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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
159/292

159.「7月7日」

「7月7日」


「月曜か火曜だったと思う」


「放課後になって、サッカーの部活が始まった」



「腕組みをした顧問の先生の前で、みんなで順番に壁シューをしているときだった。

 自分の番が終わった6年の男子が、先生の方を振り向いて言った」


「先生、トイレに行ってきます」


「先生が、その男子を見て頷くと、

 壁シューのコンビ相手の男子も、手を上げて言った」


「あ、先生、

 俺もトイレに行きます」


「先生は、そっちの男子にも頷くと、

 壁シューを続けている僕たちの方に、顔を戻した」


「ふたりの男子は練習を抜けて、

 校庭のトイレの方へと、お喋りをしながら歩いていった」



「それからしばらくして、

 僕たちが、2対2をやっているときだった。

 自分たちの番が終わり、列に戻ろうとした男子に、

 顧問の先生が訊いた」


「おい、

 そう言えば、さっきトイレに行ったふたりはどうした?」


「まだ戻ってきていません」


「訊かれた男子が、そう答えると、

 先生は、

 自分の腕時計を見てから、その男子に言った」


「悪いけど、

 ちょっとトイレに行って、ふたりの様子を見てきてくれるか?」



「様子を見に行った男子は、すぐに戻ってきた」


「その後ろには、

 さっきの、ふたりの男子がいた」


「おう、

 見てきてくれて、ありがとな。

 お前は練習に戻ってくれ」


「先生は、そう言ってから、

 ふたりの男子の方に目を向けて、改めて言った」


「一応、訊いておくけどな・・・、

 お前ら、本当に今までずっとトイレで用を足していたのか?。

 17分も必要だったのか?」


「ふたりとも、下を向いたまま返事をしなかった。

 先生は、ちょっと間を置いて尋ねた」


「お前ら、何やってた?」


「ふたりのうちの片方が、少ししてから答えた」


「小便を――」

「バカ。そのあとだ」


「ちょっと話を・・・」


「ちょっと?。

 10分以上は、ちょっとなのか?」


「いや、ちょっとじゃないです・・・」


「確か先週も同じようなことで、

 先生、お前らに注意したよな?。

 覚えてるか?」


「はい・・・」


「なら、どうしてまたやったんだ」


「ふたりとも、何も言わなかった。

 黙ったままだった。

 先生は、

 少ししてから、ため息をつき、

 ふたりに言った」


「次からは気を付けろよ。

 じゃあ、練習に戻れ」


「はい・・・」



「5時になって、部活が終わった」


「シーンとした多目的教室で、ひとりで服を着替え、

 ランドセルとか体操袋とかを持って昇降口に下りていくと、

 靴箱には、

 思った通り、僕の靴は無かった」


「僕は、

 持っていた荷物を置いて、上履きのまま外に出た。

 昇降口の正面にある花壇の方へ、まっすぐ進む」


「歩いてる途中で、

 やっぱりな・・・ってなった」


「たくさん咲いた薄いピンクの花と、その葉っぱの下に、

 逆さになったスニーカーが、ちらっと見えていた」


「近くに行って、そのスニーカーを拾い上げた僕は、

 左右順番に、

 形を手で元に戻したあと、軽く(はた)いてホコリを落とし、

 それから、

 昇降口に戻って上履きを脱ぎ、スニーカーを履いた。

 そうして、学校の正門を通って道路に出ると、

 いつもとは逆の方向の、右に曲がった」



「ひとけの無い、寂しい感じの遊歩道を歩いてて、

 途中にある、大きな石の作品の前まで来たときだった」


「俺らから逃げられると思ってたんか。ばーか」


「そう言いながら、

 石の作品の裏から、サッカー部の6年の男子たちが出てきた。

 3人だった」


「その瞬間、

 血の気が、サー・・・って引いた。

