の話だけれどね、
│ 自分がいま本当に妊娠している、としたときに、
│ 産む意思があるのかどうか・・・ってこと。
│ ウサギさんの、率直な気持ちを知りたくてさ」
│ 「・・・」
│ 「今のところ・・・でいいから。
│ あとで変えてもいいから」
│ ワタシは、ゆっくり下を向きました。
│ 少ししてから、首を振りました。
│ 「分からないです・・・」って答えました。
│ 先生が訊き返しました。
│ 「分からない?」
│ ワタシは答えました。
│ 「はい。
│ 産んではいけない気がするし、
│ でも、
│ 堕ろすのも、なんだかちょっと・・・」
│ 「産んではいけない・・・ってのは、
│ どうしてなの?」
│ 「ワタシは、まだ高校生です。
│ 働いてません。
│ 収入がありません。
│ それに、
│ 産んで育てるとなると、ワタシひとりでは絶対に無理だと思います。
│ 家族に、かなりの迷惑がかかります」
│ 「迷惑ってのは?」
│ 「お金がかかってしまうし、
│ 赤ちゃんの世話も、色々と手伝ってもらわないといけないだろうし・・・」
│ 「妊娠中のあなたも世話してもらわないといけないだろうし、
│ それに、産まれてからの赤ちゃんの夜泣きだって大変だよね?」
│ 「あ。
│ はい、気が付きませんでした・・・」
│ 「堕ろすのも、なんだかちょっと・・・ってのは、
│ 少し抵抗がある・・・って意味で合ってるかい?」
│ 「はい、合ってます」
│ 「分かった。
│ じゃあ、次の質問へ移らせてもらうね」
│ 「はい」
│ 続きます。
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