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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
143/292

143.「4時半になった・・・」

「4時半になった。

 教室に残っているのは、

 僕を入れて、3人になっていた」


「みんな、もうとっくに宿題を終わらせていた。

 窓際の席の人は、

 段々と薄暗くなっていく外の景色を、ぼーっと眺めていたし、

 別の人は、

 プリントの裏に、何かの絵を描いていた」


「僕は、

 机にほっぺたをくっつけ、顔を横にしたまま突っ伏してて、

 ときどき上体を起こして、壁掛け時計に目を向け、

 また、机に突っ伏していた」


「誰も喋っていなかった」


「静かだった」



「教室の扉が、ガラガラッと開いた」


「僕は体を起こし、そっちを見た」


「次、お前の番だから」


「戻ってきた人に、そう言われて、

 僕は席を立った」


「開いたままの扉から外に出たあと、

 教室の方を振り返って、扉を閉めようとしたけど、

 すぐにやめた。

 そのまま廊下を歩いて、

 ひとり、視聴覚室へと向かった」


「不安だったし、すごく緊張していた」



「視聴覚室の前に着いた」


「入り口の扉をじぃっと見て、

 少ししてから、手をゆっくりと持ち上げて、

 コンコン・・・って、ノックした」


「どうぞ」


「中から、先生の声がすぐに返ってきた」


「僕は扉を開けて、

 失礼します・・・と言って、中に入った」



「先生は、入り口に近いところの長机にいて、

 まだノートに何かを書き込んでいた」


「歩きながらチラッと見ると、

 ノートは細かい字でビッシリだった」


「そこに座って」


「顔を上げずに、そう言った先生は、

 ペンの先で隣の席を指した」


「僕は、もう一度、

 失礼します・・・と言って、イスに座った」


「オマキ君が、ずっとイジメられていたことは知ってるよね?」


「先生は、そう言ってからノートを捲って、

 体を、ゆっくりと僕の方に向けた」


「はい、・・・知ってます」


「あなたは、いつ頃気付いたの?」


「・・・11月に入って、すぐのときくらいです」


「すぐ・・・って、いつ?」


「部活の遠征試合のときです。

 確か、日曜日だったと思います」


「僕が、そう答えると、

 先生は、ノートをパラパラと捲って、

 やがて手を止め、

 そのページを見ながら言った」


「午前中のことかしら?。

 それとも、午後?」


「えっと・・・、

 お昼休みだったから、午後だと思います」


「5、6年生がオマキ君に、

 お笑い芸人のネタを、

 校庭の真ん中で、ひとりでやらそうとした・・・ってヤツかしら?」


「えっと・・・、

 細かいことは覚えてないですけど、

 多分、そうです」


「先生は、

 それを聞いて、ため息をつき、

 僕に言った」


「でも、他の人たちの話によると、

 オマキ君は、

 もっと前から、色々とイジメられていたみたいだけど、

 あなたは、それには気付かなかったの?」


「えっと・・・、

 多分、気付かなかったと思います・・・」


「オマキ君は、

 だいたい10月頃から、

 部活や休み時間のときに、しょっちゅう芸をさせられていた・・・って聞いたけど、

 あなたは、それは知らなかったの?。

 見たこと無かった?」


「見たことあります・・・」


「オマキ君は、

 それを好きでやってるように見えた?」


「えっと、その・・・、

 見えませんでした・・・」


「じゃあ、

 オマキ君は、どんな気持ちでやっていたと思う?」


「えと、その・・・、

 嫌な気持ち、です・・・。

 多分・・・」


「多分?。

 それって違うかもしれない、ってこと?」


「いや、

 えと、その・・・、

 多分じゃないです・・・。

 すみません・・・」


「そうよね?、

 オマキ君は嫌な気持ちで、仕方なくやっていたのよね?。

 みんなに、無理やりやらされていたのよね?」


「はい・・・」


「だったら、

 どうして言ってあげなかったの?、嫌がってるって。

 あなたは可哀想と思わなかったの?」


「可哀想と・・・、思いました・・・」


「じゃあ、何で助けてあげなかったの?。

 見ていて何とも思わなかった?。

 あなたは平気だったの?」


「すみません・・・」


「先生、前に言ったよね、

 イジメは最低な人がやることだし、

 それを見ているだけで助けようとしない人も、

 同じくらい最低な人だって。

 それなのに、こんなことになっちゃって・・・。

 先生の気持ち、分かる?」


「すみません・・・」


「先生は、

 情けない・・・って、呟くように言って、

 そのあと、大きくため息をついた。

 そして、

 机の上にあるノートの方を向いて、そこに何かを書いた」


「僕は、

 下を向いたまま、

 小さな声で、もう一度、

 すみません・・・って謝った」



「それからは、

 オマキが受けていたイジメの内容について、色々と訊かれた。

