136.「10月・・・」
「10月。
運動会の日が近付いてきた」
「校庭で全体練習があって、その行進が終わって、
次の練習の開始時間まで、みんなで休憩して待ってるときだった。
後ろの方で、
何人かの男子の、大きな笑い声が聞こえた」
「何コイツ、すっげー面白いじゃん。
ちょー腹痛いんですけどー」
「俺なんか笑い過ぎで、顔中の筋肉がいてーわ。
こんな笑ったの久し振りだわ」
「すげーなコイツ、お前の言った通りじゃん」
「でっしょー?。
コイツ、大人しいくせに実は意外と面白いヤツで・・・」
「僕は、声のした方を振り向いた。
隣のクラスの男子、数人が歩いてて、
先頭にはオマキがいた。
そのときのオマキは、
お笑い芸人のネタの、進化した〇〇が歩くシリーズをやっていて、
体の前で伸ばした腕をこんなふうにパタパタと動かし、腿を高く上げ、
・・・ッチーン!、・・・ッチーン!、・・・ッチーン!、って言いながら歩いてた」
「おい、オマキ、
進化した電子レンジが歩くシリーズはもういいから、
次はタクワンでやってみろよ。
3・・・、2・・・、1・・・、
ハイ!、進化したタクワンが歩くシリーズ!」
「そう言われたオマキは、ムンクの叫びみたいな変顔になった。
そして、
両腕も両足も伸ばしたままで、
体を左、右、左、右って順番に傾けて、
タックワン!、タックワン!・・・って強く言いながら歩き始めた」
「タクワンって、進化するとそんな顔になるのかよ。
俺、初めて知ったわ」
「タックワン!、タックワン!って何だよ。
あー、くっそ腹いてー」
「オマキのすぐ後ろを歩いていた男子は、
そんな感じのことを言って、
また、ゲラゲラと大きな声で笑った」
「僕のクラスのみんなも、
オマキの歩くタクワンを見て、クスクスと笑っていた」
「あの転校生ってさー、すげーオモロくね?」
「僕の隣にいた友達が近くに顔を寄せ、そう訊いた」
「僕は、
少ししてから、何も言わずに頷いた」
「だよな、面白いよな。
ちくしょう、羨ましいなぁ。
何であの転校生、ウチのクラスに入ってこなかったんだよ」
「そう言った友達は、僕から離れると、
オマキを見ながら、腹を抱えて笑った」
「僕も確かに面白いと思ったし、ちょっとだけ笑っちゃったけど、
でも、すぐに笑うのをやめた」
「僕の心の奥で、
よく分からない、嫌な気持ちが、
グルグルと動いていた」
「オマキは、
それからは、その男子グループと連むようになった」
「休み時間のときも部活のときも、いつも一緒で、
度々出される、お笑い芸人のネタのリクエストに対して、
ニコニコと笑いながら、
一生懸命に、面白おかしく応えていた」
「運動会が終わって、しばらく経ったある日のことだった。
友達と話をしながら、学校の廊下を歩いてると、
向こうから、
階段を下りてきたばかりの、6年生のグループが歩いてきた。
サッカー部の先輩たちだった」
「僕も友達も立ち止まって、廊下の端に寄ってから、
チーッス、って挨拶した」
「先輩たちは、軽く手を上げると、
そのまま楽しそうに何かの話をしながら、僕たちの横を通り過ぎていった」
「その先輩たちのすぐ後ろを、
5年生の、ふたりの男子が歩いていた。
ふたりとも隣のクラスの男子で、
そのうちのひとりは、オマキだった」
「友達と僕が、再び廊下を歩き出すと、
後ろから声が聞こえてきた」
「えー、
そういうの、俺じゃなくてオマキに言って下さいよぉ。
オマキの方がそっくりだし、ぜったい面白いッス。
保証するッス。
・・・おい、オマキ、
さっきの先輩の言葉、聞いただろ?。
早くやれよ。トロいなぁ。
いい加減、少しは学習しろよな」
「僕は、後ろを振り返ろうとした。
そしたら、隣を歩いてた友達がすぐに言った」
「やめとけって。
俺らが目ぇつけられるじゃん」
「それを聞いて、
僕は、振り返るのをやめた」
「友達が、少ししてから言った」
「アイツ、最低だな」
「僕も、そう思ったけど、
でも、
その友達の言葉に、素直に頷くことは出来なかった」
上述のお笑い芸人のネタは、私が勝手に考えたヤツです。
多分、大丈夫だと思いますが、
既に誰かがやっていたネタでしたら、スミマセン・・・。




