171.「それには、こんなことが書かれていた」
「それには、こんなことが書かれていた」
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┃
┃ ワタシは高校生です。
┃ タイトルにも書いた通り、
┃ 今、ワタシのお腹の中に赤ちゃんがいるらしくて、
┃ それで、堕ろそうかちょっと悩んでます。
┃ 皆さんは、どう思いますか?
┃ 意見を聞かせてください。
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「詳しいことが何ひとつ書かれていない、
かなり素っ気ない投稿だった」
「当然、
みんなの反応も、あまり良いものではなかった」
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│
│ 堕ろしたければ堕ろせば?
│ ってか、これ、
│ どう考えても意見を聞かせてください、って態度じゃないよね?
│ 何も書いてないじゃん。
│ たったこれだけの説明で、
│ ウチらに、どんな答えを期待してるわけ?
│ 相談する気、本当にある?
│ ま・さ・か、ウソじゃないよね?
│ ウソなら、即 通報するから。
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│
│ どうせ避妊してなかったんでしょ。
│ せっかく赤ちゃんを授かったんだから、
│ 責任持って産んで、あなたたちの手でちゃんと育ててやりなさいよ。
│ 世の中には、
│ なかなか子供が出来なくて、
│ それで、つらい思いをしながら頑張ってる人もたくさんいるんだから。
│ あなた、その人たちの気持ちを少しは考えたことある?
│ 堕ろすなんて、軽々しく口にするんじゃないよ。
│ 命って、
│ 『ちょっと悩んでる』とか、そういう軽いものじゃないんだよ?
│ 分かる?
│ さっきのはボツったけど、これなら載るよね?
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│
│ 堕ろしたらいいじゃん。
│ 要するに、そう言って欲しいんでしょ?
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「そんな感じの、
掲載基準ギリギリの、辛辣なコメントが多く並んでいた。
でも、中には、
ウサギさんのことを親身になって心配しているコメントも、ときどきあった」
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│
│ 高校生で妊娠って、大変だね・・・。
│ 不安になっちゃうよね。
│ 彼氏やご両親とは、もう相談した?
│ 産むにしても堕ろすにしても、
│ ある程度のまとまったお金が必要になってくるから、
│ もしまだなら、早めに言っておいた方が良いよ。
│ それから、
│ もう夏休みに入ってると思うけど、
│ 一応、学校の先生にも報告しておかないと。
│ あと、お腹にいる赤ちゃんって、
│ 今、何週目くらい?
│ それによっても、だいぶ違ってくるよ。
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│
│ ごめんね。
│ こういう相談って、どうしても荒れやすいの。
│ あんまり気にしないでね。
│ でも、
│ みんなの言う通り、もう少し色々と書いてくれないと、
│ こっちもアドバイスのしようがないよ。
│ ウサギさんの力になってあげたくても、力になれない。
│ あなたとお腹の赤ちゃんのこと、もうちょっと教えてくれない?
│ 自分が妊娠してる、って、
│ いつ、どうやって分かったのか・・・とか、
│ 病院にはもう行ったのか・・・とか、
│ あなたや彼氏さんは、どうするつもりでいるのか・・・とか、
│ お互いの親は、このことを知っているのか・・・とか、
│ もし知っているのなら、なんて言っているのか・・・とか。
│ 書ける範囲で良いから。
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「そして、
そういった色々なコメントが20件近く並んだ先に、
ウサギさんからの返事が付いていた」
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│
│ 全部読みました。
│ 詳しいこと何も書いてなくて、ごめんなさい。
│ 本当は色々と書いてあったのですが、ちょっと長くなり過ぎてしまったので、
│ それで、投稿の直前になって全て消してしまいました。
│ あまりに長いと読んでもらえないかも、って思ってしまって・・・。
│ 今から、また全部書きます。
│ かなり時間がかかると思います。
│ もし宜しければ
│ それを読んだあとで、改めて意見を聞かせてください。
│ お願いします。
│ ワタシのせいで皆さんに不快な思いをさせてしまって、
│ 申し訳ありませんでした。
│
│ ろんりーウサギ
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「その後、
ウサギさんに対する慰めや励ましのコメントが2、3件あって、
それから、
また、ウサギさんの返事が付いていた」
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│
│ かなりの長文ですが、宜しくお願いします。
│ ワタシは、
│ 今、高校3年生です。
│ 妊娠したかも・・・って、最初に思ったのは、
│ 7月上旬でした。
│ 予定日を1週間過ぎても来てなくて、
│ それで、もしかしたら・・・と思いました。
│ そのときの気持ちは、
│ こう書くと怒る人もいると思いますが、
│ 嬉しいと言うよりも、
│ ワタシ、どうなっちゃうんだろう・・・という不安や怖さでいっぱいでした。
│ 親や学校の先生になんて言われるか、
│ 学校中で噂になって、みんなにヒソヒソ話されないか、
│ とても心配でした。
│ 次の日の夕方、
│ 彼に会って、伝えてみました。
│ こう言われました。
│ 『そんなの気のせいだろ。
│ オレ、いつも つけてるじゃん』
│ ただ、
│ ワタシは、やっぱり不安でした。
│ だから、
│ 『一応、検査薬を買って確かめたい』って言ったら、
│ 『大丈夫だって。
│ ストレスとか体の調子とかで1週間くらい遅れることもあるんだろ?』って返されました。
│ 結局、そのときは調べませんでした。
│ でも、それから1週間しても来ませんでした。
│ そのことを、
│ 彼に4日振りに会えたとき、伝えてみたのですが、
│ そうしたら、
│ 『お前、最近ずっと体がだるいとか熱っぽいとか言ってたじゃん。
│ カゼだよ、カゼ。体の調子が悪いだけだよ。気にし過ぎ』って言われました。
│ 二日後の夜、
│ 不安で仕方なくなって、友達に打ち明けました。
│ 友達は、
│ 『それ、絶対に妊娠だよ。
│ ツワリっぽい症状だって出てるんでしょ?
