158.「7月に入って、最初の日曜日」
「7月に入って、最初の日曜日」
「その日、
午前中は近所の本屋で、いつも通り適当に時間を潰して、
午後は、
家でお昼ご飯を食べてから、ちょっと遠くにある川沿いの公園へ出掛けた。
持っていったボールで、
ひとりでリフティングをしたり、ドリブルの色々な技を練習したりして、
それに飽きたら、
木陰にあるベンチに座って、
空の雲を見上げながら、セミの鳴き声や近くを通り過ぎていく車の音を聞いて、
ずうっとボーッとしていた。
そうして、辺りが少し暗くなり始めるのを待ってから、
僕は、
駐めていた自転車に乗って、家へ帰った」
「茶の間では、
じいちゃんもばあちゃんも、
もう、ちゃぶ台についていた。
じいちゃんは新聞を読んでいて、ばあちゃんはテレビを観ていた。
僕が部屋に入っても、
ふたりとも何も言わなかったし、僕の方を見ることもしなかった」
「じいちゃんは、
ため息をひとつ吐いてから、読んでいた新聞を畳んだ。
そして、
手を合わせ、黙ってご飯を食べ始めた。
ばあちゃんは、
リモコンでテレビを消すと、手を合わせ、
静かに『いただきます・・・』と呟き、ご飯を食べ始めた。
僕も、
小さな声で『いただきます』を言ってから食べ始めた。
会話は無かった。
食器に当たる箸の音が、よく聞こえた」
「しばらくして、じいちゃんが訊いた」
「午前中、お前はどこに行っとったんだ」
「僕は、
下を向いたまま、何も答えなかった。
黙ってご飯を食べ続けていた」
「少ししてから、
じいちゃんが、また訊いた」
「今日は子供会だったはずだろ。
どうして行かなかったんだ」
「僕は、
ちょっと間を置いてから言った」
「・・・忘れてた」
「忘れてた?。
今朝、ばあちゃんがお前に言ったろうが」
「僕は、何も答えなかった。
ただ、
下を向いたまま、ゆっくりご飯を食べ続けていた」
「じいちゃんは、やがてため息をつき、
僕に言った」
「・・・誰と遊んでいるのか知らないが、もうちょっと早くに帰ってきなさい」
「僕は、何も言わずに頷いた」
「ちゃんと返事をしなさい」
「はい・・・。
次は、もうちょっと早く帰ってきます・・・」
「僕が、
小さな声でそう返すと、
じいちゃんは、またため息をついた。
そして、
脇にあった新聞を持って、立ち上がった」
「まったく、
どうしてこんな子に育ってしまったんだ・・・」
「そう呟いて、そのまま茶の間を出ていった」
「僕も、少ししてからご飯を食べ終わった」
「静かにごちそうさまをして、自分の部屋へ戻った」
「折り紙をしようと思って、
机の上に折り紙を置いて、折ろうとした」
「でも、
最初に半分に折るところでやめて、その紙を戻した」
「代わりに漫画を読もうと思って、
棚から適当なものを取って、机の上で開いた」
「でも、
1、2ページ読んだところで、
ページを押さえていた指を滑らせて、残りのページを一気にパラパラ捲って、
漫画を閉じ、棚へ戻した」
「明日からまた始まる学校のことを考えると、途端に全てが嫌になって、
気が重くなった」
「何をやっても面白くなくて、やる気も全然起きなかった」
「机のイスに座って、下を向いたまま、
ただひたすら、ため息ばかりをついていた」




