186.廊下のイスに腰掛け
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│ 廊下のソファに腰掛け、お母さんと一緒に待ってました。
│ 向かい側には診察室の扉があり、
│ それには、大きく《1》って書かれてました。
│ 閉まってました。
│ ワタシは、
│ 膝の上で手を軽く握り、下を向いて座ってました。
│ 震える息のまま、
│ 少しずつ慎重に空気を吸って、少しずつ慎重に吐き出してました。
│ それを、
│ ただひたすら、1回1回繰り返してました。
│ 緊張してました。
│ 途中、息が つっかえてしまって、
│ 口元を手で押さえ、
│ ゲホッ、ゲホッ・・・って咳き込みました。
│ その手を膝に戻し、
│ ハァ、ハァ・・・って、呼吸を整えていると、
│ ワタシの手の上に、
│ お母さんの手が、そっと重ねられました。
│ 「大丈夫?」って訊かれました。
│ ワタシは、
│ そのまま少し、呼吸を整えました。
│ そうして、無言で頷きました。
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│ それからちょっとすると、
│ 向かい側の診察室の扉が、ガラガラ・・・って半分くらい開きました。
│ 女の看護師さんが顔を覗かせ、ワタシを見て、
│ 「大変お待たせしました。ウサギさんですね?」って訊きました。
│ ワタシは慌てて、
│ 「あ、えと・・・、
│ は、はい、そうです」って答えました。
│ 看護師さんは、続けて、
│ 「そちらの方は、ウサギさんのお母様ですか?」と訊きました。
│ 『そうです』って、
│ お母さんと一緒に答えました。
│ 看護師さんは、
│ 「分かりました。
│ では、お母様もご一緒にお入りください」って言って、扉を更に開けてくれて、
│ そうして脇へ寄って、
│ ワタシたちが通れるように、道を空けてくれました。
│ ワタシは、
│ 息をひとつ吐いたあと、立ち上がりました。
│ お母さんが、
│ 少ししてから、
│ 「・・・ほら、行きましょ」って言いました。
│ 呼吸を整えていたワタシは、
│ 「・・・うん」って頷き、顔を上げました。
│ 心臓をバクバクさせ、
│ 緊張し過ぎで吐きそうになってるのを堪えつつ、
│ 診察室の中に入っていきました。
│ 続きます。
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│ 後ろで、扉の閉まる音が聞こえました。
│ 診察室は、白いデスクが横の壁に寄せられていて、
│ そこで、イスに座った男の先生が、
│ デスク上のパソコンの画面を見ながら、キーボードをカタカタと叩いてました。
│ 「待たせちゃってゴメンねー。
│ そこのイスに座っててくれるかなー。
│ もうすぐ始めるからねー。
│ 近くに緑色のカゴがあるでしょ。
│ 軽い荷物は、そこ使っていいからねー。
│ お連れの方も隣に座ってねー。
│ もうちょっとだからねー。待っててねー」
│ そう言われたワタシとお母さんは、
│ 先生の近くに用意されていたイスに腰掛けました。
│ 先生が、
│ パソコンのマウスをカチカチさせつつ、ワタシに尋ねました。
│ 「随分と緊張してたんだって?」
│ 「え? ・・・あ、
│ は、はい、
│ 緊張してました・・・。
│ 今も、緊張してます・・・」
│ 「そうみたいだね。
│ まぁ、
│ ここに初めてくる人、みんな少なからず緊張してるから、
│ そんなに気にしないで」
│ 「あ、
│ はい、分かりました・・・」
│ そう返すと、
│ 先生が、
│ 「・・・よし、
│ じゃあ、始めようか。」って言って、イスを回し、
│ こっちに向き直しました。
│ そうして、
│ ワタシの顔を見るなり言いました。
│ 「おや、
│ どことなくだけど、ちょっと窶れたような顔をしているね。
│ ダイエットじゃないよね?
│ 食事とか水分は、しっかり摂れてる?」
│ ワタシは答えました。
│ 「あ、えと、
│ 両方とも、あんまり摂れてないです・・・。
│ もしかしたら、妊娠悪阻なのかも・・・って」
│ 「妊娠悪阻かどうかは、
│ 検査をして、その結果を見てみないと僕の方からはなんとも言えないけど・・・、
│ でも、ということは、
│ 今、相当につらい状態・・・ってことだよね?」
│ 「はい、つらいです・・・」
│ 「よし、分かった。
│ じゃあ、まずは問診票に書いてくれた内容を改めて確認していくね」
│ 「はい、お願いします」
│ 続きます。
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