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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
184/292

184.行く病院については

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 行く病院については、

│ 予め友達とネットで調べてあって、決めていたところがあったのですが、

│ そこはやめて、

│ お母さんの勧めてくれたところにしました。

│ そこは、

│ ワタシの家から少し歩いたところにある、古い病院でした。

│ 小さい頃、敷地の前を何度か通ったことがあります。

│ 院長先生が女の人で、

│ 診察のとき、いつも親身になって話を聞いてくれるそうです。

│ 昔、誰かからそう聞いた・・・って、

│ お母さん、ワタシに説明しました。

│ 本音を言えば、

│ ワタシとしては、もう少し遠くの方が良かったです。

│ 病院を出入りするときや待合室にいるとき、

│ 知ってる人に顔を見られそうで、ちょっとイヤでした。

│ ただ、それをお母さんに言い出せませんでした。

│ リビングに行ってたお母さんが、

│ 電話の子機を耳に当てて、こっちに戻ってきました。

│ 台所に入ると、

│ その、当てていた子機をワタシに差し出し、

│ 「はい、これ。

│  今、呼び出し中だから」って言いました。

│ 子機を受け取ったワタシは、

│ それを自分の耳に当てました。

│ 電話の呼び出し音が、繰り返し繰り返し鳴ってました。

│ 心臓バクバクでした。

│ ちゃんと喋れるかどうか、不安でいっぱいでした。

│ 落ち着かなきゃ・・・って思って、

│ 無理に深呼吸しようとしました。

│ でも、

│ 吸う息も吐く息も震えてて、上手くできませんでした。

│ 病院の人は、なかなか出ませんでした。

│ 待ってる最中、ふと思い付き、

│ お母さんに、

│ 「一応、お父さんにも(しら)せてからの方が・・・」と訊きました。

│ お母さんが言いました。

│ 「いま報せたって、

│  会社にいるお父さんにはどうしようもないわよ。

│  だいたい、たとえ報せたとしても、

│  お父さん、

│  “なら、

│   すぐに病院に行って、先生に診てもらえ”って、

│  多分、そう言うわよ。

│  どっちにしろ、行くことには変わりないわ。

│  それに、

│  お父さん、

│  変に心配しちゃって、仕事に集中できなくなっちゃう。

│  言うのは、

│  お父さんが帰ってきてからにしましょ」

│ 「・・・」

│ ワタシは、

│ お母さんの顔を、そのまま見ていました。

│ 少ししてから下を向きかけたとき、

│ 電話の向こうで鳴っていた呼び出し音が、急に途切れました。

│ 「はい、○○産婦人科です。

│  大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

│  ご用件はなんでしょうか?」

│ ワタシは、慌てて話し始めました。

│ 「あ、あの、

│  ワタシ・・・、

│  え、えと・・・。

│  あれ?、なんだっけ・・・、

│  えと、えと・・・。

│  あ、すみません、

│  さっきまでは、確か、覚えてたはずなんですけど・・・。

│  えと、

│  その、ちょっと・・・。

│  あ、あぁ、

│  すみません、またあとで かけ直します。

│  ごめんなさい」

│ すると、

│ 病院の人が言ってくれました、

│ 「緊張なさってるんですね?」って。

│ 「あ・・・、

│  は、はい! そうです!

│  ワタシ、今すっごい緊張してます!

│  上手く喋れなくて、ごめんなさい・・・」

│ 「いえいえ、大丈夫ですよ。

│  そういう人、

│  ときどき、いらっしゃいます。

│  あなただけじゃないですよ。

│  では、

│  ご用件については、

│  話しやすいよう、こちらからいくつか質問させて頂き、

│  それに答える形で伺うのはどうでしょう?」

│ 「あ、はい!

