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Summer Echo  作者: イワオウギ
III
112/294

111.「最初のモノ、主の前へ進み出よ!」

最初(さいしょ)のモノ、(あるじ)(まえ)(すす)み出よ!」

大イカが、

会場(かいじょう)のこちら(がわ)の、(うみ)の生き(もの)たちに()かって、

大きな(こえ)で、そう()うと、

すぐに、

もっと大きな(こえ)の、元気(げんき)()返事(へんじ)()こえました。

「ハイ!」


(すこ)(はな)れたところからです。

赤い魚は、そちらへ目を()けます。


(あつ)いクチビルの、青い魚の姿(すがた)が見えました。

会場(かいじょう)(おく)にいる、(うみ)(あるじ)を目()し、

さっそうとした様子(ようす)で、スイスイと(およ)いでいます。

色とりどりの海草(かいそう)()まれた、オシャレなチョッキを()ています。


チョッキの魚は、

(うみ)(あるじ)の、大きな(かお)(まえ)へと(すす)み出ると、

自分(じぶん)(あたま)をペコリと下げました。

それを見た(うみ)(あるじ)も、(だま)ってうなずきます。

(あるじ)(となり)にいる大イカが、

足を1本、(たか)()ち上げていき、

()()き、

大きな声で()げました。

(はじ)め!」


チョッキの魚は、

合図(あいず)とともに、ゆっくり(およ)ぎ出しました。

まずは、

会場(かいじょう)いっぱいに大きく円を(えが)くように、右(まわ)りで(およ)いでいき、

(うみ)仲間(なかま)たちに、自分(じぶん)のチョッキをひろうします。

そうして、

ふたたび、(あるじ)(まえ)へと(もど)ってくると、

そのまま2(しゅう)目を(まわ)りつつもスピードを上げていき、

(しゅう)目、4(しゅう)目・・・と、

その(えが)く円をちょっとずつ小さくしていき、

同時(どうじ)に、

会場(かいじょう)(うみ)を、ちょっとずつ上っていきました。


10(しゅう)ほど(まわ)って、

海中(かいちゅう)に、

巻貝(まきがい)の、とんがった(から)(かたち)(およ)いで(えが)いていったチョッキの魚は、

その巻貝(まきがい)のテッペンに(たっ)するなり、

(うし)ろに宙返(ちゅうがえ)りをし、(さか)さまになって、

海底(かいてい)を見すえて、

そんまま、

びゅーんと、一直線(いっちょくせん)に下りてきました。

そして、

(かた)岩盤(がんばん)(あたま)をぶつける寸前(すんぜん)、クルッと()をひるがえし、

(うえ)()いて、

(うご)きをピタッと()めました。

(すこ)しすると、

いつの()にか()げていたチョッキが、上から()ってきました。

それを顔面(がんめん)でキャッチすると、その()で小さく(よこ)(まわ)り、

チョッキに、自分(じぶん)(からだ)をサッと(とお)します。

それから、

(あるじ)(ほう)()(かえ)り、(およ)いでいき、

その大きな(かお)(まえ)に、ふたたび(もど)って()ると、

宙返(ちゅうがえ)りを、

ぐるん、ぐるん、ぐるん・・・と、(いきお)いよく3(かい)連続(れんぞく)くり(かえ)し、

最後(さいご)に、

(さか)さまの体勢(たいせい)になって、ポーズを()めました。


チョッキの魚は、

(すこ)ししてから(さか)さまをやめ、(あるじ)(ほう)()(なお)しました。

(あたま)をペコリと下げます。

(うみ)(あるじ)が、満足(まんぞく)そうに2()うなずくと、

その(となり)にいる大イカが()いました。

「うむ、ご苦労(くろう)であった。

 あとは、

 (みな)(おど)りが()わるまで、()きな場所(ばしょ)()っているがよい。

 では(つぎ)のモノ、(あるじ)(まえ)(すす)み出よ!」



(うみ)の生き(もの)たちは、

(あるじ)(まえ)次々(つぎつぎ)(あらわ)れては一礼(いちれい)し、

自分(じぶん)のダンスをひろうし、

また(あるじ)(まえ)一礼(いちれい)して、

こちら(がわ)(もど)ってきました。


まだ小さい、エイの子どもたちが、

左右のヒレを、けんめいにパタパタ(うご)かしつつ、

(からだ)の大きな父親(ちちおや)母親(ははおや)にエスコートされ、あちこちを(およ)(まわ)ったり、

クラゲのトリオが、

のんびり、ゆうがに、

ふわりふわりと、(ひろ)会場(かいじょう)(うみ)()ったりしました。


フォーメーションを()み、(いき)ピッタリの(およ)ぎをしていた100ぴき以上(いじょう)の小さな魚たちが、

突然(とつぜん)1ヶ所(いっかしょ)にギュッと(あつ)まって、

(つぎ)瞬間(しゅんかん)

