154.「次の日から・・・」
「次の日から、
その2人組の嫌がらせの標的は、オマキから僕に変わった」
「休み時間のとき、
遠くからこっちをチラチラ見て、ふたりで何かの話をして笑い合ったり、
近くを通りかかると露骨に嫌な顔をして、『うわぁ・・・』って言ったり、
トイレの入り口で、
僕がいるのに気付かないフリして、なかなか通してくれなかったり・・・。
あとは、
掃除が終わって教室に戻ってくると、
僕の机の上だけが、何故かビチャビチャに濡れていたり、
ロッカーの中に、ホコリやゴミが放り込まれていたりしていた。
明らかに、あのふたりの仕業だった」
「最初のウチは、僕も、
やめろよ・・・とか言って、ちょっとは抵抗していたんだ。
でも、その度に、
『あんだよ?、俺らに何か文句あんのかよ?』って、ふたりに脅されて、
体を押されて、ちょっと突き飛ばされて・・・。
で、
僕、何も言い返せなくてさ・・・。
結局、
いつも下を向いて、黙り込んじゃって、
そのふたりは、
それを見ると満足して、楽しそうに話をしながら去っていって・・・」
「クラスのみんなは、
自分がイジメられる側にならないように、必死に関わらないようにしていたし、
それどころか、
その2人組と一緒に、僕をからかう人だって出てきた」
「あるとき、
休み時間に友達のところに行こうと思って、
席を立って、そっちを向いたら、
その友達が、
一瞬だけ、凄く嫌そうな顔をしたのが見えちゃってさ・・・。
それで、
あぁ、本当は来てほしくないんだ・・・って分かっちゃって・・・」
「だから、僕、
それ以来、友達のところには行けなくなった。
休み時間も、
自分の机で宿題をしたり、プリントの裏に絵を描いたり、
そうやって、
みんなが楽しそうにお喋りをしてる中、ひとりきりで過ごすようになった」
「学校にいるのが嫌で嫌で仕方なかったし、
毎日が退屈で、つまらなかった」
「土曜になった」
「その日は、雨は降っていなかった。
だから僕は、
朝ご飯を食べて、テレビを観たあとは、
自転車に乗って、団地の中にある公園に向かった」
「山の形の遊具の、トンネルの中を覗いてみた。
でも、空っぽだった。
誰もいなかった」
「朝は別の場所なのかもしれない・・・って思って、
フードコートやファストフード店、コンビニ、近くの公園とかを回ってみたんだけど、
見付からなかった。
オマキは、どこにもいなかった」
「僕は、
再び、団地の公園に戻ってきた。
そして、持ってきたサッカーボールで、
リフティングとか壁当てとか、有名選手のプレーの練習をして、
ひとりで時間を潰した」
「お昼の1時をちょっと過ぎた。
僕は、サッカーボールを自転車の前カゴに入れて、
一旦、家に帰って、
それから、
折り紙とお絵描きセットの入ったポシェットを肩にかけて、
ちょっと小走りになって商店街へ向かった」
「ファストフード店の奥を見ると、オマキがいた。
その日は、トレイの上にはジュースだけじゃなくて、
ハンバーガーの、クシャクシャになった包み紙と、
アップルパイか何かの、カラになった容器が乗っていた。
僕は、ホッとした。
そのまま、店に入っていった」
「オッス」
「持っていたトレイをテーブルに置いた僕は、
オマキの向かい側に座りながら、いつもの挨拶をした。
オマキは、
スマホを指で操作しながら、無言で頷いた」
「午前中、どこにいたの?」
「アツアツの包み紙を手で開きながら、そう尋ねた僕は、
中から出てきたハンバーガーに齧りついた」
「学校」
「え?、何で?」
「僕は、
顔を上げて、オマキを見た」
「部活。
明日、コンサートホールで演奏会があるから、
その練習。
前に言ったじゃん・・・」
「あぁ、そっか。
そういや、そんなこと言ってたっけ。
オマキは、
確か、タンバリンだっけ」
「うん、
・・・まだ、ね」
「納得した僕は、
ジュースをストローで飲んだ」
「6時半を過ぎた」
「テーブルの向こう側のオマキが、
スマホの画面から指を離して、横を向いた」
「そろそろ出るの?」
「僕は、そう訊いた。
オマキは、
リュックの中にスマホを押し込みながら黙って頷き、
席を立って、リュックを背負い始めた」
「あ、ちょっと待ってよ。
置いてかないでよ」
「僕は、
テーブルの上の、たくさんの折り紙を急いで片付け、
それから自分のトレイを持って、オマキを追った」
「夕暮れの商店街を、ふたりで歩いていき、
いつものコンビニの前に着いた」
「じゃあね」
「僕がそう言うと、
オマキは、ちょっと進んでから足を止め、
こっちを振り返った。
そして、
視線を下に向けたまま、僕に言ったんだ」
「お前、もう来るなよな」
「え?」
「僕はビックリした。
少し間を置いてから、オマキに訊いた」
「・・・どうして?」
「オマキは答えた」
「お前と仲が良いって、アイツらに勘違いされるだろ。
俺も一緒にイジメられるじゃんか」
「だって、
それはもともと、オマキがアイツらにイジメられてて、
可哀想だな、って思って、
僕、助けに入って、
それで――」
「俺、別に頼んでないし」
「え?」
「別に、助けてほしいって頼んでないし。
お前が勝手にやったことじゃん」
「オマキ、お前!」
「僕は、思わずオマキに掴みかかった。
でも、
周囲にいた大人たちに止められ、引き離されてしまった」
「オマキは、少しの間、
大人たちに守られながら、僕の方をじぃっと見ていて、
それから背を向けると、
コンビニの方へ駆けていき、自動ドアを開けて中に入っていった」
「僕は、
そのオマキの姿を、しばらく睨みつけていたけど、
やがて、
向きを変えて、そのまま歩き出した」
「何だよ、それ」
「ひとりで文句をブツブツ呟きながら、家に帰った」
「ふざけんな、って思った」
「その次の日」
「日曜日」
「朝」
「僕は、
自転車に乗って、近所の公園に出かけた」
「でも、
そこで、ひとりでサッカーをしてると、
同じクラスの人が、歩いてこっちに来るのが見えたから、
だから、僕は急いで自転車に乗って、
今度は、
川の近くにある、遠くの公園へ向かった」
「しばらくの間、
そこで、ひとりでサッカーをして、
お昼になったらコンビニに行って、サンドイッチとお茶を買って、
店の前で、立ったまま食べて、
そのあと、自転車で知らない街をブラブラして、
本屋とかオモチャ屋を見付けたら、中に入ってみて、
店内を少しうろついて、
そうやって時間を潰して、
ちょっと疲れてきたら、砂浜に行って海をぼーっと眺めて、
それで夕方になって、
辺りが少し暗くなってきたから、家に帰ることにした」
「途中、道に迷って、
それで、家に着く頃には夜になっていた。
茶の間に行くと、
ちゃぶ台には、もう料理が並んでた」
「あら、おかえり。
遅かったじゃない。
どうしたの?」
「お茶を啜っていたばあちゃんが、僕の方を振り返って訊いた」
「ちょっと遠くまで行ってて、それで道に迷った」
「僕は、
そう答えながら、ちゃぶ台についた」
「じいちゃんは深いため息をついて、読んでいた新聞を折り畳むと、
何も言わずに手を合わせて、
そのまま、静かにご飯を食べ始めた」
「僕も、
小さな声で、いただきますをしたあと、
黙ってご飯を食べ始めた」