│  お願いします! すごい助かります!」

│ 「慌てる必要はありませんからね。

│  落ち着いて、ゆっくりお答えになって下さい。

│  たとえ間違えて答えてしまっても、

│  あとで訂正して頂ければ大丈夫です。

│  それと、

│  分からない質問がありましたら、

│  正直に、

│  分からない・・・と、お答えになってください。

│  無理して答える必要はありませんので。

│  ここまでは宜しいでしょうか?」

│ 「あ、はい。

│  大丈夫です、ありがとうございます」

│ それからは、

│ 病院のスタッフの人に色々と質問してもらって、

│ ワタシは、

│ それに、ひとつひとつ答えていきました。

│ 「・・・だいたい分かりました。ありがとうございます。

│  では、これが最後の質問になります。

│  診察のご予約は、いつにいたしましょうか。

│  ご予約なしで当院へ直接お越しになって頂いても構いませんが、

│  ただ、その場合、

│  混み具合によっては、

│  かなりの時間、待合室でお待たせしてしまうかもしれません」

│ 「えと、あの、

│  ワタシ、できるだけ早い方が良くて・・・。

│  今からそっちに言って、

│  待合室で待ってるのが早いんでしょうか?」

│ ワタシがそう訊くと、

│ スタッフの人が、

│ 「それでも構いませんが、

│  先程、午後の予約にキャンセルがひとつ出ましたので、

│  その時間に予約を入れて頂くのはどうでしょう?

│  えーと、ちょっと待って下さいね、

│  一応、確認しますので。

│  ・・・あぁ、()いてた空いてた。

│  時間は・・・」って、時間を教えてくれました。

│ ワタシは、すぐに言いました。

│ 「あ!

│  じゃあ、その時間にします!

│  その時間に予約します!」

│ 「分かりました。

│  では、予約を入れさせて頂きますね」

│ そのあと、そのスタッフの人に、

│ 診察にかかる費用の目安、

│ 持っていくもの、どんな服装がいいか、

│ 向こうで訊かれるので答えられるようにしておいてほしい質問、

│ 気を付けて欲しいことなどを教えてもらい、

│ それらをメモしたワタシは、

│ お礼を言って、通話を切りました。

│ 子機をテーブルに置いて、

│ 座っているイスの背もたれに寄り掛かりました。

│ ホッと息をつきました。

│ 向かい側のお母さんが言いました。

│ 「お疲れさん。

│  予約入れられて良かったわね。

│  どうだった?」

│ ワタシ、すぐにお母さんに言いました。

│ 「うん!

│  電話の人、すっごい いい人だった!

│  お母さんの教えてくれたところにして良かった。

│  ありがとう」

│ 「そう、

│  なら良かったわ。

│  ほら、入れといたわ」

│ 顔を少し上げると、

│ 麦茶の()がれたグラスが、いつの間にか近くに置いてありました。

│ ワタシは、顔を俯けました。

│ 首を振ってから、言いました。

│ 「ごめんね、

│  多分、飲めないと思う・・・」

│ お母さんが訊きました。

│ 「ツワリ?」

│ 「多分・・・」

│ 「じゃあ、

│  ・・・ちょっと待ってなさい」

│ そう言いながらお母さんは立ち上がり、食器棚の前へ行き、

│ それから、

│ 冷蔵庫の方へ歩いていきました。

│ そして、

│ 少ししてからこっちを振り返り、近くに来て、

│ 持っていた小皿をワタシの前に置いて、言いました。

│ 「ほら、

│  これなら、もしかすると大丈夫だから」

│ 見ると、

│ 小皿の上に、

│ 氷がひとつ、載ってました。

│ 「・・・え?」

│ そう言って、お母さんを見上げると、

│ お母さんが言いました。

│ 「ツワリで水が飲めなくても、氷なら大丈夫・・・って人、

│  結構いるのよ。

│  試してみたら?」

│ ワタシは、

│ 小皿の氷を指で(つま)み、匂いを嗅いで、

│ それから、

│ 恐る恐る、口の中に入れてみました。

│ ちょっと冷たかったけど、大丈夫でした。

│ 乾いてた口に水分が沁み入り、体中に行き渡っていくのを感じました。

│ 生き返ったような気がしました。

│ そのまま、

│ 少しの間、氷を()めていると、

│ 自然と泣けてきてしまいました。

│ お母さんが言いました。

│ 「ほら、2階に戻って休んでなさい。

│  行く時間になったら、起こしてあげるから」

│ ワタシは鼻をすすって、目元を手で拭ってから、

│ 静かに頷きました。

│ そのままイスから立ち上がって、

│ メモを持って、2階の自分の部屋に戻りました。

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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