10.話し終えた私は、また
話し終えた私は、また、
対岸の方を見ていた。
いつの間にか、鼓動が速い。
ドクドクと心臓が波打っている。
話して良かったのだろうか?
この子には、早かったのではないだろうか?
少年は、一言も喋らず、
黙ったまま、ずっと聞いていた。
少し不安だった。
私は、横目で少年を覗く。
少年は膝を抱え、川面を見つめ、
じっと、何かを考えている。
声は、
まだ、かけない方が良いだろう。
そんな気がした。
しばらくの間、
座ったまま、ぼんやりとしていると、
再び、日差しが強くなった。
河原が急に明るくなり、暖かくなる。
私は、立ち上がることにした。
下に手を付き、
ゆっくりと、慎重に、
少しずつ、腰を浮かせていった。
地面からお尻が離れた瞬間、痛みが走ったが、
思ったほどでは無かった。
安心して、そのまま立ち上がる。
軽く伸びをした。
もう、鼓動は元に戻っていた。
平常心。
両手でズボンをはたき、
ホコリを落とす。
体を捻り、お尻の汚れを目視でチェック。
うん、特に問題無し。
私は2、3歩進み、
川の水際で、しゃがみこんだ。
ちょっと生臭い、川の匂い。
親指を除く4本の指先を、
川の、透明な水の中へと差し込み、
その流れの感触を指で楽しむ。
指先で感じる川の流れは、思ったよりも強く、
そして、冷たかった。
川の流れを存分に堪能したあと、
私は立ち上がり、ハンカチで指を拭いた。
内ポケットからスマートフォンを取り出し、時刻を確認する。
乗る予定だったケーブルカーは、
5分ほど前に、
既に出発してしまったようだ。
ま、仕方ない。
私は、スマートフォンをしまった。
少年の方を向く。
「これから駅に戻るんだけど、一緒に行かない?」
「・・・」
返事は無かった。
石の上で体育座りをしたまま、川を見ている。
じっと見ている。
身動きひとつない。
まばたきもない。
「お茶、飲みなよ。
そのままだと日射病になっちゃうぞ?」
ちょっとだけ心配になった。
少年は、そのまましばらく動かなかった。
しかし、
やがて顔を動かすと、
石の上にある、小さいサイズのペットボトルを確認し、
手に取った。
キャップを握り込み、力を入れる。
ちょっとしてから、
もう一度、握り直し、
力を入れる。
開けられない。
「ちょっと貸して」
私は、
少年からペットボトルをもぎ取った。
なるほど、これは固い。
ぎゅっと力を込め、キャップを少し回し、
少年に返す。
「あの・・・」
「ん?」
「・・・」
「何?」
「ありがとうございます・・・」
「あぁ、うん。
取り敢えず早く飲みなよ」
「うん・・・」