156.「2日後の金曜日、朝の自由時間のときだった」
「2日後の金曜日、
朝の自由時間のときだった」
「最初のうちは、
教室に残って、プリントの裏に好きな絵を描いてたんだけど、
女子が、
僕の方をチラチラ見ながら、何か話をしていたので、
それで嫌になって、外に出ることにした」
「校舎の壁にゴムボールを投げ、ひとりで壁当てをしてると、
後ろから声をかけられた」
「おい」
「普段、僕に嫌がらせをしている男子の声だった。
僕は、気付かなかったフリをした。
壁当てをそのまま続けていると、膝でお尻を強く蹴られた」
「前に2、3歩つんのめった僕は、片膝をついてしゃがんで、
お尻を手で押さえた」
「おい、コラ。
無視すんじゃねーよ。
早くこっち向けよ」
「顔をしかめてて見えにくかったけど、
跳ね返ってきたボールを何とかキャッチし、立ち上がった。
振り返って顔を上げると、
目の前に、いつもの2人組がいた。
僕は口を開いた」
「何?」
「チクったの、お前なんだってな」
「一瞬、頭が真っ白になった。
少し間を置いてから、
僕は、『え?』と訊き返した」
「え?、じゃねーよ。
お前なんだろ?、
去年、俺らのこと先公にチクったの」
「口を小さく開けたままの僕は、
2人組の男子たちを、ただぼんやりと見上げていた。
今の状況を、必死に理解しようとした。
何が何だか分からなかった。
そのうち、
2人組の片方が、辺りをキョロキョロと見回し始めた」
「あ、いたいた。
おーい、オマキ、
ちょっとこっちに来いよ」
「その瞬間、僕はドキッとした。
まさか・・・と思った」
「校舎の壁際で、自分の友達と一緒にお喋りをしていたオマキは、
その友達に何かを言って、
それからこっちを振り返って、そのまま走り出した」
「去年、俺らのこと先公にチクったの、
コイツなんだろ?」
「駆け寄る途中で、そう訊かれたオマキは、
男子の隣まで来てから、その顔を見上げて『うん』と頷き、
次に、
僕に目を向け、僕をまっすぐ指差して、
そして、ハッキリと言った」
「そうだよ、コイツ。
だって俺、
コイツの口から実際に聞いたし。
掲示板に俺が書き込んだヤツ、全部読んだんでしょ?。
絶対そうだよ。
命賭けてもいいよ」
「僕、言ってない!。
お前に訊かれたから、それで頷いただけ――」
「でも、認めたじゃん」
「それは・・・、
そうだけど・・・」
「僕が口ごもると、
それまで話を聞いていた男子の片方が、オマキに言った」
「お前、もういいや。
分かったし」
「オマキは、
それを聞くと、その男子を見上げた。
男子はオマキを見ずに、
僕の正面で、僕をじっと見下ろしたままで、
ちょっとイラついた声で、
『いいからさっさと行けよ』って、改めてオマキに命令した」
「オマキは、僕に目を向け、
それから後ろを振り返って、そのまま駆け出した。
そうして、
走りながら、その途中で顔を僕の方に向けて、
ニヤッと笑って、
また前に向き直って、
校舎の壁際でお喋りをして待っている自分の友達のところへと駆けていった」
「正直言って、
僕は、キレる寸前だった。
両手のコブシを力いっぱい握りしめたまま、
離れていくオマキの背中を思いっきり睨みつけていた。
僕を裏切ったオマキのことが、憎くて憎くて仕方なかった」
「そのとき、
急に横から肩を強く組まれて、
別の男子に、腿の辺りを膝で蹴られて、
その後、頭をゲンコツでグリグリされた」
「おい、分かってんだろうなぁ?、
このチクリ野郎」




