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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
163/292

163.「夏休みになった」

「夏休みになった」


「夏休みの間の、プールの授業は、

 泳げる人は自由参加だったから、僕は行かなかった」


「サッカーの部活も、ちょくちょくあった。

 でも、そっちも行かなかった」


「朝、

 部活に行くフリをして、体操袋を持って家を出ると、

 そのまま、ちょっと遠くの図書館へ向かった。

 そして、

 中に入って、空いてる席に座って、

 体操袋の中から筆箱と夏休みの宿題を出して、

 中学生とか高校生の人たちに混じって、その宿題を解いた」


「お昼近くになったら、

 一旦、家に戻った。

 それで、

 お昼ご飯を食べ終わったら、すぐにサッカーボールを持って自転車で出掛けて、

 川沿いにある、いつもの公園に行って、

 ひとりでサッカーの練習をして、

 それが嫌になってきたら、

 自転車に乗って、

 汗を乾かしながら、そこら辺をブラブラ走って、

 疲れてきたら、どこかのお店に入って時間を潰した」


「家に帰るのは、だいたい6時半くらいだった。

 夏休みが始まって、何日か経ったとき、

 あまり知らない街を自転車で走ってたら迷子になっちゃって、

 それで、帰るのがその時間になってしまった。

 茶の間に入った瞬間、じいちゃんにジロッて睨まれたけど、

 でも、ばあちゃんが、

 『まぁまぁ。

  今は夏休みだし、外もまだ明るいから』って言ってくれて、

 怒られなくて済んで、

 それからは、毎日6時半くらいに帰るようになった」


「ある夜、

 家族3人で晩ご飯を食べていると、

 サッカー部の、対外試合の話になった。

 じいちゃんが訊いた」


「ばあちゃんと一緒に観に行くけど、試合は何時からだ」


「僕は答えた」


「今日、足をちょっと(くじ)いちゃって、

 まだ痛いから、たぶん試合に出れない」


「それを聞いたばあちゃんが、

 『そういうことは早く言いなさい』って言いながら、

 すぐに立ち上がって、仏間に行って、

 救急箱を持って帰ってきた」


「僕は、

 『そこまでしなくて良いよ、平気だから』って言ったんだけど、

 でも、ばあちゃんは、

 『そんなこと言って、あとで痛くなったらどうすんのよ』って言いながら、

 僕の足首に湿布を貼って、

 せっせと手を動かして、包帯をグルグル巻いた」


「申し訳ない気持ちでいっぱいだった」



「8月13日」


「お盆の日」


「九州のじいちゃんとばあちゃん、カシナの叔父さんとその家族が、

 今年も家に来た」


「いつものように、夕方くらいに玄関でお出迎えして、

 茶の間に集まって、みんなでお話して、

 夜になると、店屋物で取ったお寿司を食べて、

 その後、家の前で花火をして、

 次の日、

 みんなで、母さんの墓参りに出掛けた」


「僕は、ずっと下を向いていた。

 話しかけられても、ほとんど何も返さなかった」


「『うん・・・』とか『別に・・・』とか、そんな返事ばっかりで、

 そのうち、

 誰も僕に話しかけなくなった」


「僕は、

 みんなで外に出掛けるとき以外は、

 ひとり、自分の部屋に()もって、

 ノートに落書きしたり、

 折り紙したり、

 漫画を読んだりして過ごしていた」


「夏休みの宿題は、絵だけやった。

 それ以外は、

 もう、とっくに終わっていた」



「8月15日」


「朝からみんなで水族館に行って、4時くらいに家に戻ってきて、

 その後、

 九州のじいちゃんたちも、カシナの叔父さんたちも、

 それぞれ自分たちの荷物を持って、自分たちの家に帰っていった。

 いつもは16日に帰るのに、今年は1日早かった」


「みんな、何も言わなかった」


「僕も、何も訊かなかった」

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