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Summer Echo  作者: イワオウギ
16/289

16.階段を上りきり、右を向く

階段を上りきり、右を向く。

奥に、ケーブルカーの改札口。

そこに据え置かれている、銀色で四角いボックス型のラッチの中には、

改札のための駅員が立っていた。

黒い制帽に、白い半袖カッターシャツ。

駅員と言うより、

どちらかと言えば、運転士のような格好をしていて、

正面を、じぃっと見ていた。

周囲の人影は(まば)ら。

行列は、今は無くなっている。


少年と一緒に、そちらへ歩いていくと、

その駅員が、顔をこちらに向けた。

私たちに、大声で呼びかける。


「もうすぐの出発です。お急ぎ下さーい」


「走ろう」


私は、そう言って駆け出した。


「分かった」


少年は、短く返事をし、

腕を横に振って、走って私についてきた。



チケットに、日付と駅名入りのスタンプを押してもらい、

改札を抜ける。

右手側に階段の上り口があり、

3mほど向こうに、

似たような上り口が、もうひとつ。

2つの上り階段が、

ちょっと間隔を空けて、双子のように平行に並んでいて、

ともに右へ上っている。

乗り場は、奥の階段のようだ。

突き当たりの壁の標識に、

右斜め上の赤い矢印とともに、《ケーブルカーのりば》と書かれている。


その双子の階段の、2つの上り口の間にある幅3mほどの隙間には、

真っ黒い金属板が、ほぼピッタリに収まっていて、

金属板の中央には、

鮮やかなオレンジ色のボックスが据え付けられていた。

高さは私の目線くらいで、横幅は大人ふたり分。

窓が四方にあり、ドアも側面に付いている。


運転室のようだ。

それらしい機器が、

窓の向こうに、いくつか並んでいる。

無人。

下りのときに使うのだろう。


ひとつ目の階段を足早に通り過ぎつつ、運転室の中をチラリと覗いた私は、

そのまま視線を上に向ける。

運転室の土台の、真っ黒な金属のシャーシは、

階段と同じ勾配(こうばい)で、向こうにまっすぐ上っている。

そのシャーシの上り坂のちょっと奥の、高いところには、

荷台が水平に、まるで坂の途中にある展望台のように設置されていて、

更に奥には、

運転室と同じオレンジ色をした、ケーブルカー本体の大きな後ろ姿。

窓の向こうには観光客たち。

たくさん乗っている。


そのケーブルカー本体のすぐ左の、上り階段の途中には、

若そうな駅員が、ひとり立っていた。

20段くらい上の高さから、

下にいる私たちを、じぃっと見ている。

階段には、他に人はいない。

その駅員だけだった。


「急ごう」


そう言った私は、

顔を下に向け、最初の段に足を乗せると、

そこからは、階段を1段飛ばしで駆け上がり始めた。


「危ないですから走らないで下さーい!」


すぐさま、上から大きな声が飛んできた。

私は、走るのをやめた。

そのまま階段を、

1段ずつ、早足で上っていく。

少年の方は、なるべく見ないようにした。

多分、

ちょっとだけ顔が赤くなっていた。



「ホームとの隙間にご注意して、お乗り下さい」


駅員が、

乗り込み口のところで、私たちに告げた。


「ほら、先に」


少年の方を顔を向け、片手で促す。

少年は、

私を見上げたあと、すぐにホームとの隙間に視線を落とした。

ひと呼吸置いてから、

ゆっくり、

右足、左足と、ケーブルカーの中へ足を運ぶ。

車内に立つと顔を上げ、

周囲をキョロキョロと見回しつつ、奥へと進んでいく。

私も、

少年に続き、ケーブルカーに乗り込んだ。

2020年現在、

実在の立山駅でチケットを購入する場合はケーブルカーに乗る時間を指定する必要があり、

その乗車時間もチケットにしっかりと印刷されるようです。

なので、

今回の話のようなドタバタ劇は、実際にはほぼ起きないと思います。

ケーブルカー乗り場へは、慌てずにゆっくりとお向かいください。

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