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Summer Echo  作者: イワオウギ
I
16/301

14.スマートフォンを差し出したまま

スマートフォンを差し出したまま、

私は、返答をじっと待つ。

少年の、黒い頭を黙って見つめて、

呼吸を、ただ繰り返す。


少年は、ずっと俯いていた。

両腕とも、まっすぐ下ろされ、

その先には、

小さなコブシが、ぎゅっと握られている。

華奢(きゃしゃ)な左右の肩が、僅かに持ち上がり、

そのまま、ゆっくりと下ろされ、

また、肩が僅かに持ち上がり、

また、ゆっくりと下ろされ・・・。

少年は、何も答えない。


何人もの観光客たちが、

私たちの、すぐ近くを通り過ぎて行く。

少し変に思われたかもしれない。

正直、居心地は悪かった。

しかし、私は辛抱した。

静かに待つ。

時間の流れが、とても遅く感じられた。

周囲の雑踏の音が、私の耳に大きく響く。



「僕、家に帰るから・・・。約束するから・・・」


少ししてから、

少年の、今にも消え入りそうな、

か細い声が聞こえてきた。

最後の方は、ちょっと裏返っていた。


私は、

自分のすぐ目の前で項垂(うなだ)れている、少年の小さな頭を、

黙って見ていた。

胸の奥が、

きゅう・・・っと締め付けられる。


私は、鼻で大きく息を吸い込んだ。

深く深く吸い込んでいき、

今度は、そのまま、

ゆっくりと鼻から出していく。

視線を、差し出したままのスマートフォンに移し、

じっと見つめて、

しばらくしてから、それを引っ込める。


「・・・分かった、」


スマートフォンをスーツの内ポケットに戻しつつ、

私は少年に目を向け、更に続けた。


「その代わり・・・」


「・・・」


「その代わり、必ず今日中に家に帰るんだぞ」


念を押すと、

少し間を置いてから、

少年は顔を俯けたままで、小さく頷いた。


「・・・うん」


少し、かすれていた。


「・・・約束だぞ」


少年は、私を見上げた。

頬が僅かに赤い。

目も、少しだけ潤んでいる。


「うん、分かった・・・」


少年は、

再び、小さく頷いた。

私は、

その少年の頭に、手をそっと置きたくなった。

しかし、すんでのところで我慢した。


「・・・悪かった」


私は、

少年の目を見て謝った。


「え?」


「いや、ちょっと怖がらせた」


少年は、

すぐに首を横に振った。


「ううん、」


そして、顔を下に向け、

目元を左右の手で擦りつつ、


「僕、へいきだから・・・」


と言ってから、

また、私を見上げた。

顔をしかめて、鼻をすする。


「・・・じゃあ、チケットを買いに行こうか」


私は、

努めて明るい声を出し、そう言って、

チケット売り場の方に向き直した。

そのまま足を踏み出す。

少し遅れて、少年がパタパタと走ってきて、

私の隣に来た。

ふたり並んで歩いていく。


「ところでさ、何でダムに行きたいの?」


私は足を動かしつつ、

念のため、訊いてみた。


「僕も、ダムが面白いか見に行く」


私は、

少年の耳に入らぬよう、こっそりとため息をついた。

やっぱり話すべきじゃなかったな・・・と、後悔した。

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