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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
155/294

154.「次の日から・・・」

「次の日から、

 その2人組の嫌がらせの標的は、オマキから僕に変わった」


「休み時間のとき、

 遠くからこっちをチラチラ見て、ふたりで何かの話をして笑い合ったり、

 近くを通りかかると露骨に嫌な顔をして、『うわぁ・・・』って言ったり、

 トイレの入り口で、

 僕がいるのに気付かないフリして、なかなか通してくれなかったり・・・。

 あとは、

 掃除が終わって教室に戻ってくると、

 僕の机の上だけが、何故かビチャビチャに濡れていたり、

 ロッカーの中に、ホコリやゴミが放り込まれていたりしていた。

 明らかに、あのふたりの仕業だった」


「最初のウチは、僕も、

 やめろよ・・・とか言って、ちょっとは抵抗していたんだ。

 でも、その度に、

 『あんだよ?、俺らに何か文句あんのかよ?』って、ふたりに脅されて、

 体を押されて、ちょっと突き飛ばされて・・・。

 で、

 僕、何も言い返せなくてさ・・・。

 結局、

 いつも下を向いて、黙り込んじゃって、

 そのふたりは、

 それを見ると満足して、楽しそうに話をしながら去っていって・・・」


「クラスのみんなは、

 自分がイジメられる側にならないように、必死に関わらないようにしていたし、

 それどころか、

 その2人組と一緒に、僕をからかう人だって出てきた」


「あるとき、

 休み時間に友達のところに行こうと思って、

 席を立って、そっちを向いたら、

 その友達が、

 一瞬だけ、凄く嫌そうな顔をしたのが見えちゃってさ・・・。

 それで、

 あぁ、本当は来てほしくないんだ・・・って分かっちゃって・・・」


「だから、僕、

 それ以来、友達のところには行けなくなった。

 休み時間も、

 自分の机で宿題をしたり、プリントの裏に絵を描いたり、

 そうやって、

 みんなが楽しそうにお喋りをしてる中、ひとりきりで過ごすようになった」


「学校にいるのが嫌で嫌で仕方なかったし、

 毎日が退屈で、つまらなかった」



「土曜になった」


「その日は、雨は降っていなかった。

 だから僕は、

 朝ご飯を食べて、テレビを観たあとは、

 自転車に乗って、団地の中にある公園に向かった」


「山の形の遊具の、トンネルの中を覗いてみた。

 でも、空っぽだった。

 誰もいなかった」


「朝は別の場所なのかもしれない・・・って思って、

 フードコートやファストフード店、コンビニ、近くの公園とかを回ってみたんだけど、

 見付からなかった。

 オマキは、どこにもいなかった」


「僕は、

 再び、団地の公園に戻ってきた。

 そして、持ってきたサッカーボールで、

 リフティングとか壁当てとか、有名選手のプレーの練習をして、

 ひとりで時間を潰した」



「お昼の1時をちょっと過ぎた。

 僕は、サッカーボールを自転車の前カゴに入れて、

 一旦、家に帰って、

 それから、

 折り紙とお絵描きセットの入ったポシェットを肩にかけて、

 ちょっと小走りになって商店街へ向かった」


「ファストフード店の奥を見ると、オマキがいた。

 その日は、トレイの上にはジュースだけじゃなくて、

 ハンバーガーの、クシャクシャになった包み紙と、

 アップルパイか何かの、カラになった容器が乗っていた。

 僕は、ホッとした。

 そのまま、店に入っていった」



「オッス」


「持っていたトレイをテーブルに置いた僕は、

 オマキの向かい側に座りながら、いつもの挨拶をした。

 オマキは、

 スマホを指で操作しながら、無言で頷いた」



「午前中、どこにいたの?」


「アツアツの包み紙を手で開きながら、そう尋ねた僕は、

 中から出てきたハンバーガーに齧りついた」


「学校」


「え?、何で?」


「僕は、

 顔を上げて、オマキを見た」


