146.「何で言ってくれたの?」
「何で言ってくれたの?」
「オマキが、しばらくして尋ねた」
「僕が、
下を向いたまま、黙っていると、
オマキが、また尋ねた」
「俺が可哀想だったから?」
「それもあるけど・・・、」
「僕は、
そう言って、少し考えたあと、
顔を上げ、周りを見た。
近くの席に人がいないことを確認して、
それから続けた」
「あの前の日の夜、
僕、オマキを見たんだ、
・・・隣町の、本屋の前で」
「オマキは、何も言わなかった。
何事も無かったかのように、
ゲームを、そのまま続けていた。
僕は、
少ししてから、更に言った」
「あの夜、
じいちゃんの車に乗って、ご飯を食べに行ったんだ。
で、
その帰り、スーパーに寄っていくことになって、
じいちゃんたちの買い物が終わるのを本屋で待とう・・・って思って、
ひとりで本屋へ向かって、
大通りの信号が変わるのを、バスの待合所で座って待ってたら、
本屋からオマキが出てくるのが見えて、
僕の目の前を、走って通り過ぎていって、
それで・・・」
「僕は、そこで話すのをやめた。
上目で、こっそりとオマキを見た。
オマキは、
ゲーム機の画面に目を向けたまま、指を黙々と動かしていた」
「僕は、
しばらくしてから訊いた」
「お金、払った?」
「オマキは答えなかった」
「お店の人に言った?」
「オマキは答えなかった」
「お店に、ちゃんと返した?」
「オマキは、
やっぱり、何も答えなかった」