│ だったら、間違いないよ・・・』って言ってくれて、
│ 次の日、
│ お姉さんの検査薬を、学校にこっそり持って来てくれました。
│ 休み時間にトイレで調べました。
│ 陽性でした。
│ ショックはそれほどありませんでした。
│ やっぱり、って感じで、
│ むしろ、逆にスッキリしました。
│ トイレを出たあと、
│ 友達の待つ、渡り廊下に行きました。
│ 友達は、
│ ひとりで外を眺めるフリして立っていたので、ワタシもその横に並び、
│ 近くに人がいないタイミングを見計らい、スカートのポケットから検査薬を出し、
│ 前を向いたまま、隣の友達に渡しました。
│ ちょっと間があって、ワタシの手に検査薬が返ってきたので、
│ ワタシは、それをスカートのポケットに戻しました。
│ 友達が、
│ 『・・・やっぱ、そうだったんだ』って言いました。
│ ワタシは、
│ 『うん、そうみたい・・・』って返しました。
│ 少しすると、
│ 隣で、鼻をすする音がしたので、
│ すぐにそっちを見ると、
│ 友達が顔を俯け、涙ぐんでいました。
│ ワタシは慌てて、
│ 『あの、
│ ワタシ、大丈夫だから。平気だから』って言いました。
│ 友達は、
│ 鼻をすすって、目元の涙を手で拭ったあと、
│ 『うん・・・』って返しました。
│
│ 次の休み時間になると、すぐに友達がワタシの教室に来てくれました。
│ ふたりで、
│ あまり人のいない、図書室前の廊下に行きました。
│ 友達が、
│ 『いつ言うの?』って訊きました。
│ ワタシが、
│ 『多分、明日かな・・・。
│ 彼、今日はバイトで忙しい日だし、
│ こういうことって、会って直接言った方が良いと思うし』って答えたら、
│ 友達が、
│ 『今日言わなきゃダメ!
│ あと、
│ 私、あんたの彼氏のこと絶対に許せない!
│ 文句言ってやる。一緒に行く!』って怒り出したので、
│ 一緒に行くのは、なんとか我慢してもらって、
│ それで、
│ 学校が終わったあと、スマホで彼にメッセージを送りました。
│ 《大事な話があるから、どうしても今日中に会いたい》って書きました。
│ すぐ既読になったのですが、
│ それから10分くらい経っても返事が来なかったので、
│ 《何時になっても良いから、どうしても会いたい》って、もう一度送りました。
│ 5分後くらいに返事が来ました。
│ 《夜の11時過ぎなら、たぶん会えると思うけど》って書いてありました。
│ ワタシは、
│ 《良かった。ありがとう。
│ どこで会う?》って書いて送りました。
│ すぐに返事が来ました。
│ 《いつものコンビニで待ってて。
│ バイトが終わったら車で迎えに行くから。
│ でも、多分だからな。
│ もしかしたら急用で行けないかもしれないからな》って書いてありました。
│ ワタシは、
│ 《分かった、夜の11時くらいにコンビニで待ってる。
│ 来れないようなら連絡して》って送って、
│ それで、彼とのやり取りを終えました。
│ 隣でワタシの様子を見守っていた友達に、そのやり取りの内容を伝えると、
│ 物凄く怒り始めちゃって、
│ 『やっぱり私も一緒に行く! 許せない!』って、また言い出したのですが、
│ 必死に宥めて、
│ なんとか遠慮してもらいました。
│ ちなみに、
│ ワタシの友達は、この話では怒ってばかりいますが、
│ 普段は、こんなに怒ったりする人じゃありません。
│ ワタシが、うっかりミスして迷惑をかけてしまっても、
│ いつも笑って許してくれて、
│ 逆にワタシのことを心配してくれるような、とても優しい人です。
│ 次に続きます。
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