137.「11月に入った」
「11月に入った」
「日曜日、
近くの小学校に出向いて、サッカーの対外試合をすることになった」
「午前中に5年生の試合が終わって、
階段とか適当な段差に座って、お昼ご飯を食べて、
午後から始まる6年生の試合を、みんなで待っているときだった。
友達とトイレに行って、その帰り、
校庭に下りていくと、
ピッチに入るタッチラインの前で、
何人かの男子が、かたまって立っていた。
その、かたまって立っている男子は、
ウチの学校の6年と5年で、
ひとりだけが、こっちを向いて立っていて、
残りはみんな、向こうを向いていた。
よくよく見てみると、
そのかたまりの中心に、オマキの姿が見えた。
オマキは、
タッチラインの上で両足を突っ張り、進まないよう踏ん張っていて、
周りの人たちは、楽しそうに何かを言いながら、
その、オマキの背中や肩とかを押していた」
「隣を歩いていた友達が、
進む向きを急に変え、僕に言った」
「そっちはやめて、こっちに行こうぜ」
「僕は、ちょっと歩いてから足を止めた」
「そうして、少ししてから、
オマキに背中を向け、友達の方に向き直すと、
そのまま、歩き始めた」
「でも、
友達と並んで歩いてるときに、また足を止めた」
「オマキの方を振り返り、そっちへ近付いていった」
「先輩たちの声が、段々とハッキリ聞こえるようになった」
「いいから行けって。
ぜってぇウケるから。
そしたらお前、こっちの学校でも人気者だぞ?。
んな心配するなって」
「お前、男だろ。
さっさと行って、やって来いよ。
大丈夫だって。俺らがここで見といてやるから」
「僕は、
そんなことを言って囃し立てている先輩たちの傍へ行き、立ち止まった。
こっちを向いて立っていた人が、僕を睨み付けて言った」
「あ?、何だよお前。
邪魔すんなよ」
「その瞬間、
オマキの背中を押していた先輩たちは、ピタッと止まった。
一斉に僕の方を振り返る」
「僕は、
その先輩たちの顔を見ながら、口を開いた」
「あの・・・、すみません。
え、えと、その・・・、
せ、先生がオマキ君を探してて、それで僕・・・」
「先輩たちは、
途端に嫌な顔をして、舌打ちをした」
「チッ、・・・行こうぜ。
あーあ、クソつまんねぇ・・・」
「そう言って、
先輩たちは去っていった」
「僕は、
あとに残ったオマキに近付き、声をかけた」
「僕たちも戻ろうよ」
「オマキは返事をしなかった。
こちらに背中を向け、俯いたまま、
そこに立ち尽くしていた」
「そのとき、
離れたところにいた友達が駆け寄ってきて、
僕に言った」
「バカだなぁ、お前。
俺、知らないからな」
「僕は下を向いた。
何も言い返せなかった」
「友達は、
少ししてから、ため息をつき、
僕に訊いた」
「で、
お前、何て言ったわけ?」
「えっと、僕、
先生がオマキ君を探してる、って・・・」
「だったら、さっさと先生のところに行くフリをしろよ。
先輩たちが、こっち見てるんだぞ」
「僕は、
その瞬間、ドキッとした。
怖くなった。
オマキの方を向いて、慌てて言った」
「今の聞いた?。早く行こ」
「オマキは顔を少し上げ、こっちを向いた」
「僕と友達は、すぐに校舎の方へと向き直し、
ふたり揃って駆け出した」
「階段を上がったあと、後ろを振り返ると、
オマキは、ちゃんとついてきていた」
「顔中が赤くなっていて、泣きそうな表情をしていた」




