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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
147/292

147.「また、会話が無くなった」

「また、会話が無くなった」


「オマキは、

 相変わらず、テーブルの向かい側でゲームを続けていて、

 僕は、下を向いたまま、

 ただ、じぃっとしていた」


「重苦しい時間が続いた」



「お金、どうして無かったの?」


「僕は、

 少ししてから、そう訊いた。

 ちょっと遅れて、

 オマキの声が返ってきた」


「どうして・・・って、どういう意味?」


「だって、

 ちょっと前にお正月があったし、

 その、お年玉のお金は、どうし――」

「貰えなかった」


「オマキは、

 僕が話し終わらないうちに、そう言った」


「え?、どうして?」


「12月の冬休み中、親の金を()ったのがバレて、

 怒られて、

 それで無くなった。

 小遣いも無くなった」


「そうなんだ・・・」


「・・・誰かに言ったの?」


「え?、何を?」


「僕は、すぐにそう訊き返したけど、

 でも、オマキは答えてくれなかった。

 何も言わずに、

 ただ、ゲームを続けていた。

 それで、

 僕は、ちょっとしてから気付いた」


「ううん、

 僕、誰にも言ってない・・・」


「そう答えると、

 オマキは、ゲーム機に目を向けたまま、

 やがて、

 ゆっくり長く、鼻から息を漏らした」



「あのさ・・・、

 オマキに、ちょっとだけ訊いていい?」


「少ししてから、

 僕は、そう言った。

 声が、すぐに返ってきた」


「何?」


「家に父さんがいるから帰りたくない・・・って、さっき言ってたけどさ、

 それって、どういう意味?」


「オマキは、

 ゲームをしながら、答えた」


「俺、

 アイツのこと、あんまり好きじゃないんだ。

 アイツも、

 俺のこと、好きじゃないみたいだし・・・」


「僕は驚いた。

 訊いてみたいことが、すぐに頭に浮かんだ」


「でも、訊けなかった。

 声に出せなかった。

 そうやって、

 僕が、

 少しの間、まごついていると、

 テーブルの向こう側から、声が聞こえてきた」


「俺んち、

 去年の8月に、両親が離婚したんだ。

 俺が3年生になったときくらいから、急に仲が悪くなってさ、

 家の中で、しょっちゅう大声で怒鳴り合ってた。

 兄ちゃんも俺も、

 そういうの、聞きたくなかったから、

 2階の部屋で、

 ふたりして、ひたすら黙々とゲームしてたんだ。

 ときどき、ケンカの最中に俺たちが呼ばれて、

 お互いの文句を延々と聞かされて、

 で、

 お前たちはどっちの味方するんだ?、って迫られてさ・・・。

 そんなの、どうだっていいよ・・・。

 俺たちを巻き込むなよ・・・。

 兄ちゃんも俺も、

 いつも、そう思ってた。

 一度、物を投げ合ってケンカしたときなんかさ、

 そのケンカが終わったあと、

 1階に下りていって、トイレに行ったら、

 帰りに、母さんに捕まっちゃってさ・・・。

 あんた、これ見て何とも思わないの?。

 片付けを手伝おう、って思わないわけ?・・・って言われて、

 それで、

 思わず、ため息ついたら、

 その反抗的な態度は何?、文句あるの?・・・って、突然キレられて、

 怒られて、

 もう、ウンザリだった。

 そしたら、去年の6月頃、

 兄ちゃんも俺も、母さんに呼び出されてさ、

 離婚する、って言われて、

 やっぱりな・・・って思った。

 で、

 母さんと俺が家を出ていくことになって、

 父さんと兄ちゃんが、そのままそこに残ることになった。

 本当は、俺も兄ちゃんも離れたくなかったし、

 一緒がいい・・・って言ったんだけど、

 もう決まったことだからダメ・・・って、すぐに返されてさ・・・。

 その理由を、

 父さんも母さんも、色々とゴチャゴチャ言ってたけど、

 要するに、

 お互い、相手に負けたくなかっただけだと思う。

 兄ちゃんも俺も、

 それから、2階の部屋に戻って、

 またゲームを始めたんだけど、

 その日は、

 お互い、ひと言も喋らないで、

 夜中の3時過ぎまで、ずうっとゲームしてた。

 それで、

 7月の終わり頃に、こっちに引っ越してきて、

 その、引っ越すちょっと前に、

