ノーアイテムで転生したのが運の尽き
ある日の朝、僕は頭にかなりの激痛を覚えて目覚めた。
今日は月曜日でまただるい5日間が始まる。僕は「また学校か」とため息を一つついて、その重たい頭を起こした。
ドアを開けると朝食ができているのか、パンの香ばしい香りが鼻へこれでもかといわんばかりに主張してくる。一般的に、朝からパンの焼くにおいがすれば不快には思わないだろう。僕だって昔はそうだった。
しかし、今は非常に不愉快極まりなかった。
一階に降りると、一層香りが増し、反射的に壁で隔たれている洗面台にむかった。
今日はいつもと明らかに調子がおかしかった。言い換えると、体調が悪すぎた。部活にはいっていない者の身体はこんなもんだといつも自分で思ってはいるがさすがにきつかった。
だが、これで学校にいけない口実ができたのだ。それは喜ぶべきことだろう。
そうして、嘘をつくことなく母さんに学校を休むという旨を伝えて、珍しいわね~、とかなんとか言われたけれど気にせず自室に戻ろうとした。
そして階段を上り始め小さな踊り場に足をついた瞬間、一瞬、目が真っ暗になると同時に、
僕は、真っ白な世界にいた。
僕はどうしていいかわからず、その場で腰を抜かして唖然としていた。
どれくらいの時間がたったのだろう。まわりには一切「物」といったものそれがない。
しかし不安な気持ちにはならなかった。
すると、いきなりだった
空間がいきなり裂け始め、なにやら看板のようなものをもった女の人がスルッと出てきたのだ。
僕はなかなかのかわいい子だ、と思った。
出ると同時に、それ、は
「おめでとうございまーーーす!!あなたは階段から落ちて1000人目に死んだおめでたいおきゃくさまでーす!!!」
僕は声には出さず、「は、ぇ?」と心の中で言った。また、赤面した。
「あなたには、もれなくランダムで星への切符をさしあげまーす!また、さらに…なんと!…」
そんな感じでまるでテレビの通販ショッピングを生で聞いているかのように、わけのわからない言葉も交えて話してきた。
しかし僕は冷静だった。
異世界転生ものは読んだことがあるし、割と好きだ。
まさかこのあとそんな流れが待っているのではないかと期待したが、なかなか彼女のいう特典?とやらの説明が終わらない。
少しイライラしてきたころだった。
「……最後に、もれなくこの私、ルキリもついてきます!!!以上、お気に召されたでしょうか?もしご用件に乗りたくなければ一般の方達と同じように天に召され…」
僕は最後の特典で一気に喰らいついた。
「のります!もらいます!特典、もらいまーーーす!!!」
彼女はにこりと笑って「お買い上げありがとうございまーす!!」
と言った。買ってもないけど。
僕はようやくここで、これは夢ではないのか、と思った。非常に怖かったがさっそく彼女に、
「あ、あのいきなりあってぶしつけなお願いかもしれないんですけど、僕を軽く殴っていただけませんか」
そう他人から見ればどんだけMなんだよとでも言われかねないことを言った。
すると彼女は、
「いや……私にはできません!あ、あのじ、実は私…」
僕はとにかく夢か現実かを知りたかったんだ。だから「いいから早くやってくれーーーー」そういった。
すると本当に拳が飛んできて彼女の細い腕は僕の胸を、貫通した。
目が覚めると、ルキリがあっちをむいてうずくまっていた。小刻みに体が揺れていた。
僕は何があったのか理解できなく彼女に聞いた。