「部活。

 明日、コンサートホールで演奏会があるから、

 その練習。

 前に言ったじゃん・・・」


「あぁ、そっか。

 そういや、そんなこと言ってたっけ。

 オマキは、

 確か、タンバリンだっけ」


「うん、

 ・・・まだ、ね」


「納得した僕は、

 ジュースをストローで飲んだ」



「6時半を過ぎた」


「テーブルの向こう側のオマキが、

 スマホの画面から指を離して、横を向いた」


「そろそろ出るの?」


「僕は、そう訊いた。

 オマキは、

 リュックの中にスマホを押し込みながら黙って頷き、

 席を立って、リュックを背負い始めた」


「あ、ちょっと待ってよ。

 置いてかないでよ」


「僕は、

 テーブルの上の、たくさんの折り紙を急いで片付け、

 それから自分のトレイを持って、オマキを追った」



「夕暮れの商店街を、ふたりで歩いていき、

 いつものコンビニの前に着いた」


「じゃあね」


「僕がそう言うと、

 オマキは、ちょっと進んでから足を止め、

 こっちを振り返った。

 そして、

 視線を下に向けたまま、僕に言ったんだ」


「お前、もう来るなよな」


「え?」


「僕はビックリした。

 少し間を置いてから、オマキに訊いた」


「・・・どうして?」


「オマキは答えた」


「お前と仲が良いって、アイツらに勘違いされるだろ。

 俺も一緒にイジメられるじゃんか」


「だって、

 それはもともと、オマキがアイツらにイジメられてて、

 可哀想だな、って思って、

 僕、助けに入って、

 それで――」

「俺、別に頼んでないし」


「え?」


「別に、助けてほしいって頼んでないし。

 お前が勝手にやったことじゃん」


「オマキ、お前!」


「僕は、思わずオマキに掴みかかった。

 でも、

 周囲にいた大人たちに止められ、引き離されてしまった」


「オマキは、少しの間、

 大人たちに守られながら、僕の方をじぃっと見ていて、

 それから背を向けると、

 コンビニの方へ駆けていき、自動ドアを開けて中に入っていった」


「僕は、

 そのオマキの姿を、しばらく睨みつけていたけど、

 やがて、

 向きを変えて、そのまま歩き出した」


「何だよ、それ」


「ひとりで文句をブツブツ呟きながら、家に帰った」


「ふざけんな、って思った」



「その次の日」


「日曜日」


「朝」


「僕は、

 自転車に乗って、近所の公園に出かけた」


「でも、

 そこで、ひとりでサッカーをしてると、

 同じクラスの人が、歩いてこっちに来るのが見えたから、

 だから、僕は急いで自転車に乗って、

 今度は、

 川の近くにある、遠くの公園へ向かった」


「しばらくの間、

 そこで、ひとりでサッカーをして、

 お昼になったらコンビニに行って、サンドイッチとお茶を買って、

 店の前で、立ったまま食べて、

 そのあと、自転車で知らない街をブラブラして、

 本屋とかオモチャ屋を見付けたら、中に入ってみて、

 店内を少しうろついて、

 そうやって時間を潰して、

 ちょっと疲れてきたら、砂浜に行って海をぼーっと眺めて、

 それで夕方になって、

 辺りが少し暗くなってきたから、家に帰ることにした」


「途中、道に迷って、

 それで、家に着く頃には夜になっていた。

 茶の間に行くと、

 ちゃぶ台には、もう料理が並んでた」


「あら、おかえり。

 遅かったじゃない。

 どうしたの?」


「お茶を(すす)っていたばあちゃんが、僕の方を振り返って訊いた」


「ちょっと遠くまで行ってて、それで道に迷った」


「僕は、

 そう答えながら、ちゃぶ台についた」


「じいちゃんは深いため息をついて、読んでいた新聞を折り畳むと、

 何も言わずに手を合わせて、

 そのまま、静かにご飯を食べ始めた」


「僕も、

 小さな声で、いただきますをしたあと、

 黙ってご飯を食べ始めた」

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