127.「小学校1年か、もしかしたら2年のときだった」
「小学校1年か、もしかしたら2年のときだった」
「2月11日」
「母さんの命日」
「午前中に、親戚の人たちとお墓参りをした僕は、
じいちゃんやばあちゃんと別れ、
夜は、カシナ市にある叔父さんの家にいた」
「叔父さんは、母さんの弟で、
お墓参りのあと、
僕は、その叔父さんの車に乗せてもらって、
叔父さんの家族と一緒に、カシナまで連れていってもらっていた」
「母さんの命日の日は、昔からずっとそうだった」
「夜は、叔父さんの家で過ごさせてもらって、
そのまま1泊して、
次の日、
迎えに来てくれた僕のばあちゃんと一緒に、
イナミ町にある僕の家へ、電車と新幹線で帰っていた」
「毎年、僕を叔父さんの家に預ける理由は、
命日の午後になると大勢の人がウチに来て、色々とゴタゴタして騒がしいから・・・、
ってことだった」
「それで、
小学1年か2年の頃の、母さんの命日の夜、
叔父さんの家に預けられていた僕は、ひとりで折り紙をしていたんだ」
「でも、
途中で飽きてしまって、それでテレビを点けた」
「何かのドラマがやっていた」
「僕よりちょっと大きい、小学生くらいの男の子が、
砂浜で、膝を抱えて泣いていた」
「どうして泣いてるのか、よく分からなかった。
でも、
そのまま観ているうちに、何となく分かってきた」
「どうやら、その子は、
赤ん坊の頃、
自分の母親に捨てられてしまったようだった」
「少し前に、それが分かってしまって、
それで、
砂浜で膝を抱えて、泣いているみたいだった」
「不意に、
僕の胸の奥が、ギュウウ・・・って萎んだ」
「その、
何て言ったら良いか、ちょっと難しいんだけど・・・、
僕の心の中を、
寒い風が、ヒュウウ・・・って吹き始めた」
「いつの間にか息が荒くなっていて、心臓もドキドキしていて、
段々と苦しくなってきて、
頭の中がグルグルしてきて、体がグラグラして、
何が何だかよく分からなくなって、
それで、
僕、
急いでリモコンを掴んで、テレビを消した」
「折り紙を適当に片付け、部屋を暗くして、
すぐにお布団の中に潜り込んで、体を丸めた」
「もう、何も考えたくなかった」