すると、やはり僕はルキリとやらに胸を貫通させられて死んでしまったらしい。僕がしつこくせまったのが悪かったなと反省したが、じゃあなぜ僕は生きているのか謎だった。
しかし謎はすぐに解けた。
先ほどの特典の中に、レア度マックスの「転生薬」というアイテムがあったらしい。それで生き返ることができたのだ。つまりたった数時間たらずで僕は2度、死んだのだ。また、レアアイテムを無駄使いしたのだ。
それから、ルキリはねじが一本外れたかのようにゲラゲラと笑い転げた。
「こんな簡単に二度もすぐ死ぬ奴なんて、超久しぶりだあーーーははははははは」
イラッと来たから言った
「うっせーー!お前が殺したんだろーが!!」
「だってこの私に向かって殴れとか言ったあんたがわるいんだよーーははははh」
こんなことを言い合っても拉致が明かないと思って言いたいことを呑み込んだ。
そうして文句の代わりに僕はこういった。
「てか、まずおまえはだれなんだ?そしてここはどこだ?」
聞きたいことが多すぎたがここまでにしといた。
彼女は言った。
「わたしはルキリ。神様の子供の子供のそのまた子…」
「えっ!!おまえ神様ってことか!!」
ルキリがすべていう前に割り込むと、不機嫌そうな顔で、
「そうよ。けれど、わたしみたいな人はたくさんいるのよ。もちろんわたしは女だけれど、男の神様もいるからねー」
僕は内心、女でよかったと安堵の息を漏らした。ルキリは不敵な笑みで睨んだ。
そして軽く咳払いをして、
「そして、この場所については企業秘密!」
僕は企業もクソもないだろと嘲笑した。
そしてやっとその星へ行けるらしい準備が整った。
ルキリにおでこ付近に手を当てられ、呪文とかなど一切なしでワープらしきことをした。
僕もルキリも手ぶらだった。
そうしてついたのは、豊かな自然に恵まれ、村人たちが穏やかに暮らす世界…
ではなく、火を噴くドラゴンが今まさにこの二人をめがけて飛んできている。
まさに地獄絵図だった。
焦る隣で微動だにしないルキリはなにか策でもあるのかと思わせるような立ち姿だった。
するとルキリは手を掲げ「ユーズ!!」といった。
「おおおおおおおお!!!おおぉぉぉぉ??あれ?」
僕はなんかゲームみたいだ!と、感激したがなにも起こらないところを見て首をひねった。
ルキリの顔は真っ青で、口はへの字に曲がっていた。するとルキリは
「アイテム全部、置いてきじゃっだ…」
「は、ぇ!なにやってんだよぉ!!」
ドラゴンはおかまいなしに迫ってくる。もちろん、あと4個あった「転生薬」もなにもないので死んだらそれでもうおしまいだ。とにかく二人は逃げて逃げて逃げまくった。ルキリは泣きながら、ごめんなざーい、と言って走った。なんとかドラゴンをまくことができ、やっとの思いで顔を上げると、そこには
大きな村があった。
やっと落ち着いてきたところで泣いているこいつをどうしてやろうかと思った。正直もう僕らは終わりだと思った。もういっそ自殺でもしてやろうかと思った。
しかしルキリは案外すぐ開き直って、さぁ、アイテム探しをしよう!そういってせっせと町中を歩いて行った。
どれくらい歩いただろうか...。
気づいたら町外れの田舎道を歩いていた。
腹が減った…とにかく腹が減ったんだ…
まさか転生してまで腹が減ると思ってもいなかった。通常、特典についてくるアイテムの中に1か月はくらせるようなセットがあるらしいので、まず駆け出し異世界住人は「餓死」なんてことはないらしい。
だが、今の状況はなんだ!