 僕は、

 実際に自分が見たことや、噂で聞いたことなどを話した」


「部活での、スパイク拭きなどの雑用を、

 ひとりでずっとやらされていたこと。

 廊下を歩いているときに、後ろから蹴りを入れられたり、

 頭を叩かれたりしていたこと。

 電話で、女子たちに無理やり告白させられていたこと」


「先生は、

 ペンを動かしながら、それらの話をひとつずつ聞いた」


「ときどき、

 その話は誰に聞いたの・・・とか、それは何時頃のこと・・・とか、

 そういうことを訊かれたけど、

 先生は、

 それらのことを、もう既に知っているみたいだった。

 どちらかと言うと、確認に近かった」



「じゃあ、そろそろ終わりにするけど、

 最後に、先生に何か言っておきたいことはある?」


「しばらくして、そう言われた」


「僕は、自分の膝を見つめたまま、

 じぃっと考えていた。

 どうしよう・・・って、悩んでいた」


「分かったわ。

 じゃあ、

 教室に戻って、次の人を呼んできてちょうだい」


「少ししてから、

 先生が、そう言った」


「僕は、

 イスに座ったまま、まだちょっとだけ悩んでいたけど、

 やがて、ゆっくりと立ち上がると、

 出口の方へ歩いていった」


「扉を開け、外に出たあと、

 先生の方を向いて、

 失礼しました・・・って、小さく言って、

 視聴覚室の扉を、ゆっくりと閉めた」


「その後、

 教室に戻った僕は、次の人に声をかけてから、

 ランドセルを背負って、荷物を持って、

 ひとり、学校を出た」


「外は、どんよりとした曇り空で薄暗くて、

 冷たい風が吹いていた」


「雪が、また降り始めていた」



「次の日の、朝の会。

 オマキがイジメられていたことを、

 先生は、みんなの前で言った」


「午前中の授業が無くなって、

 その時間は、

 イジメについて、みんなで考える会になった」


「先生の長い話があって、

 怒られて、

 その後、原稿用紙2枚が全員に配られて、

 反省文を書いた」



「授業が終わったあとの部活は、

 その日も体育館で行われた」


「でも、そこに、

 6年生の半分くらいと、5年生の一部の人はいなかった」


「オマキを、よくイジメていた人たちだった」


「4時半に部活が終わって、

 多目的教室で着替えて、校舎を出て、

 友達と歩きながら、視聴覚室を見上げると、

 電気が点いていた」


「まだ、怒られているようだった」



「オマキへのイジメは、

 そうして、

 その日を境にして、ピタッと止まった」


「4時半になった。

 教室に残っているのは、

 僕を入れて、3人になっていた」


「みんな、もうとっくに宿題を終わらせていた。

 窓際の席の人は、

 段々と薄暗くなっていく外の景色を、ぼーっと眺めていたし、

 別の人は、

 プリントの裏に、何かの絵を描いていた」


「僕は、

 机にほっぺたをくっつけ、顔を横にしたまま突っ伏してて、

 ときどき上体を起こして、壁掛け時計に目を向け、

 また、机に突っ伏していた」


「誰も喋っていなかった」


「静かだった」



「教室の扉が、ガラガラッと開いた」


「僕は体を起こし、そっちを見た」


「次、お前の番だから」


「戻ってきた人に、そう言われて、

 僕は席を立った」


「開いたままの扉から外に出たあと、

 教室の方を振り返って、扉を閉めようとしたけど、

 すぐにやめた。

 そのまま廊下を歩いて、

 ひとり、視聴覚室へと向かった」


「不安だったし、すごく緊張していた」



「視聴覚室の前に着いた」


「入り口の扉をじぃっと見て、

 少ししてから、手をゆっくりと持ち上げて、

 コンコン・・・って、ノックした」


「どうぞ」


「中から、先生の声がすぐに返ってきた」


「僕は扉を開けて、

 失礼します・・・と言って、中に入った」



「先生は、入り口に近いところの長机にいて、

 まだノートに何かを書き込んでいた」


「歩きながらチラッと見ると、

 ノートは細かい字でビッシリだった」


「そこに座って」


「顔を上げずに、そう言った先生は、

 ペンの先で隣の席を指した」


「僕は、もう一度、

 失礼します・・・と言って、イスに座った」


「オマキ君が、ずっとイジメられていたことは知ってるよね?」


「先生は、そう言ってからノートを捲って、

 体を、ゆっくりと僕の方に向けた」


「はい、・・・知ってます」


「あなたは、いつ頃気付いたの?」


「・・・11月に入って、すぐのときくらいです」


「すぐ・・・って、いつ?」


「部活の遠征試合のときです。

 確か、日曜日だったと思います」


「僕が、そう答えると、

 先生は、ノートをパラパラと捲って、

 やがて手を止め、

 そのページを見ながら言った」


「午前中のことかしら?。

 それとも、午後?」


「えっと・・・、

 お昼休みだったから、午後だと思います」


「5、6年生がオマキ君に、

 お笑い芸人のネタを、

 校庭の真ん中で、ひとりでやらそうとした・・・ってヤツかしら?」


