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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
150/292

150.「4月になった」

「4月になった」


「新学期が始まって、その最初の日。

 朝、学校に行って、

 5年生の教室を2つとも通り過ぎて、6-1の教室の前まで来ると、

 入り口の扉のところに、

 多分、20人くらいの人集(ひとだか)りが出来ていた」


「僕は、その人集りの後ろについた。

 少しの間、

 背伸びをしたり、立つ場所を変えたりしてみたんだけど、

 なかなか見えなくて、

 それで、6-2の方を見たら、

 そっちは、人がちょっと少なくて、

 だから、

 まずは、そっちを確かめてみることにした」


「6-2の教室の前に行くと、

 扉の近くにいた女子のグループが、ちょうど教室に入っていって、

 人集りに、隙間が少し出来た。

 僕は、その隙間に入って、

 教室の扉に貼り出されていた、クラス替えの紙の前に立った」


「たくさん並んだ名前の中に、僕の名前があった」


「次いで、僕は、

 誰が同じクラスになったのか、確かめようと思って、

 上から順番に名前を見ていった」


「オマキの名前があった。

 今年は、同じクラスのようだった」


「僕は、

 しばらくの間、クラス替えの紙を眺めたあと、

 人集りの輪を抜けて、

 6-2の教室に入っていった」



「教室に入ってくる人を、

 友達の席で、

 友達と一緒にチェックしていた」


「少しすると、

 入り口の向こうにオマキが見えて、そのまま通り過ぎていき、

 少ししてから、

 また、入り口のところに現れて、

 今度は、教室の中に入ってきた」


「そういや、

 オマキとお前、

 どっちのが、背、高いの?」


「多分、僕のが高いと思う、

 ほんのちょっとだけど・・・」


「だったら、

 今年は一番前じゃないじゃん」


「多分だって。

 まだ、分かんないって」


「友達と、

 そんなことを喋りながら、オマキを見ていた。

 オマキは、

 自分の席に行って、イスの上にランドセルを下ろすと、

 中身を机の中に入れて、

 また、ランドセルを持って、

 教室の後ろにあるロッカーの方へ歩いていった」


「途中、オマキがこっちを見た。

 何か言おうと思ったけど、

 でも、オマキは、

 すぐに、

 また、ロッカーの方を向いてしまった。

 そして、

 持っていたランドセルをロッカーに押し込むと、

 教室を見渡し、

 自分の友達の方へ歩いていった」


「お前とオマキって、仲良いんじゃないの?」


「うーん、どうなのかなぁ。

 あんまり仲が良いって感じじゃないけど・・・」


「休みの日の夕方に、よく一緒にいるじゃん」


「そうだけど、

 でも、

 お互い、ほとんど何も喋らないし・・・」


「じゃあ、何で一緒にいるわけ?」


「うーん、何となく・・・」



「そのときだった。

 誰かの、ちょっと怒った感じの声が聞こえてきた」


「おい、(なん)も無しかよ」


「僕と友達は、そっちを見た。

 足を組んでイスに座っている男子がいて、

 視線の先には、

 後ろを振り返った体勢のまま、その男子を見て立ち止まっているオマキがいた」


「お前の足が当たったんだけど」


「その男子が、そう言うと、

 オマキは軽く手を上げ、すぐに前に向き直って、

 再び歩き出そうとした」


「おい、待てよ。

 ちゃんと口で言えよ」


「そう言われたオマキは、

 男子の方を振り返って、口をモゾモゾと動かした」


「は?、よく聞こえないんですけどー」


「男子が耳に手をあて、大きな声で文句を言うと、

 近くにいた別の男子が、顔をその男子に近付けて、

 何かを(ささや)いた」


「文句を言っていた男子は嫌な顔をして、

 チッ・・・と舌打ちをした」


「オマキは、

 それを見ると、また前に向き直って、

 そのまま何も言わずに、

 自分の友達のところへと、そそくさと逃げていった」



「土曜日になった」


「夕方になり、遊んでいた友達と別れた僕は、

 自転車で、団地の中の公園へ向かった。

 自転車を駐め、

 山の形の遊具へ走っていって、トンネルを覗くと、

 中にオマキがいた」


「オッス。

 同じクラスだったね」


「うん」


「あれ?。

 それ、もしかしてスマホ?。

 買ってもらったの?」


「その日のオマキの手には、

 いつものゲーム機じゃなくて、スマホがあった。

 オマキは、

 スマホに目を向け、その画面を人差し指の先で慎重になぞりながら、

 黙って頷いた」


「いつ買ってもらったの?」


「始業式の前の日。

 夜、渡された」


「スマホで、どんなことやってる?。

 やっぱゲーム?」


「それもあるけど、

 動画を観たり、チャットで話したり、

 あとはゲームの攻略を調べたりとか、まぁ色々・・・」


「面白い?」


「うん、けっこう面白いかな。

 色んなことが出来るし・・・」


「へー、良いなぁ・・・。

 使うの、すぐ慣れる?。

 僕の友達は、『思ったより簡単だった』って言ってたけど」


「うん。・・・っていうか、

 こっちに引っ越してくる前、

 兄ちゃんのスマホ、ときどき触らせてもらってたから、

 楽勝だった」


「そうなんだ・・・」


「そういや、この前は来なかったけどさ、

 何かあったの?」


「あぁ。

 ・・・えっと、家で春休みの宿題やってた。

 ほら、読書感想文。

 僕、まだ終わってなかったから」


「ふーん。

 俺はネットのヤツを写して、すぐに終わらせたけど」


「え?。・・・でも、

 それ、バレたらヤバいじゃん」


「バレないって。

 言い方をちょっと変えたり、順番を入れ替えたりしてるから。

 前の学校でも、やってるヤツ多かったし。

 それに噂じゃ、

 お金払って、宿題全部やってもらってる人もいるらしいし。

 ソイツらと比べたら、

 俺なんて、だいぶマシじゃん」


「そうかな・・・」


「そうだよ。

 あ、そういや、

 それに、もっと

 俺、

 来月の2週目の日曜は、ここにいないから」


「え?。2週目の日曜?。

 それって、いつ?。

 5月だから、ゴールデンウィーク中?」


「いや、

 終わったあとの、次の日曜日・・・だったような気がするけど」


「何でいないの?」


「ブラスバンド部の演奏会があるから。

 隣町の、結構でっかいコンサートホールでやるらしい。

 帰るの遅くなる・・・って、顧問の先生が言ってた」


「オマキは、何の楽器をやるの?」


「タンバリン。

 今、部活でアルトホルンの練習もしてるんだけど、

 そっちは、まだまだ上手く吹けないし」


「難しいの?」


「ムズい、って言うか、

 取り敢えず、口が痛い。

 あと疲れる」


「ふーん。

 そういや、

 今日、サッカーボール持ってきたんだけどさ、

 一緒にやらない?」


「やらない。

 俺、

 サッカー、あんまり好きじゃないし。

 ここでゲームやってる」

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