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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
145/292

145.「それから、しばらくの間・・・」

「それから、しばらくの間、

 お互いに何も話さなかった」


「オマキは、ずっとゲームをしていたし、

 僕は、

 下を向いたまま、そんなオマキをときどき上目でチラッと見て、

 手に持ったポテトの切れ端を、ちょっとずつ(かじ)っていた」



「いつからここにいるの?」


「ポテトが残り1本になって、

 少ししてから顔を上げて、尋ねてみると、

 オマキは、

 ゲーム機の画面から目を離さずに、言葉を返した」


「だいたい1時くらいから」


「ずっとゲームしてたの?」


「ずっとじゃないけど、

 まぁ、だいたいずっと」


「いつまでいるの?」


「ここ?」


「うん」


「僕が頷くと、

 オマキは、すぐ近くの壁を見上げた。

 僕も、そっちを見上げた。

 壁掛け時計があった」


「あと20分」


「って事は、

 6時ちょっと前くらい?」


「うん」


「何で?」


「僕は、

 オマキを再び見て、尋ねた。

 オマキは、

 もう、ゲームを再開させていて、

 指を動かしながら答えた」


「この前、

 別のお店でこうやってゲームしてたら、警察の人が来て、

 注意されたんだ。

 早く家に帰りなさい・・・って。

 それが、6時ちょっと過ぎのことだったから、

 だから今は、

 だいたい6時前にはお店を出るようにしてる」


「家に帰るの?」


「帰らない」


「何で?」


「帰りたくないから」


「・・・何で?」


「家に父さんがいるから」


「それを聞いて、

 僕は、静かに下を向いた。

 出来るだけ考えないようにしていたことを思い出してしまって、

 それで、暗い気持ちになった」



「・・・たの、お前?」


「しばらくして、オマキが何かを訊いた。

 僕は、

 でも、それを聞き逃してしまった。

 だから、

 慌てて顔を上げて、訊き返した」


「え?。

 ゴメン、聞いてなかった。

 今、何て言ったの?」


「先生の机に、

 イジメのこと書いたメモ入れたの、お前?」


「そう言ったオマキは、

 顔を伏せたまま、目だけを上に向け、

 メガネとの隙間から、僕の驚いた顔をチラッと見て、

 視線を、またゲーム機へ戻した」


「・・・何で、そう思ったの?」


「僕は、

 少ししてから、そう訊き返した。

 オマキは、

 ゲームをしながら、そっけなく答えた」


「何となく」


「そっか・・・」


「で、お前なの?」


「僕は、

 ちょっと迷ったけど、正直に頷いた」


「オマキは、

 また、上目でチラッと僕を見て、

 その後、

 ゲームを続けながら、言った」


「サンキュー」


「うん・・・」


「僕は、

 もう一度、頷いた。

 そして、

 少し時間が経ってから、トレイの上にあるポテトに目を向けて、

 最後の1本に、黙って手を伸ばした」

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