「えっと・・・、

 細かいことは覚えてないですけど、

 多分、そうです」


「先生は、

 それを聞いて、ため息をつき、

 僕に言った」


「でも、他の人たちの話によると、

 オマキ君は、

 もっと前から、色々とイジメられていたみたいだけど、

 あなたは、それには気付かなかったの?」


「えっと・・・、

 多分、気付かなかったと思います・・・」


「オマキ君は、

 だいたい10月頃から、

 部活や休み時間のときに、しょっちゅう芸をさせられていた・・・って聞いたけど、

 あなたは、それは知らなかったの?。

 見たこと無かった?」


「見たことあります・・・」


「オマキ君は、

 それを好きでやってるように見えた?」


「えっと、その・・・、

 見えませんでした・・・」


「じゃあ、

 オマキ君は、どんな気持ちでやっていたと思う?」


「えと、その・・・、

 嫌な気持ち、です・・・。

 多分・・・」


「多分?。

 それって違うかもしれない、ってこと?」


「いや、

 えと、その・・・、

 多分じゃないです・・・。

 すみません・・・」


「そうよね?、

 オマキ君は嫌な気持ちで、仕方なくやっていたのよね?。

 みんなに、無理やりやらされていたのよね?」


「はい・・・」


「だったら、

 どうして言ってあげなかったの?、嫌がってるって。

 あなたは可哀想と思わなかったの?」


「可哀想と・・・、思いました・・・」


「じゃあ、何で助けてあげなかったの?。

 見ていて何とも思わなかった?。

 あなたは平気だったの?」


「すみません・・・」


「先生、前に言ったよね、

 イジメは最低な人がやることだし、

 それを見ているだけで助けようとしない人も、

 同じくらい最低な人だって。

 それなのに、こんなことになっちゃって・・・。

 先生の気持ち、分かる?」


「すみません・・・」


「先生は、

 情けない・・・って、呟くように言って、

 そのあと、大きくため息をついた。

 そして、

 机の上にあるノートの方を向いて、そこに何かを書いた」


「僕は、

 下を向いたまま、

 小さな声で、もう一度、

 すみません・・・って謝った」



「それからは、

 オマキが受けていたイジメの内容について、色々と訊かれた。

 僕は、

 実際に自分が見たことや、噂で聞いたことなどを話した」


「部活での、スパイク拭きなどの雑用を、

 ひとりでずっとやらされていたこと。

 廊下を歩いているときに、後ろから蹴りを入れられたり、

 頭を叩かれたりしていたこと。

 電話で、女子たちに無理やり告白させられていたこと」


「先生は、

 ペンを動かしながら、それらの話をひとつずつ聞いた」


「ときどき、

 その話は誰に聞いたの・・・とか、それは何時頃のこと・・・とか、

 そういうことを訊かれたけど、

 先生は、

 それらのことを、もう既に知っているみたいだった。

 どちらかと言うと、確認に近かった」



「じゃあ、そろそろ終わりにするけど、

 最後に、先生に何か言っておきたいことはある?」


「しばらくして、そう言われた」


「僕は、自分の膝を見つめたまま、

 じぃっと考えていた。

 どうしよう・・・って、悩んでいた」


「分かったわ。

 じゃあ、

 教室に戻って、次の人を呼んできてちょうだい」


「少ししてから、

 先生が、そう言った」


「僕は、

 イスに座ったまま、まだちょっとだけ悩んでいたけど、

 やがて、ゆっくりと立ち上がると、

 出口の方へ歩いていった」


「扉を開け、外に出たあと、

 先生の方を向いて、

 失礼しました・・・って、小さく言って、

 視聴覚室の扉を、ゆっくりと閉めた」


「その後、

 教室に戻った僕は、次の人に声をかけてから、

 ランドセルを背負って、荷物を持って、

 ひとり、学校を出た」


「外は、どんよりとした曇り空で薄暗くて、

 冷たい風が吹いていた」


「雪が、また降り始めていた」



「次の日の、朝の会。

 オマキがイジメられていたことを、

 先生は、みんなの前で言った」


「午前中の授業が無くなって、

 その時間は、

 イジメについて、みんなで考える会になった」


「先生の長い話があって、

 怒られて、

 その後、原稿用紙2枚が全員に配られて、

 反省文を書いた」



「授業が終わったあとの部活は、

 その日も体育館で行われた」


「でも、そこに、

 6年生の半分くらいと、5年生の一部の人はいなかった」


「オマキを、よくイジメていた人たちだった」


「4時半に部活が終わって、

 多目的教室で着替えて、校舎を出て、

 友達と歩きながら、視聴覚室を見上げると、

 電気が点いていた」


「まだ、怒られているようだった」



「オマキへのイジメは、

 そうして、

 その日を境にして、ピタッと止まった」

念の為に書いておきますが、

イジメの話は、小説用に私が勝手に考えたものです。

フィクションです。

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