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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
153/292

153.「ゴールデンウィーク明けのことだった」

「ゴールデンウィーク明けのことだった」


「授業の合間の、休み時間。

 友達と一緒にトイレに行って、教室に戻ってきた僕は、

 教壇の前を通って、

 窓際にいる、別の友達の方へと歩いていた」


「クラスの雰囲気は、

 一見、いつも通りだった。

 教室のあちこちで、

 仲の良い人同士で集まって、楽しそうに何かの話をしたり、

 消しゴム落としをしたりしていて、

 日直の人は、黒板消しをクリーナーにゴシゴシとかけていた。

 笑い声も、ときどき聞こえていた」


「ふと、先生の机の方に目を向けると、

 オマキが、その机の下に頭を突っ込んで四つん這いになっていた。

 机の、全部で4段ある抽斗とその下の床との狭い隙間に、

 出来るだけ奥まで手を突っ込み、

 一生懸命に、左右に動かしていた」


「何かを探してるようだった。

 そして、

 下に突っ込んでいた手を戻して、頭を起こしたオマキを見て、

 あれ?・・・って思った」


「メガネをかけてない」



「オマキは、

 それから少しすると、先生の机の下から這い出て、

 顔を俯けたまま、ゆっくり立ち上がった。

 そして、

 すぐに後ろを振り返って、背伸びをし、

 先生が使っている棚の上に、顔を出した」


「その瞬間、

 声が聞こえてきた」


「違う違う、そこじゃねーって」


「そっちを見ると、

 男子がふたり、ひとつの机に集まっていて、

 持ってきた自分のイスに座っていた。

 ひとりが、

 イスに踏ん反り返って頭の後ろで手を組み、ニヤニヤしてて、

 もうひとりが、

 机に顔を突っ伏したまま、上半身をヒクヒク動かしていた。

 笑いを(こら)えているようだった」


「背伸びをしていたオマキは、踵を下ろして、

 今度は窓の方を向いた。

 そっちは教室の角で、先生用のゴミ箱が置いてあった。

 オマキは、

 そこにしゃがみこんで、ゴミ箱に手を突っ込んだ。

 中を、ゴソゴソと漁った」


「それを見て、

 さっきの、男子の2人組が吹き出した」


「さっき探しただろ、そこは。

 もう忘れたのかよ。

 お前って、ほんとバカだよなぁ」


「友達と一緒に、窓際でそれを見ていた僕は、

 胸が、ぎゅうっと締め付けられた。

 苦しくなった。

 すぐに、教室内のあちこちを見回した」


「ヒント()ー。

 宙に浮いてまーす」


「男子の声が、また聞こえた。

 僕は、2人組の方を振り返った。

 ふたりは、

 教卓の中を探しているオマキを見て笑っていたけど、

 ときどき、

 教室の隅にも、目をチラチラ向けていた」


「僕は教室の隅をじぃっと見て、

 少ししてから、そっちへ歩いていった。

 束ねてあったカーテンを掴んで、その裏側をちょっと覗いてみて、

 それから、オマキの方を振り返った」


「オマキー、こっちー」


「オマキは、

 黒板の前で屈んで、チョーク受けの下を覗き込んでいたけど、

 すぐに顔を上げ、

 こっちに歩いてきた」


「ほら、ここ」


「僕は、そう言って、

 掴んでいたカーテンの束の、裏側を見せた。

 カーテンをまとめていた帯に、メガネが引っ掛けられていた」


「オマキは、急いで手を伸ばすと、

 ポケットから出した布で、メガネのレンズを拭き始めた」


「あーあ、つまんね。

 誰かさんが余計なことしたからさぁ」


「さっきの男子の、

 残念そうな声が聞こえてきた」


「僕は、

 すぐにそっちを見て言った」


「やめろよ。

 こんなのイジメじゃんか」


「あ?、何だテメェ。

 俺らに文句あんのか」


「男子は、ふたりとも立ち上がって、

 こっちへゆっくり歩いてきた」


「僕の心臓は、バクバクと大きな音を立てていた。

 動けなかった。

 ただ、

 その、次第に近付いてくるふたりを黙って見ていた。

 オマキは、

 僕の陰に隠れて、メガネを拭き続けていた」


「でも、そのとき、

 チャイムが鳴った」


「男子たちは、

 立ち止まって時計に目を向け、舌打ちをした。

 それから、

 少しの間、僕を無言で睨んでいたけど、

 やがて、

 『イキってんじゃねーぞ』と言って、背を向け、

 ふたりとも、自分の席に戻っていった」



「6時間目の授業が終わった」


「多目的教室で体操着に着替えて、友達と一緒に昇降口に下りていくと、

 靴箱にあるはずの、僕のスニーカーが無くて、

 それで、友達と一緒に、

 靴箱や、その近くを探し始めた。

 しばらくして、

 友達の声が、外から聞こえた」


「もしかして、

 これ、そうじゃないの?」


「見ると、

 昇降口を出たところにある花壇の前で、

 友達が、顔だけをこっちに向けて立っていて、

 伸ばした指を花壇へ向けていた」


「僕は、

 上履きのまま、すぐに駆け寄り、

 友達の隣に立った」


「花壇の、

 芽を出したばかりの、たくさんの植物の中に、

 僕のスニーカーが、左右バラバラに転がっていた」


「あちこちが潰れていたり、(ゆが)んだりしていた」

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