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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
167/292

167.「急いで帰ってきて、疲れてたせいか・・・」

「急いで帰ってきて、疲れてたせいか、

 部屋の電気を点けたまま、いつの間にか眠っていた。

 時計を見ると、夜の12時半だった。

 お腹が、グゥゥ・・・って鳴った。

 喉も渇いてた。

 そのまま、ベッドの上でじぃっと我慢してたんだけど、

 でも、少ししてから起き上がった。

 やっぱり、お勝手に行こうと思った」


「部屋のドアに近付くと、

 微かに、声が聞こえてきた。

 じいちゃんとばあちゃんの声だった。

 話をしているみたいだった」


「僕は、

 自分の耳をドアに押し付け、様子を探った。

 じいちゃんたちは、茶の間にいるみたいだった」


「僕は、

 それを確認すると、耳を離した。

 ドアノブを静かに握って、

 ドアを、

 そーっと、少しだけ開けた。

 ばあちゃんの声が、はっきりと聞こえるようになった」


「それで、その電話、

 いつ、かかってくるの?」


「続いて、

 じいちゃんの声が聞こえてきた」


「『こっちでの仕事の都合もあるし、今夜いっぱい考えさせて欲しい。

  明日の朝か昼に、電話する』って言ってたから、

 8時とか12時とかだろ」


「でも、

 あの子に何も言わずに、

 明日、いきなり会わすなんて」


「言ったら、ろくに考えんと、

 会いたくない・・・って、また言うに決まっとる」


「確かにそうかもしれないけど、

 でも、

 あの子には、あの子なりの考えがあるわけだし・・・」


「会って、ちょっと話をさせるだけじゃないか。

 それの何がいけないんだ。

 さっきも言ったけど、

 別に、

 その場ですぐに結論を出させる・・・って言ってるわけじゃない」


「でも・・・」


「だいたい、

 お前は、普段からアイツを甘やかし過ぎだ。

 今年になって、帰ってくるのが急に遅くなったし・・・。

 今日だって、

 ひとりで喫茶店に行った・・・って、アイツは言い張ってたけど、

 そんなの、絶対ウソに決まっとる。

 まったく、

 あんな遅い時間まで、どこをほっつき歩いてるんだか・・・」


「ねぇ、

 そのことなんだけど、ちょっと変じゃないかしら・・・」


「何が?」


「あの子、学校や部活のことを全然話したがらないの。

 無理して訊いても、『普通』って言うだけだし」


「ただの反抗期だろ。

 わざわざ気にするほどのものでもない」


「あと、

 最近になって、よく物を失くすようになったの。

 消しゴムとか下敷きとかノートとか、サッカーの脛当てとか。

 靴とか服とかも、よく汚すようになったし・・・」


「・・・そうなのか」


「そうなの。それに・・・、

 ねぇ、知ってる?、

 あの子、

 ときどき、部屋でため息をついてるのよ。

 イスに座ったまま、つまらなそうな顔して下を向いて・・・。

 あの子、

 もしかしたら、私たちに何か隠してるんじゃないかしら。

 言えないことがあるんじゃないかしら」


「・・・言えないこと、って何だ」


「それは――」


「僕は、

 その瞬間、慌ててドアを閉めた」


「すぐに部屋の電気を消し、

 ベッドの中に潜り込んで、掛け布団を頭からかぶった」


「それ以上、何も聞きたくなかった」



「朝になった。

 僕は、ドアの前に立っていた。

 1度、深呼吸し、

 それから、

 ドアを静かに開けて、部屋を出た」


「お勝手の前を通りかかった。

 そうっと中を覗くと、

 ばあちゃんが、食器を洗っていた。

 僕は、

 気付かれないよう、そのまま通り過ぎようとした。

 でも、

 ばあちゃんが、不意に蛇口の水を止めて、

 すぐに、こっちを振り返った」


「あら、おはよう。

 これから出掛けるの?。

 朝ご飯は?」


「僕は、

 急に言われて少し焦ったけど、咄嗟に何とか答えた」


「ううん、いい。

 冷蔵庫の中にあったヤツを食べたの、朝早くだから。

 まだ、あんまりお腹減ってない」


「なら良いんだけど・・・。

 ところで、

 これから、どこに出掛けるの?」


「僕が、

 自転車屋さん・・・って答えようとしたところで、

 茶の間の電話が鳴った。

 ばあちゃんは、ハッとした顔になった。

 それから、

 『また、あとでね』って僕に言いながら、廊下に出て、

 そのまま、急ぎ足で電話を取りに向かった」


「僕は、少ししてから、

 茶の間の手前まで行き、こっそりと中を覗いた。

 そうして、

 ばあちゃんがこっちに背を向け、電話で話してるのを確認すると、

 その後ろを、サッと通り過ぎた」


「玄関に着くなり、靴の中に足を突っ込み、

 玄関の戸を慎重に、

 でも、出来るだけ急いで開けていった。

 そして、

 少しだけ空いた隙間をすり抜け、外に出て、

 後ろを振り向き、

 戸を、

 また、慎重に閉じていって、

 すぐさま道路の方に向き直し、駆け出した」


「角を曲がったところで走るのをやめた僕は、その場でしゃがんだ。

 履きかけだった靴を、

 左右とも、しっかりと履き直し、

 立ち上がって、

 そのまま、ゆっくりと歩き始めた」


「朝の、

 まだ人があんまりいない、静かな商店街の道をトボトボ歩きながら、

 ちょっと考えて、

 やっぱり、駅に行こうと思った」


「色々な嫌なことから離れたかった」


「これ以上、何も考えたくなかったし、

 全部が、

 もう、どうでも良かった」


「なるべく遠くに行きたいと思った」



「そうして僕は駅に行って、

 改札を抜け、ちょうどホームに入ってきた電車に乗って、

 それで、終点のタチヤマまで来たんだ」


「河原の石に座って、

 これからどうしよう・・・って、

 ひとり、ため息をついて、

 目の前の、川の水を、

 ただ、ぼーっと眺めていたんだ」

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