160.「太陽が沈んで、辺りが段々と暗くなってきた」
「太陽が沈んで、辺りが段々と暗くなってきた」
「遊歩道には、
僕だけが、まだ残っていて、
石で出来た作品の周りを、ずっとウロウロとしていた」
「脛当てが、
片方だけ、どうしても見付からなかった」
「アイツらは、
もうとっくに帰っていた」
「ひとりきりで、
一生懸命、探し続けていた」
「夜になり、
ついに、ほとんど何も見えなくなった」
「脛当て探しを一旦諦めた僕は、
ひとまず、家に帰ることにした」
「歩いてる最中、
どうやって言い訳しよう・・・って、ずっと考えていた」
「家の前に着いた」
「門の外で、
おじいちゃんたちが立って待ってるかもしれない・・・って、心配したけど、
そんなこと無かった。
誰も立っていなかった」
「ちょっと、ホッとした」
「玄関の前にもいなかったけど、
でも、
その代わり、玄関の明かりは点いていた。
僕は、
音をさせないよう、静かに庭を歩いていった」
「玄関まで来ると、
少しの間、そこでじぃっとして、
それから、手を戸にかけると、
ドキドキしながら、そうっと開けた。
鍵は、かかっていなかった」
「ただいま・・・」
「小さな声でそう言って、中に入った。
開けた戸を、音がしないように静かに閉め、
鍵をかけ、
靴を脱いで、家に上がった」
「廊下を歩いて、茶の間の前に差し掛かると、
新聞を畳む音と、じいちゃんの声が聞こえた」
「ちょっとこっちに来なさい」
「僕は足を止めた。
俯いたまま、黙って茶の間に入っていった」
「じいちゃん、
昨日の夜、お前に何て言った?」
「ちゃぶ台の前に立つと、
じいちゃんが、そう言った。
僕は、
下を向いたまま、小さく答えた」
「・・・もうちょっと早くに帰ってきなさい」
「それで、
今、何時だ?」
「僕は、壁の時計を見て、
時間を確認してから、答えた」
「・・・7時50分」
「これのどこが早いんだ。
言ってみろ」
「僕は黙っていた。
少しして、
じいちゃんが、また訊いた」
「早い時間なのか?、7時50分ってのは」
「・・・遅いです」
「こんな時間まで何してた」
「・・・公園でサッカーしてました」
「ずっとか?」
「・・・はい」
「本当か?。
暗くて、ボールも見えないだろ」
「電気が点いてて、明るかったから・・・」
「誰とサッカーしてたんだ」
「友達・・・」
「友達って、誰だ?。
なに君だ?」
「僕は黙っていた。
ただ、
自分の、靴下を履いた足をじぃっと見ていた。
お腹や背中、腕や足が、
ジンジンと痛んだ。
お勝手で食器を洗っている音が、よく聞こえた。
しばらくしてから、
じいちゃんがため息をついて、僕に言った」
「お前のご飯は、じいちゃんが下げさせた。
今夜は無しだ」
「はい、分かりました・・・」
「明日は、6時には帰ってきなさい」
「はい・・・」
「本当に分かったのか?」
「はい・・・」
「じゃあ、
帰ってくるのは何時までだ、言ってみろ」
「6時です・・・」
「6時まで、だ。
必ず守れ。
いいか、
1分でも遅れたら、
そのときは、明日も夜ご飯を食べさせないからな。
分かったな」
「はい、分かりました・・・」
「じゃあ、もう行ってよろしい」
「はい・・・」
「僕は、
俯いたまま、ゆっくりと後ろへ向き直した。
部屋の出口に向かって歩き出すと、
後ろからすぐに、
長い大きなため息と、新聞を広げる音が聞こえた」
「まったく、
こんな出来の悪い子じゃ、せっかく生んだ母さんも浮かばれんわ・・・」
「じいちゃんが、そう呟いた。
僕は、茶の間をそのまま出ていった。
廊下をトボトボ歩いて、自分の部屋に戻り、
ドアを閉めた」
次の161話は、描写を出来るだけマイルドにしたつもりですが、
人によっては、それでもキツイと思います。
読まなくともそんなには影響はない・・・と私は思っていますので、
読みたくない人は1話飛ばし、読むのを162話から再開すると良いです。