 母さんから紹介された、今の父さんと一緒に住むようになったんだ。

 今の父さんは、

 最初の1ヶ月くらいは、俺と仲良くしようとしてたみたいで、

 よく話しかけられたし、

 デパートに連れて行ってもらったし、

 そこで、ゲームとか買ってくれた。

 でも、

 段々と面倒になってきたみたいでさ・・・、

 そういうのが、いつの間にか無くなってた。

 仕事から帰ってくると、

 ゲームしてる俺をチラッと見て、ため息ついて、

 そのまま自分の部屋に行って、着替えて、

 それから台所に行って、

 冷蔵庫から出した缶ビールを、居間でテレビ見ながら飲んで、

 帰ってくる母さんを待って・・・、

 そんな生活になってた。

 俺、アイツがいる家にはいたくなくてさ、

 それで、休みの日は、

 いつも朝早くから外に出掛けるようにしてるし、

 帰るのも、出来るだけ遅くにしてるんだ。

 何か、母さんのお腹の中に、

 今、俺の妹がいるみたいだし・・・。

 もう、わけ分かんねぇよ。

 どうなっちゃうんだろな、俺」


「オマキの話は、そこで終わった。

 会話が、また無くなった。

 しばらくしてから、オマキが言った」


「帰った方が良いんじゃない?。

 何か、具合悪そうだけど・・・」


「僕は、

 少ししてから顔を上げ、オマキに尋ねた」


「ちょっと、聞いて欲しいことがあるんだけど・・・、

 いい?」


「オマキは、ゲームを続けながら言った」


「別に良いけどさ。

 何の話?」


「ウチの、両親の話」


「そして、

 僕は、自分の家族のことをオマキに話した。

 じいちゃんとばあちゃんのこと。

 父さんのこと。

 母さんのこと。

 全部話した。

 それで、

 最後に訊いてみたんだ」


「僕の父さんのこと、

 オマキは、どう思う?」


「どう思う・・・って、

 会ったことないから分からんけどさ、

 何か、怖そうな人だな・・・って」


「明後日の、母さんの命日、

 僕の父さんが、九州から来るんだ・・・」


「・・・で?」


「明日の夜、

 多分、じいちゃんに訊かれる・・・。

 父さんに会うか、会わないか」


「・・・お前は、どう思ってるの?」


「正直、

 あんまり会いたくない・・・」


「じゃ、

 会わなきゃ良いんじゃね?」


「でも、何か・・・、

 父さんに悪いし・・・」


「悪いのは、

 赤ん坊のお前に、そんなことしたアイツじゃん。

 自業自得じゃん。

 お前が気にする必要ないって」


「そうかな・・・」


「そうだよ。

 それに、会ったら、

 もしかしたら、

 将来、一緒に住むことになるかもしれないじゃん。

 俺だったら、

 そんなの、絶対やだ。

 またキレられたら、

 今度こそ、本当に危ないじゃん。

 一巻の終わりじゃん」


「オマキの、その言葉を聞いて、

 僕は下を向いて、

 また、考え込んだ。

 しばらくして、オマキが言った」


「店、そろそろ出ようぜ。

 いつの間にか、6時をとっくに過ぎてた。

 また、警察の人に、

 早く帰れ・・・って怒られちゃう」


「オマキと僕は席を立って、

 荷物をそれぞれ持って、店を一緒に出た」



「コンビニの前に差し掛かった」


「じゃ、

 俺、今度はここで時間を潰していくから」


「うん、分かった。

 じゃあね」


「お前さ、

 父さんのこともそうだけど、色々と考え過ぎだと思う。

 そんなに気にする必要ないって」


「うん・・・」


「僕が頷くと、

 オマキは、

 じゃあな・・・って言って、

 コンビニの自動ドアを開け、中に入っていった。

 僕は、

 少ししてから、歩き始めた」


「気が重かった」



「家に着いた」


「玄関の戸を開け、中に入って、

 靴を脱いでいると、

 お勝手から、ばあちゃんが出てきた」


「あら、今日は随分と遅かったじゃない。

 何買ってきたの?」


「プラモデル」


「僕は、

 脱いだ靴を揃えながら、そう答えた。

 ちょっと間があって、

 そのあと、ばあちゃんの声は聞こえてきた」


「晩ご飯、

 ちょうど今、茶の間に用意しようと思っていたところなの。

 お前も、手を洗ったら運ぶの手伝ってちょうだい。

 それと、

 誕生ケーキも、ちゃんと買ってあるからね。

 晩ご飯のあと、お祝いしましょうね」

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