 いつの間にか呼吸を口でしてて、

 胸が押し潰されたような、苦しくて嫌な気持ちが一気に込み上げてきて、

 心臓も、破裂しそうなくらいバクバクと大きな音を立てて動き始めた。

 逃げよう・・・って思った。

 でも、

 追いつかれたらどうしよう・・・って考えちゃって、

 それで、逃げるのをやめてしまった。

 遊歩道の真ん中で、ひとり立ち尽くしていた僕は、

 そのまま、静かに下を向いた」


「おい、

 お前、何で遠回りして帰ろうと思ったんだよ?。

 言ってみろよ。あ?」


「男子のひとりが、

 そう言いながら、僕の首に横から腕を回してきて、

 腕に力を入れた」


「こっちは全部お見通しなんだ・・・よ!」


「ふたりめの男子が、

 ヘッドロックで前屈みになっていた僕を、後ろから思いっきり蹴った。

 僕は、

 足を前に出すのがちょっと遅れて、立ちにくい格好になった。

 首に回されていた腕が、余計に食い込み、

 ゴホッ、ゴホッ・・・って()き込んでいると、

 ふたりめのソイツは、

 『死ねよ』とか『オラッ』とか言いながら、僕を後ろから何度も何度も蹴り続けた。

 少しすると、

 3人めの男子が、スマホ片手に近付いてきて報告した」


「他を見張ってた連中も、すぐ来るってさ」


「ヘッドロックをかけていた男子は、

 それを聞くと腕の力を更にキツくして、僕に言った」


「お前が逃げようとしたから、

 だから俺ら、

 今、相当ムカついてんだ。

 お前が悪いんだからな・・・、こうなったのは」



「多分、5分もしないうちに、

 みんな、集まってきた」


「あ、いるいる。

 ホントにいるじゃん」


「何やって遊ぶー?」


「前って、コイツに何やったんだっけ。

 俺、全然覚えてねーわ」


「俺もー」


「テープじゃね?」


「あぁ、確かに。

 そんな気がするわ」


「プロレスにしようぜ、プロレスー。

 俺、

 きのう動画で、カッコいい技発見してさー。

 お前らに見せてやんよ。

 マジ、スゲーから」


「空手は?。

 俺、コイツに3発くらい回し蹴り決めたいんだけど。

 今日、コイツのせいで相当ムカついたからさ」


「好きな技、順番にかけたらいいんじゃね?。

 それよりさー、

 お前、見張っとけよなー。

 早く行けよ。

 誰かに見られたらヤバいだろ」


「・・・集まってきたヤツらは、

 そんなことを言いながら、ランドセルや荷物を下ろしていった」


「全部で10人だった」


「僕は、

 ヘッドロックをかけられたまま、持っていた体操袋とランドセルを取られ、

 地面に倒され、

 そのまま、みんなの技の実験台にされた」



「次、誰ー?」


「もう、みんな終わったんじゃねーの?」


「じゃ、

 俺、もう1回やるわ。

 さっき、ちょっと失敗したし」


「そういや、お前、

 短冊のあれ、すげー危なかったよな。

 あと少しでバレそうだったじゃん」


「なになになに、短冊のあれって何?。

 教えろよ」


「コイツが早く自殺しますように・・・って短冊に書いて、笹に付けて、

 それで、

 ちょっと離れてダベってたら、いつの間にか先公が笹のとこにいて、

 短冊を1コずつ読んでてさー」


「うわ、やっべー」


「で、

 慌てて笹のとこ行って、その短冊はずそうとしたんだけど全然取れなくて、

 しょーがねーから千切って、ダッシュして戻ってきた・・・ってヤツ」


「うわぁ・・・」


「でもさー、

 コイツがホントに自殺したら、俺らやべーよな」


「何で?」


「イジメてたのがバレるじゃん」


「だいじょぶ、だいじょぶ。

 意外と死なねーし。

 つーか、

 寧ろ死んでくれた方がラッキーじゃね?」


「ひっでー」


「じゃ、

 俺、今からもう1回やるから、

 お前ら、

 後ろからコイツ、抑えてろ。

 今度こそ上手く決めるからよ」

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