144.「2月8日」
「2月8日」
「その日は土曜日で、
学校も部活も無かった」
「みんなで卓球して遊んで、その帰り、
日暮れどきの商店街の道を、友達とふたりで歩いていた。
友達と話しながら、
ふと、道の脇にあるファストフードの店を見ると、
奥の席に、
僕と同じくらいの背の、メガネをかけた子供が座っていた」
「オマキだった。
オマキは、店の中でひとりでゲームをしていて、
そのゲーム機の画面に目を向けたまま、
テーブルの上の、紙コップに差したストローに口を伸ばし、
ジュースをちょっとだけ飲んで、
すぐに、
また、ゲームを始めた」
「知ってる?、
オマキってさ、今度はブラスバンド部に入ったんだって」
「友達が、そう言った」
「うん、知ってる」
「前に向き直した僕は、
歩きながら、そう返した」
「次の日」
「僕の、11回目の誕生日」
「午前中は子供会があって、市民体育館でスポチャンをやった。
お昼に、
スタッフの人が作ってくれた豚汁と俵のおにぎりを食べて、
その後、お片付けをして、
そうして子供会が終わったあと、
スマホを持ってる友達が、仲の良い人を何人か呼んで、
みんなで近所のオモチャ屋さんに行った。
お店の1階の売り場にある色々なオモチャを見て回って、
それから2階に上がって、
そこにあるミニ四駆のコースで、大会用のマシンを走らせていた友達たちと話をしていると、
いつの間にか5時を過ぎてて、
それで、
みんな、家に帰ることになった」
「オモチャ屋さんを出て、友達と別れて、
ひとり、商店街を歩いているとき、
また、ファストフードの店の前を通った。
歩きながら、店の中を覗くと、
奥の席には、その日もオマキがいて、
ひとりでゲームをしていた」
「僕は、足を止めた。
少しの間、じっと見ていた。
でも、
オマキが指先をメガネとの隙間に入れて、少しだけ目をこすって、
その後、こちらを振り向こうとしたので、
僕は、すぐに見るのをやめて、
再び歩き始めた」
「本屋が近付いてきた」
「折り紙の本とか漫画とかを、ここでちょっと見てから帰ろうと思って、
入り口の扉を手で押して、中に入った。
けど、
棚の前で、
台に乗って、本の整理をしていた店員さんを見たら、
段々と胸が苦しくなっていって、
それで、
1分もしないうちに、本屋を出た」
「僕は、
来た道の方を向き、歩き出した。
でも、すぐに立ち止まった」
「下を向いて、考えて、
ちょっとしてから顔を上げて、
また、歩き出した」
「そのまま、
ファストフードの店に向かった」
「オマキは、
まだ、奥の席でゲームをしていた。
僕は、
自動ドアを開けて、中に入った。
フライドポテトを注文して、
それが乗ったトレイを持って、オマキのいるテーブルに向かった」
「そのときの店内は、そんなに混んでいなかった。
半分以上のテーブルが空いていた。
僕は、
オマキの横に立つと、少ししてから声をかけた」
「何してるの?」
「オマキはビクッとし、こっちを見上げた。
そして、僕の顔を確認すると、
すぐに、またゲーム機の画面に視線を戻して、
指を動かしながら答えた」
「ポケドラ。
・・・Gじゃない方」
「面白いの?」
「まぁまぁ」
「そこ、座っていい?」
「僕が尋ねると、
オマキは、ちょっとしてから答えた」
「いいよ」
「僕は、
荷物を奥の席に置いてから、持っていたトレイをテーブルの上に下ろし、
そうして、オマキの向かい側に座った」
「ポテト、食べる?」
「いい」
作中に登場するスポチャンは、スポーツチャンバラの略です。




