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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
158/292

158.「7月に入って、最初の日曜日」

「7月に入って、最初の日曜日」


「その日、

 午前中は近所の本屋で、いつも通り適当に時間を潰して、

 午後は、

 家でお昼ご飯を食べてから、ちょっと遠くにある川沿いの公園へ出掛けた。

 持っていったボールで、

 ひとりでリフティングをしたり、ドリブルの色々な技を練習したりして、

 それに飽きたら、

 木陰にあるベンチに座って、

 空の雲を見上げながら、セミの鳴き声や近くを通り過ぎていく車の音を聞いて、

 ずうっとボーッとしていた。

 そうして、辺りが少し暗くなり始めるのを待ってから、

 僕は、

 駐めていた自転車に乗って、家へ帰った」


「茶の間では、

 じいちゃんもばあちゃんも、

 もう、ちゃぶ台についていた。

 じいちゃんは新聞を読んでいて、ばあちゃんはテレビを観ていた。

 僕が部屋に入っても、

 ふたりとも何も言わなかったし、僕の方を見ることもしなかった」


「じいちゃんは、

 ため息をひとつ吐いてから、読んでいた新聞を畳んだ。

 そして、

 手を合わせ、黙ってご飯を食べ始めた。

 ばあちゃんは、

 リモコンでテレビを消すと、手を合わせ、

 静かに『いただきます・・・』と呟き、ご飯を食べ始めた。

 僕も、

 小さな声で『いただきます』を言ってから食べ始めた。

 会話は無かった。

 食器に当たる箸の音が、よく聞こえた」



「しばらくして、じいちゃんが訊いた」


「午前中、お前はどこに行っとったんだ」


「僕は、

 下を向いたまま、何も答えなかった。

 黙ってご飯を食べ続けていた」


「少ししてから、

 じいちゃんが、また訊いた」


「今日は子供会だったはずだろ。

 どうして行かなかったんだ」


「僕は、

 ちょっと間を置いてから言った」


「・・・忘れてた」


「忘れてた?。

 今朝、ばあちゃんがお前に言ったろうが」


「僕は、何も答えなかった。

 ただ、

 下を向いたまま、ゆっくりご飯を食べ続けていた」


「じいちゃんは、やがてため息をつき、

 僕に言った」


「・・・誰と遊んでいるのか知らないが、もうちょっと早くに帰ってきなさい」


「僕は、何も言わずに頷いた」


「ちゃんと返事をしなさい」


「はい・・・。

 次は、もうちょっと早く帰ってきます・・・」


「僕が、

 小さな声でそう返すと、

 じいちゃんは、またため息をついた。

 そして、

 脇にあった新聞を持って、立ち上がった」


「まったく、

 どうしてこんな子に育ってしまったんだ・・・」


「そう呟いて、そのまま茶の間を出ていった」



「僕も、少ししてからご飯を食べ終わった」


「静かにごちそうさまをして、自分の部屋へ戻った」


「折り紙をしようと思って、

 机の上に折り紙を置いて、折ろうとした」


「でも、

 最初に半分に折るところでやめて、その紙を戻した」


「代わりに漫画を読もうと思って、

 棚から適当なものを取って、机の上で開いた」


「でも、

 1、2ページ読んだところで、

 ページを押さえていた指を滑らせて、残りのページを一気にパラパラ捲って、

 漫画を閉じ、棚へ戻した」


「明日からまた始まる学校のことを考えると、途端に全てが嫌になって、

 気が重くなった」


「何をやっても面白くなくて、やる気も全然起きなかった」


「机のイスに座って、下を向いたまま、

 ただひたすら、ため息ばかりをついていた」

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