145.「それから、しばらくの間・・・」
「それから、しばらくの間、
お互いに何も話さなかった」
「オマキは、ずっとゲームをしていたし、
僕は、
下を向いたまま、そんなオマキをときどき上目でチラッと見て、
手に持ったポテトの切れ端を、ちょっとずつ齧っていた」
「いつからここにいるの?」
「ポテトが残り1本になって、
少ししてから顔を上げて、尋ねてみると、
オマキは、
ゲーム機の画面から目を離さずに、言葉を返した」
「だいたい1時くらいから」
「ずっとゲームしてたの?」
「ずっとじゃないけど、
まぁ、だいたいずっと」
「いつまでいるの?」
「ここ?」
「うん」
「僕が頷くと、
オマキは、すぐ近くの壁を見上げた。
僕も、そっちを見上げた。
壁掛け時計があった」
「あと20分」
「って事は、
6時ちょっと前くらい?」
「うん」
「何で?」
「僕は、
オマキを再び見て、尋ねた。
オマキは、
もう、ゲームを再開させていて、
指を動かしながら答えた」
「この前、
別のお店でこうやってゲームしてたら、警察の人が来て、
注意されたんだ。
早く家に帰りなさい・・・って。
それが、6時ちょっと過ぎのことだったから、
だから今は、
だいたい6時前にはお店を出るようにしてる」
「家に帰るの?」
「帰らない」
「何で?」
「帰りたくないから」
「・・・何で?」
「家に父さんがいるから」
「それを聞いて、
僕は、静かに下を向いた。
出来るだけ考えないようにしていたことを思い出してしまって、
それで、暗い気持ちになった」
「・・・たの、お前?」
「しばらくして、オマキが何かを訊いた。
僕は、
でも、それを聞き逃してしまった。
だから、
慌てて顔を上げて、訊き返した」
「え?。
ゴメン、聞いてなかった。
今、何て言ったの?」
「先生の机に、
イジメのこと書いたメモ入れたの、お前?」
「そう言ったオマキは、
顔を伏せたまま、目だけを上に向け、
メガネとの隙間から、僕の驚いた顔をチラッと見て、
視線を、またゲーム機へ戻した」
「・・・何で、そう思ったの?」
「僕は、
少ししてから、そう訊き返した。
オマキは、
ゲームをしながら、そっけなく答えた」
「何となく」
「そっか・・・」
「で、お前なの?」
「僕は、
ちょっと迷ったけど、正直に頷いた」
「オマキは、
また、上目でチラッと僕を見て、
その後、
ゲームを続けながら、言った」
「サンキュー」
「うん・・・」
「僕は、
もう一度、頷いた。
そして、
少し時間が経ってから、トレイの上にあるポテトに目を向けて、
最後の1本に、黙って手を伸ばした」