パッと、(うみ)(あるじ)(かたち)になったときには、

そこら(じゅう)から、大きな歓声(かんせい)が上がりましたし、

カニの姉妹(しまい)が、(うつく)しい(こえ)(うた)いながら、

両手(りょうて)のハサミを、(あたま)の上でゆっくり左右に()ったときには、

それを見ていた(うみ)の生き(もの)たちも、

そのハサミの(うご)きに()わせて、(からだ)を左右にゆっくり()らして、

いっしょに(たの)しみました。



赤い魚の(ばん)が、

いよいよ、やって()ました。


(つぎ)のモノ、(あるじ)(まえ)(すす)み出よ!」

大イカの(こえ)が、

会場(かいじょう)(うみ)(ひび)(わた)ります。


「・・・」


「・・・?。どうした?、

 (つぎ)のモノ、(あるじ)(まえ)(すす)み出よ!」


「・・・」


「おい、そっちにいる小さな赤いの。

 (つぎ)はお(まえ)(ばん)だろう。

 ぼーっとしてないで、早く(あるじ)(まえ)()い」


下を()いていた赤い魚は、ハッとしました。

あわてて(かお)を上げます。

「え?。ワ、ワタシ?。

 えっと、えっと、

 その・・・、な、なんでしょうか?」


つっかえながら、()(かえ)しました。

(こえ)が、(すこ)裏返(うらがえ)ってました。

(まわ)りで、

クスクス・・・と、小さな(わら)いが()きました。


「なんでしょう・・・じゃなくて、さっさとこっちに()い。

 ダンスを(おど)るんだろう?。

 ついさっき、オレに()ってたじゃないか」

大イカは、ちょっとあきれた様子(ようす)()いました。


「あ!、そうだった。

 でも、まだワタシの(ばん)()て――」

「だ、か、ら、

 もう、とっくにお(まえ)(ばん)なの!。

 早く、こっちに()い!」

大イカは、

赤い魚の言葉(ことば)途中(とちゅう)でさえぎり、(こえ)(あら)らげて()いました。

(まわ)りで、

また、

クスクス・・・と、小さな(わら)いが()きました。


「す、すみません。

 (いま)すぐに、そっちに()きます。

 すみません・・・」

あわてふためきながらも、

どうにか、そう(かえ)した赤い魚は、

すぐさま岩盤(がんばん)をけとばし、大イカと(あるじ)(ほう)へと(およ)ぎ出しました。

だれもいない、広々(ひろびろ)とした会場(かいじょう)のまん中を、

1ぴきで、

いっしょうけんめい、ポンポン・・・と小さく()ねていきます。

でも、

なぜか、まっすぐに(すす)めません。

右に()ったり、左に()ったりします。

そのたびに、

赤い魚は、()きを(こま)かく(なお)しつつ、

必死(ひっし)(およ)いでいきます。

それを見ていた大勢(おおぜい)(うみ)の生き(もの)たちは、

あちらこちらで、

(たが)いに(かお)()()っていました。

コソコソと、ささやいてます。


「なぁに、あの子・・・。

 魚のくせに、もしかして普通(ふつう)(およ)げないわけ?」


「あれじゃ優勝(ゆうしょう)なんかムリに()まってるのにね・・。

 アタシなら、大会に出ようなんて絶対(ぜったい)(おも)わないわ」


「おい、見ろよ。目、でっか。

 オレ、あんなの(はじ)めて見たよ」


「オレもオレも。

 いったい(なに)()べたら、あんなにデカい目玉(めだま)になるんだろ・・・」


「ねぇねぇ、

 ほら、あの魚じゃない?。

 (くら)(いわ)カゲにいつも1ぴきでいる、あの赤い魚。

 そっくりじゃない?」


「あぁ、あの(さび)しい魚ね。

 (わたし)たちが(たの)しく(およ)(まわ)ってるのをうらやましそうに見上げてたけど、

 やっぱり(とも)だち、1ぴきもいないのね。

 かわいそうに」



(あるじ)(まえ)に、(なん)とか無事(ぶじ)たどり()きました。

自分(じぶん)(からだ)よりもはるかに巨大(きょだい)な、その(あるじ)(かお)を、

下から、じぃっと見上げた赤い魚は、

しばらくして、

大イカの(ほう)()(なお)しました。

おそるおそる(たず)ねます。

「あの・・・、

