177.雨がパラパラ降ってきました
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│ 雨がパラパラ降ってきました。
│ 傘を差そうと思い、声をかけようとしたのですが、
│ ただ、彼が、
│ 両手をポケットに入れたまま、物凄く機嫌悪そうにして歩いてたので、
│ 声をなかなか かけられませんでした。
│ 少しすると、雨脚が段々強まってきて、
│ 彼が、
│ 近くにあった階段の下り口を見て、そこに入っていきました。
│ ワタシも ついていきました。
│ 階段を下りた先は地下街になっていて、
│ そこは、駅からちょっと離れてることもあり、
│ 行き交う人は、そんなに多くありませんでした。
│ 通路の両脇に並ぶお店も、ときどきシャッターが下りてました。
│ 途中、十字路があり、
│ 足を止めた彼は、
│ 左右を少し確かめたあと、
│ そこで折れて、また歩き出しました。
│ 突当りにある上り階段が近付いてきて、
│ そのちょっと手前の脇に、喫茶店がありました。
│ 彼とワタシは、そこに入りました。
│ 店内の照明はやや暗めで、
│ 冷房も、ちょっと強めでした。
│ 何かのジャズの曲が、静かな音で流れてました。
│ お客さんは、ほとんどいないみたいでした。
│ ふたりで、
│ お店の一番奥のテーブルの方に歩いていきました。
│ シートに座るなり、彼が横を向いて頬杖をつき、
│ ひとりで色々ブツブツ言ってました。
│ ワタシが、
│ 濡れた髪を自分のタオルで拭いていると、
│ ウェイトレスさんが来て、注文を尋ねました。
│ 彼が、アイスコーヒーを2つ頼みました。
│ しばらくすると、
│ トレイにアイスコーヒーを2つ載せたウェイトレスさんが、また来ました。
│ ワタシたちの前にグラスを置き、
│ 「ミルクとガムシロップは、こちらのバスケットからお取り下さい。
│ では、ごゆっくりどうぞ」って言って、
│ カウンターの方へ下がっていきました。
│ 彼が、
│ テーブルに置いてあるバスケットに手を伸ばしつつ、
│ 「オレに言いたいことがあるんだろ?
│ 早く言えよ」って言いました。
│ ワタシは、
│ 下向いたまま深呼吸して、
│ ちょっと気を落ち着けてから言いました。
│ 「・・・あの、その話なんだけどね、
│ もしかしたら、だけどね、
│ 多分なんだけど、
│ ワタシ、
│ その、もしかしたら、
│ もしかしたら・・・だよ?
│ その、妊娠してるのかも・・・なんて」
│ 下向いたまま、彼の返事を待ってたのですが、
│ 何も返ってきませんでした。
│ ワタシは、
│ 少ししてから、彼を上目でこっそり確認してみました。
│ 彼は、
│ 横向いたまま、手に持ったアイスコーヒーをストローで飲んでいました。
│ そして、
│ そのストローから口を離すと言いました。
│ 「それ、ホントにオレ?」
│ 「え?」
│ 頭が真っ白になりました。
│ ワタシは呆然として、
│ ただ、テーブルの向こうの彼を見てました。
│ 彼が、
│ ストローから口を離し、また言いました。
│ 「それって、
│ 実はオレじゃなくて、誰か別のヤツじゃないの?
│ だって、
│ オレ、いつも つけてたし・・・」
│ ワタシ、
│ 少ししてから彼に言いました。
│ 「・・・だって、あのとき、
│ 1回だけ・・・って。
│ ワタシ、嫌だって言ったのに・・・」
│ 「わ、分かったよ。
│ 泣くなって。ゴメンって。
│ オレが悪かったって」
│ ワタシは、
│ ちょっと気を落ち着けたあと、
│ 「うん・・・」って返しました。
│ 彼が、
│ 「買って調べたのか」って訊きました。
│ ワタシは答えました。
│ 「ううん。
│ 昨日、友達が学校に持ってきてくれてね、
│ それで・・・」
│ 「・・・友達って、さっきの女?」
│ 「うん」
│ そう返すと、
│ 彼の舌打ちが聞こえました。
│ ちょっとしてから、
│ 彼がワタシに尋ねました。
│ 「・・・それって、
│ ホントに、そういう結果だったわけ?
│ あ、
│ いや、勘違いするなよ?
│ オレは、念のために訊いてるだけだからな。
│ あくまで確認のためだからな」
│ 「うん。
│ 線、出てた。友達も見た」
│ 「・・・オレにも見せてみろよ」
│ 「今、持ってない」
│ 「は?
│ なんで?」
│ 「よく分からないけど、
│ 線、もう消えちゃったから・・・」
│ 「じゃあ、
│ やっぱり気のせいだったんじゃ――」
│ 「気のせいなんかじゃないよ!
