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Summer Echo  作者: イワオウギ
IV
133/292

133.「そこまで話したじいちゃんは・・・」

「そこまで話したじいちゃんは、

 ちゃぶ台の上の湯呑に手を伸ばし、お茶を啜った。

 ばあちゃんが、いつの間にか用意していたもので、

 僕の分もあった。

 でも、

 僕は、それを飲む気になれなかった。

 胸が無性に苦しくて、

 そんな中、

 心臓は、

 ドックン、ドックン・・・って、大きな音を立てて動いていて、

 その音が響くのがツラくて、キツくって、

 そのときの僕は、下を向いたまま、

 両手のコブシをギュウウ・・・って握って、

 じぃっと耐えていた」


「少しすると、

 今度は、ばあちゃんの話が始まった。

 その後の父さんのことだった。

 特に問題を起こすことなく、会社で真面目に働いてること。

 再婚する気は無いこと。

 だから、

 料理や裁縫などを頑張っていること。

 そして、

 毎年、母さんの命日になると、

 お昼過ぎにウチに来て、母さんの墓参りをし、

 そのあと、じいちゃんたちと話をして、

 夜になると、

 また、九州へ帰っていくこと。

 確かそんなことを、ばあちゃんは語った」


「正直言って、そのときのばあちゃんの話、

 僕、

 何となく・・・しか、覚えてないんだ。

 そんな余裕、無かった。

 自分のことで、いっぱいいっぱいだった」




「しばらくして、じいちゃんの声が聞こえた。

 僕に、何かを尋ねたみたいだった」


「僕はハッとして、顔を上げ、

 じいちゃんに訊いた。

 今、何か言った?」


「じいちゃんは、もう一度尋ねた。

 明日、どうする?」


「え?、・・・明日って?」


「明日のお昼過ぎ、

 お前の父さんが、母さんの墓参りのためにウチに来る。

 会ってみるか?」


「僕は、少ししてから下を向いた。

 何が何だか、よく分からなくなっていた。

 ただ、その・・・、

 苦しくて、ツラくて・・・。

 言わなきゃ、言わなきゃ・・・って思ったんだけど、

 でも、

 焦ってばかりで、全然出てこなかった」


「しばらくして、

 ばあちゃんの声が聞こえた」


「ねぇ・・・、

 明日は、()した方が良いんじゃないかしら。

 この様子じゃ、ちょっと・・・」


「じいちゃんが、ため息をついた。

 そのあと、僕に尋ねた」


「どうする?、明日会うのはやめるか?」


「僕は、

 下を向いたまま黙っていた」


「じいちゃんは、

 ちょっとしてから、また言った」


「じいちゃんも、ばあちゃんも、

 お前には、

 1回、父さんに会ってみたらどうか・・・と思っている。

 父さんは充分に反省している。

 確かに、

 あのときは赤ん坊のお前を殺そうとした。

 でも、今はもう大丈夫だ。

 お前の父さんは、そんなことをする人間ではない。

 会えば、お前もきっと分かる。

 気の優しい、良い人だよ」


「僕は、何も答えなかった。

 ずっと下を向いていた」


「やがて、

 じいちゃんの声が聞こえてきた」


「分かった・・・、

 明日、お前を父さんに会わせるのはやめにしよう。

 父さんにも、そうなったことを伝えておく」


「そう言って、じいちゃんとばあちゃんは立ち上がり、

 部屋を出ていった」


「僕は、

 ちゃぶ台でひとり、下を向いたまま、

 茶の間に残った」


「そして、しばらくしてから自分の部屋に戻っていって、

 だいぶ早かったけど、

 電気を消して、ベッドに入った」


「じいちゃんたちが寝て、家の中が静かになって、

 その後、何時間か経っても、

 僕は、全然眠れなかった」

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