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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
149/292

149.「土曜日」

「土曜日」


「その日は、

 確か、朝からずっと雨が降っていて、

 それで、

 友達の家で、みんなでボードゲームをしたり、

 ブロックで何かを作ったり、

 お絵描きのしりとりをしたり、

 そんな感じで、遊んでいたと思う」


「5時近くになって、

 みんな、家に帰ることになった」


「いつもの十字路で友達とバイバイして、

 ひとり、商店街の道を歩いてるとき、

 ファストフード店の前を通りかかった」


「僕は、

 歩きながら、店内の奥を覗いてみた。

 そして、すぐに立ち止まり、

 傘を差したまま、財布の中身を確かめると、

 店の自動ドアの方へと歩いていった」



「奥の席には、その日もオマキがいて、

 ひとりでゲームをしていた」


「僕は、

 ポテトを乗せたトレイを持って、そこに行き、

 座っていい?・・・と、声をかけた」


「オマキは、

 ゲームをしたまま、黙って頷いた」


「あの・・・、

 ポテト、食べる?」


「いい」



「その日は、

 店内の音楽が、よく聞こえた。

 僕の知らない、ゆったりとした曲ばかりだった。

 僕は、

 ポテトを1本ずつ、ちびちび齧って食べていて、

 テーブルの向こう側のオマキは、

 下を向いて、ゲーム機を握った両手の指をせっせと動かしていた。

 客は、

 僕たちの他には、2、3人くらいで、

 いつもより、更にガラガラだった。

 レジの向こう側からときどき聞こえてくる店員さんの声以外、

 店内の話し声は、ひとつも無かった」


「僕が、

 持っていたポテトを食べ終わって、次の1本を取ろうとしたときだった」


「会ったの?」


「オマキが、

 ゲーム機の画面から目を離さずに、そう訊いた。

 僕は、

 少ししてから、伸ばしかけていた手を静かに引っ込め、

 下を向いて、

 首をゆっくりと横に振った」


「ううん、

 会ってない・・・」


「ふーん、良かったじゃん」


「でも・・・」


「でも?。

 ・・・何かあったわけ?」


「・・・ごめん。

 やっぱ、何でも無い」


「ふーん」


「あの、明日も夕方くらいに、

 僕、ここに来ていい?」


「別に良いけど・・・。

 そういや、

 お前、ゲーム機持ってないの?」


「うん、持ってない・・・」


「俺の古いヤツ、貸してやろうか?。

 たまにボタン利かなくて、ちょっとムカつくけど」


「ううん、いい。

 ウチ、ゲーム禁止だから・・・」



「それからは、

 僕は、休みの日の夕方になると、

 オマキのいるファストフードの店に行くようになった」


「テーブルの向こう側で、黙々とゲームをしているオマキの前で、

 僕は、

 絵を描いたり、折り紙をしたりして過ごし、

 6時ちょっと前になると、ふたり一緒に店を出て、

 近くのコンビニでオマキと別れて、

 そうして、

 そのまま、家に帰っていた」


「3月に入って、少しだけ暖かくなってくると、

 ファストフードではなくて、

 ショッピングセンターのフードコートで会うようになった。

 大判焼きが、1個80円で、

 こっちの方が、お金がかからなかった」


「オマキとふたりで時間を潰しているときは、

 会話は、ほとんど無かった。

 だいたいの日が、

 僕がオマキのところに行ったときに言う『オッス』と、

 6時近くになるとオマキが言う『そろそろ出ようぜ』だけだった」



「確か、

 3月の1週間めか、2週間めくらいだったと思う。

 その日の部活が終わって、

 多目的教室で、服を着替えているときだった」


「おい」


「突然、先輩に声をかけられた。

 すぐに振り向き、それから顔を上げると、

 その先輩が、続けて言った」


「お前、

 最近、オマキと仲が良いらしいな」


「え?。

 あ、いや、別に仲が良いってわけじゃ無いッスけど・・・」


「土曜とか日曜の夕方、

 よく一緒につるんでる・・・って、色んなヤツが言ってるけど」


「えーっと・・・。

 あ、はい、よく一緒にいるッス」


「・・・チクったの、お前?」


「その瞬間、

 それまで話をしていた周りの人たちが、全員黙った。

 教室内は、シーンとした」


「い、いや、

 僕じゃないッス。ほんとッス」


「僕は、

 ちょっと間を置いてから、慌てて答えた。

 先輩は、

 僕の顔を、そのまま上からじぃっと見下ろしていた。

 でも、

 少しすると、クルリと背を向けて、

 何も言わずに、他の先輩たちのところへと戻っていった」


「周りの人たちも、すぐにお喋りを再開させた。

 教室内は、

 また、いつものようにガヤガヤと騒がしくなった」


「僕は、

 そこに突っ立ったまま、動けなかった。

 先輩たちが楽しそうに何かを話しながら着替えているのを、

 離れたところから、

 ただ、ぼーっと眺めていた」


「紙が入ってたの、俺たちのクラスじゃなくて、

 隣のクラスの先生の机じゃん。

 だったら、

 入れるとしたら、フツーそっちのクラスのヤツじゃん。

 先輩たち、

 それ、知らないのかなぁ。

 お前のわけねーじゃん。なぁ?」


「着替え途中だった友達が、僕の方に顔を寄せて、

 ヒソヒソ声で、そう言った」


「僕は、出来るだけ普通のフリをして、

 うん、そうだね・・・と返した」



「その日の、学校からの帰り道、

 僕は、不安で不安で仕方なかった。

 隣で喋ってくれてる友達の話は、まったく頭に入ってこなかった」

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