138.「11月のあとの方になると・・・」
「11月のあとの方になると、
オマキは、先輩や一部の5年生たちの完全なパシリになっていた」
「ドリブル練習のときのカラーコーンを並べたり、
紅白戦のときのライン引き、部活終わりのトンボがけ・・・、
そういった雑用は、
5年も6年も関係無く、みんな順番でやることになっていたけど、
オマキだけは、誰かの代わりに毎回やらされていた」
「部活の遠征のときは、
列の後ろの方で、みんなの荷物を持たされていたし、
部活が終わったあと、
オマキが、僕たちと一緒にボールを雑巾で拭いていると、
先輩たちが、
楽しそうにお喋りをしながら、履いていたスパイクをオマキの前へ次々と投げ、
そのまま何も言わずに、校舎にある多目的教室の方へ着替えに行き、
それに続いて、
何人かの5年生たちも、同じように自分のスパイクをオマキの前に投げ、
そのまま、校舎の方へと歩いていった」
「僕や他のみんなも、そんなオマキがちょっと可哀想だったから、
先輩たちが見ていないとき、スパイク拭きをコッソリと手伝っていた。
でも、何日かしてそれがバレた。
先輩に、
『俺らはオマキに任せたのに、何でお前らがやってるんだよ。
今度、誰かが手伝っていたら、
そしたら、次からはソイツに全部やらせるからな』・・・って言われて、
それで、
僕もみんなも、オマキを手伝わなくなった。
オマキは、辺りが暗くなり始めても、
体育倉庫の陰で、
ひとり、スパイク拭きを続けていた」
「先輩たちの、オマキに対するそういった扱いは、
部活の間だけじゃなかった」
「休み時間のとき、
ヘッドロックをかけられながら廊下を歩いていたオマキに、
後ろから別の先輩がケリを入れたり、
笑いながら頭にバリカンを決めていたりしているのを、何回か見かけたことがあった」
「噂によると、
土日とか、学校が休みの日も、
そんな感じのようだった」
「公園の砂場で、
アニメやゲームに出てくる必殺技を受ける役をやらされているのを見た・・・という人がいたし、
自転車の前カゴにジュースやお菓子をたくさん入れたオマキが、
先輩たちの方へ走っていくのを見た・・・という人もいた」
「こういった噂は、
日が経つにつれて、段々と酷くなった。
クラスの女子全員に、電話で無理やり告白させられた・・・という噂もあったし、
漫画の新刊をオマキに持ってこさせて、
それをみんなで回して読んでいる・・・という噂もあった」
「部活中でも、
先生の見ていないところで腕をつねったり、足を引っ掛けて転ばせたり、
オマキの靴や服を、ライン引きの粉まみれにしたり・・・、
とにかく、やりたい放題だった」
「誰がどう見てもイジメだった」
「それに気付いていないのは、学校の先生たちだけで、
5年の男子も女子も、
そして多分、6年生も、
全員、オマキのイジメを分かっていた」
「でも、
みんな、見て見ぬフリをした」
「オマキがイジメられているのを見かけても、
何事も無かったかのように、その場を通り過ぎていたし、
先生に言いつける人もいなかった」
「誰も助けなかった」
「僕だって、そうだった」
「見て見ぬフリをした」
「イジメに巻き込まれるのが怖くって、
だから、助けなかった」
「友達とバカ話をして、たくさん笑って、
そうして、
出来るだけオマキのことを考えないようにして、毎日を過ごしていた」
「最低なヤツだった」