 ワタシ、いったい(なに)をすれば?」


(わら)(ごえ)が、ドッと()きました。

大イカが、すぐに()いました。

「あぁ、もう!。

 いいから、まずは(うみ)(あるじ)さまに(あたま)を下げて!」


「は、はい!、すみません!。

 ワタシ、

 このとおり、すぐに(あたま)を下げます!」

あわてて(うみ)(あるじ)(ほう)へと()(なお)した赤い魚は、

すぐさま、(あたま)をペコペコと何度(なんど)も下げました。

(うみ)(あるじ)は、

そんな赤い魚の様子(ようす)(だま)って見ていましたが、

やがて、

(しず)かに、1()うなずきました。


大イカが、ちょっとしてから()いました。

「ほらほら、おじぎはもういいから、

 すぐに下がって、下がって。

 これからダンスを(おど)るんだろう?」


「は、はい!、そうでした!。

 ワタシはダンスを(おど)るんでした!。

 失礼(しつれい)しました!」

どきまぎしつつも、(なん)とか言葉(ことば)(かえ)した赤い魚は、

すぐに、(うし)ろを()()きました。

その瞬間(しゅんかん)

こちらを見ている(うみ)の生き(もの)たちの、何百(なんびゃく)もの(かお)が、

赤い魚の大きな2つの目に、一斉(いっせい)(うつ)りこみました。

みんな、ニヤニヤと(わら)っています。

赤い魚は、

(あたま)が、まっ白になりました。


「おい、どうした。早く下がれ。

 下がってダンスを(はじ)めろ!」

その大イカの(こえ)は、

しかし、

赤い魚には()こえませんでした。

目を大きく見(ひら)いたまま、

ただ、ぼう(ぜん)としています。

会場(かいじょう)にいる(うみ)の生き(もの)たちは、(たが)いに(かお)を見()わせると、

やがて、大きな(こえ)(わら)(はじ)めました。


「せいしゅくに!、せいしゅくに!。

 ほら、せいしゅくに!」

大イカが、

()ち上げた10本の足を使(つか)って、海底(かいてい)()さえつけるような(うご)きをくり(かえ)し、

そうして、

(しず)かになるよう、何度(なんど)()いましたが、

(わら)(ごえ)は、いっこうに(おさ)まりません。

そればかりか、

その、必死(ひっし)様子(ようす)の大イカをおもしろがり、

みんな、余計(よけい)(わら)()っています。

(うみ)(あるじ)は、

しばらくしてから、目をゆっくりと()じ、

また(ひら)いて、

そして、

大きな(こえ)()いました。

(しず)まれい!」


重々(おもおも)しい、威厳(いげん)のある(こえ)一喝(いっかつ)すると、

その途端(とたん)

さわがしかった(わら)(ごえ)は、ピタッと()まりました。

(あた)りには、

(いま)は、

(しお)(なが)れる音だけが、

ときどき、小さく()(わた)っています。


(うみ)(あるじ)は、

会場(かいじょう)居並(いなら)ぶ、(うみ)の生き(もの)たちの(かお)を、

(はし)から(はし)まで、ずうっと見ていきます。

そうして、ひと(とお)り見()えると、

そのギョロッとした(くろ)い目を大イカの(ほう)()け、()いました。

「この赤きモノは、いささか緊張(きんちょう)しておるようだ。

 ダンスは、もう(すこ)()()いてからの(ほう)がよかろう」


大イカは、(あるじ)を見上げて、

こっくりと、うなずきました。

「わかりました。

 あとで(おど)ってもらいま・・・って、

 おい、どうした?。

 おい!」


赤い魚は、(からだ)を左右にフラつかせたかと(おも)うと、

そのまま(よこ)に、

パタン・・・と、(たお)れてしまいました。


(たす)けて・・・、(たす)けて・・・。

 (なに)もわからない、

 ワタシ、(なに)もわからないの・・・。

 どうすればいいの?。

 (なに)をしたらいいの?。

 わからない、わからないよ・・・。

 お(ねが)い、だれか(たす)けて・・・。

 ワタシを(たす)けて・・・。

 (たす)けて・・・)

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