表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
134/292

134.「今年の、2月10日の夜・・・」

「今年の、2月10日の夜。

 母さんの命日の、前日。

 茶の間のちゃぶ台で、3人で晩ご飯を食べてるとき、

 じいちゃんが僕を見て・・・」


「・・・」


「・・・」


話が、急に途切れた。

聞こえてくる音は、

また、虫たちの声だけになる。


私は、そのまま、

しばらくの間、待ってみた。

やがて、

顔を少年の方に向ける。

少年は、

体育座りで、膝を深く抱え込んだままで、

地面の、少し離れたところを、

じぃっと見ていた。

考え事をしているようだった。


私は、次いで、

少年との間にあるスマートフォンに視線を落とした。

膝先で組んでいた手を(ほど)こうとしたが、すぐに思い留まる。

・・・時間は、まだまだ大丈夫のはずだ。


視線を起こし、再び少年に目を向ける。

口をおもむろに開く。

「・・・どうしたの?」


尋ねてみると、

少年は、

前を向いたままで言った。

「やっぱ、

 さっきの話、やめていい?」


「さっきの話・・・って、

 今年の2月10日の、晩ご飯を食べてるとき・・・ってヤツ?」


「うん」


「別に良いけどさ・・・、何で?」


「先に、

 学校のこと、話さないといけないから・・・」


そういうことか・・・。


納得した私は、

改めて少年に尋ねた。

「それって、いつの話?」


「去年の9月」


「小5?」


「うん」


「キミがお父さんのことを知ったのは、去年の2月・・・だから、

 これから話してくれる、学校のことは、

 だいたい、その7ヶ月後・・・って、ことだよね?」


「うん」

頷いた少年を見て、

私は、顔を前に戻した。

「分かった。

 じゃあ、続きを聞かせて」


「ごめんね・・・」


「え?、・・・何で?」

そう口にして、

私は、再び少年を見た。


「だって、

 こんな暗い話、ちっとも面白くないでしょ?。

 つまらないでしょ?」


私は、そっと息を吐いた。

正面を向いた。

「電車の中で、キミは私に言ったじゃないか。

 ・・・大事な話、って」


「・・・うん」


「大事な話に、

 面白いも、つまらないも無いよ」


「・・・そっか」


「うん」


「あの・・・」


私は、少年を見た。

「何?」


「あの、近くに寄ってもいい?」


「良いけど・・・、ちょっと待ってて」


「うん」


私は、

少年との間の、2段重ねの燈籠用LEDを持ち上げると、

そのまま、

捻っていた体を戻して、境内の方へと向き直し、

LEDを足元の地面に置いた。

次いで、

充電器とスマートフォンに目を向け、手を伸ばす。

「・・・どうしたの?」


「ん?、何となく・・・」


「もしかして・・・、怖くなった?」

そう言いつつ、

私は、

捻っていた体を、カバンのある反対側へと向け直す。

そして、

充電器とスマートフォンを、そちらのキザハシの板の上に移し、

体を正面に戻しかけたときだった。

私の(すね)の辺りが、ポン・・・と叩かれた。

私は、動きを止めた。

少ししてから、ゆっくりと前に向き直す。

両手を再び膝先で組んで、

その後、目だけを動かして、

隣の様子を、こっそりと覗き見た。


私の肘の、すぐ向こう。

少年の小さな顔。

目線は、まっすぐ斜め下。

真剣な眼差し。

でも、その口元は、

ちょっと、緩んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