│ ツワリにだって、もうなってる!」
│ ワタシが大きな声でそう言うと、
│ 彼は、慌てた様子で、
│ 「ゴメンゴメン、悪かったって。
│ そんな大声、出すなって。な?」って言いました。
│ ワタシは、
│ また、ちょっと気を落ち着けました。
│ 「うん・・・」って返しました。
│ 彼が、ため息をつきました。
│ 少ししてから、
│ ワタシは、
│ 「・・・どうしよう」って訊きました、
│ 彼が答えました。
│ 「どうしよう・・・って、
│ そりゃ堕ろすしかないだろ」
│ 「うん・・・。
│ だよね、まだ早いもんね・・・」
│ 「早い、って言うか、
│ まぁ・・・、そうだな・・・」
│ 「・・・」
│ しばらく、お互い無言になりました。
│ また、彼がため息をつきました。
│ その後、
│ アイスコーヒーをストローで、ズズズッ・・・って飲み干し、
│ グラスを置いて、
│ ズボンのポケットから財布を出しました。
│ 「これで足りるだろ」って言って、
│ 1000円札をテーブルに置き、
│ 財布をしまいながら、座ったままシートを横に移動し始めました。
│ 「あ、
│ ワタシも一緒に帰る」って、
│ ワタシも慌てて帰り支度をしようとすると、
│ 彼は、
│ 「いや、ひとりで帰る」って言って、通路に立ちました。
│ ワタシは、その彼に、
│ 「次は?
│ いつ会うの?」って尋ねました。
│ 彼は、
│ 「連絡する、
│ 今夜か明日くらいに」って返しながら、ワタシの横を通り過ぎ、
│ そのままお店を出ていきました。
│ 振り返ったまま、彼を見ていたワタシは、
│ ゆっくり前に向き直し、ため息をひとつつきました。
│ 少ししてから、
│ スマホをバッグから出しました。
│ 友達に送るメッセージを考えていると、
│ ウェイトレスさんが来て、彼のグラスを片付け始め、
│ 次いで、
│ ワタシの、ひと口も飲んでいないアイスコーヒーにも手を伸ばしました。
│ なので、
│ ワタシは慌てて、
│ 「あ、片付けないでいいです。あとで飲みます」って言いました。
│ ウェイトレスさんは、
│ でも、
│ そのまま何も言わずに、ワタシのアイスコーヒーをトレイに載せてしまって、
│ 代わりに、
│ ワタシの前に、オレンジジュースの入ったグラスを置きました。
│ ワタシは、
│ ウェイトレスさんを見て言いました。
│ 「あの、これ・・・」
│ ウェイトレスさんは、
│ テーブルをクロスで拭きながら言いました。
│ 「私からの おごり。
│ これなら気兼ねなく飲めるでしょ。
│ 店長も いいってさ」
│ 「でも・・・」
│ 「なに、
│ あなた、オレンジジュース飲めないの? 嫌い?」
│ 「いえ、
│ そういう意味じゃなくて・・・。
│ その、悪いな・・・って」
│ 「いいの いいの。
│ 黙って受け取っておきなさい」
│ 「・・・はい、ありがとうございます。
│ 店長さんにも、
│ ワタシが感謝してた、って伝えて下さい」
│ 「オッケー。
│ じゃ、ごゆっくり」
│ ワタシは、
│ オレンジジュースをストローでちょっと飲んで、
│ それから、
│ スマホで友達にメッセージを送りました。
│ テーブルにスマホを置いて、
│ ひと息ついて、
│ その後、
│ オレンジジュースを飲もうと、グラスに手を伸ばそうとしたら、
│ 置いてあるスマホが、
│ ブルブル・・・って震えました。
│ スマホを手にとって、確かめてみると、
│ 友達から、
│ 「今どこ?」って返信がありました。
│ ワタシは、
│ すぐ、メッセージを送りました。
│ 「地下にある喫茶店。
│ いいお店だった」
│ 「どこの地下?」
│ 「どこの地下って言うか、
│ あそこの地下街の端っこの方」
│ 「彼氏は?」
│ 「帰った。
│ ワタシもこれから帰る」
│ 「一緒に帰ろ。
│ 私、さっきのコンビニで勉強してて、
│ まだいるから。
│ 話はそのときに改めて聞かせて」
│ 続きます。
│ それと、
│ 勘違いする人がいるかもしれないので、念のため書いておきますが、
│ ワタシにあったことをできるだけ正確に伝えるため、
│ 喫茶店での彼とのやり取りやその前のことをそのまま書きましたけど、
│ 彼は、普段はこんな感じの人ではないです。
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避妊が何らかの理由でできなかったとしても、
12時間以内にアフターピルを飲めば、99%妊娠を避けられますし、
72時間以内であっても、かなりの確率で避けられるそうです。
気になる方は、各自で調べてみて下さい。
それと、
検査薬の結果は、基本的には使用直後(大抵は1分後とか)だけのようです。
時間が経つと陽性を示す線が消えてしまうこともあるし、
また、その逆もあるそうです。
詳しくは、検査薬の説明書を読んで下さい。
最後に、
当たり前のことですが、
検査薬は、あくまで妊娠した”可能性”を調べるためのものです。
本当に妊娠したかどうかは、病院に行って診てもらう必要がありますし、
たとえ検査薬の結果が陰性だったとしても、
その後も生理が来ない、ツワリっぽい症状などの妊娠の兆候が続く場合は、
妊娠を疑って、病院で診てもらった方が良いです。




