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Summer Echo  作者: イワオウギ
10/289

10.話し終えた私は、また

話し終えた私は、また、

対岸の方を見ていた。

いつの間にか、鼓動が速い。

ドクドクと心臓が波打っている。


話して良かったのだろうか?

この子には、早かったのではないだろうか?


少年は、一言も喋らず、

黙ったまま、ずっと聞いていた。

少し不安だった。


私は、横目で少年を覗く。

少年は膝を抱え、川面を見つめ、

じっと、何かを考えている。

声は、

まだ、かけない方が良いだろう。

そんな気がした。



しばらくの間、

座ったまま、ぼんやりとしていると、

再び、日差しが強くなった。

河原が急に明るくなり、暖かくなる。


私は、立ち上がることにした。

下に手を付き、

ゆっくりと、慎重に、

少しずつ、腰を浮かせていった。

地面からお尻が離れた瞬間、痛みが走ったが、

思ったほどでは無かった。

安心して、そのまま立ち上がる。


軽く伸びをした。

もう、鼓動は元に戻っていた。

平常心。

両手でズボンをはたき、

ホコリを落とす。

体を捻り、お尻の汚れを目視でチェック。


うん、特に問題無し。


私は2、3歩進み、

川の水際で、しゃがみこんだ。

ちょっと生臭い、川の匂い。

親指を除く4本の指先を、

川の、透明な水の中へと差し込み、

その流れの感触を指で楽しむ。

指先で感じる川の流れは、思ったよりも強く、

そして、冷たかった。


川の流れを存分に堪能したあと、

私は立ち上がり、ハンカチで指を拭いた。

内ポケットからスマートフォンを取り出し、時刻を確認する。

乗る予定だったケーブルカーは、

5分ほど前に、

既に出発してしまったようだ。


ま、仕方ない。


私は、スマートフォンをしまった。

少年の方を向く。


「これから駅に戻るんだけど、一緒に行かない?」


「・・・」


返事は無かった。

石の上で体育座りをしたまま、川を見ている。

じっと見ている。

身動きひとつない。

まばたきもない。


「お茶、飲みなよ。

 そのままだと日射病になっちゃうぞ?」


ちょっとだけ心配になった。

少年は、そのまましばらく動かなかった。

しかし、

やがて顔を動かすと、

石の上にある、小さいサイズのペットボトルを確認し、

手に取った。

キャップを握り込み、力を入れる。

ちょっとしてから、

もう一度、握り直し、

力を入れる。

開けられない。


「ちょっと貸して」


私は、

少年からペットボトルをもぎ取った。


なるほど、これは固い。


ぎゅっと力を込め、キャップを少し回し、

少年に返す。


「あの・・・」


「ん?」


「・・・」


「何?」


「ありがとうございます・・・」


「あぁ、うん。

 取り敢えず早く飲みなよ」


「うん・・・」

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