普通の白いTシャツに茶色の半ズボン。そしてノーアイテム。
町ゆく人々は僕らを見て、笑ったり、嘆いたりしていた。
もちろんお金がないわけだしものも買えなかった。
もう終わりだとルキリは言って、
「そういえば、あんたの名前は?」
僕の名前はまだ言ってなかった。死ぬ前に言っておこう。
「大輝、越後大輝だ。」
そう言うと僕は道端に倒れた。またこんな笑われる死に方で死んでしまうんだと思い、そのまま眠った。
目が覚めた。まず目に飛び込んできたのは天井で次は香ばしい匂いだった。頭が痛くてそれでも重い頭をあげるとそこには美しい女性が立っていた。
左にはルキリが寝ていて少し安心し、生きていたことにもさらに安心した。
その女性はゆったりと、
「大丈夫かな~?」
そう言ってきて、僕はその声で完全に警戒心を解いた。
この女性は道端で倒れていた僕らを見つけて家まで運んでくれたらしい。
その声を聞いてルキリも起きた。するとその女性は、
「お腹空いてるでしょう?うちで食べていくといいよ~」
そういった。
申し訳なかったがこのままだと本当に今度は死んでしまうので僕らはお言葉に甘えることにした。
頬が落ちそうなくらいおいしいパンを頬張りながらいろいろな話をした。ヴェルダ、という名前だそうだ。
ヴェルダさんは巷では有名なパン屋さんだそうで、毎朝パンを求めて行列ができるほどの腕らしい。僕とルキリは、なんてついてるんだろうと目を見合わせた。
そしてあまり長居もできないと思い、しばらくの食糧とそして防具と武器をもらってパン屋さんを出た。ルキリはまさに天にでも昇ってしまいそうな満足な顔をしていた。
パンはわかる。
だがなぜ防具、武器?
そしてなぜ《ドラゴンハンター》なんかになってしまったのか...。
やはりこんな世界でも生きるのに必要だったのは金だった。
ヴェルダさんは言っていた
「お金が必要だったら~、仕事をしなきゃだめですよ~。いろいろな職種があるけど、私みたいなお店は繁盛しないと全くもうからないからね~。」
「何かもっとすぐになれて、お金が多くもらえる職業とかないですかね?」
僕は半分そんなにいい職なんてないだろうと思って聞いた。
しかしあった。
「あっっ!!《ドラゴンハンター》なんてどうですか?」
思い出すようにヴェルダさんは言った。
「私の父もドラゴンハンターでよくドラゴンと対峙していたんですよ。ですが、3年前、ゴールドネック=ファイヤードラゴンというドラゴンに負けて、それ以来はもう。」
僕は非常に就きたくなかった。ただでさえ動くことが嫌いな自分がそんな職に就くのは以ての外だった。
だから僕は丁重に断ろうとして、ごめんなさいを言いかけたところ、横からルキリが、
「ええーー!!楽しそうですねーー!ぜひやってみたいです!話では聞いたことあったんですよー!!!!!」
そういって楽しそうにヴェルダさんに言った。
僕が、あのなぁ~、そう言いかけると、
「そうですかー!私もあなたたちにやっていただけたら幸いですー!!」
と、そうヴェルダさんは身を乗り出して言い放った。これは厄介なことになったと思い、まさに身から出た錆とはこのことなんだと反省した。
もちろん僕は引くに引けず、「じゃあ」と会話を進めた瞬間、ヴェルダさんの両手には二つの古びた防具と武器が揃えてあった。
もちろん、そのスピードとこのパン屋さんに防具と武器があったのも驚いたがそれ以上にヴェルダさんの腕力に驚いた。これだから二人を担いで家まで運べたわけだと理解した。そしてルキリはヴェルダさんの父さんの敵を討ってきましょうとかなんとか茶番じみたことを言ったが、信じたのか、ヴェルダさんは吉報待ってるわね~、と割と本気で言っているようだった。
防具はだいたい20キロくらいで、武器は鉄の剣と、弓だった。
父の昔の防具だから少し重いと言っていたが、少しどころではない。めちゃくちゃ重たい。
と、いう感じでどんどん話が進んでいった結果、いままさにドラゴン討伐の依頼をうけるところまでに至っている。正直、ここまで来たのもすべてルキリのせいだ。ルキリはそんな怒っている僕を気にも留めず町の中心部にある掲示板とにらめっこしている。
「なんの討伐したい?あっ、これとかいいじゃん!ダイキ!」
急に名前を呼ばれてキョどってしまった。しかしすぐに冷静になり、ルキリの指さす方向を見ると、
[危険度★★★★★★ ゴールドネック=ファイヤードラゴン一頭の狩猟]
そう書いてあり一言、アホかと言ってやった。
結局僕らは危険度★★★★の依頼を受けることにした。もちろん討伐はドラゴンのみではない。民家や畑、自然環境を破壊するモンスターたちも討伐対象だ。
今回の目的はホワイトトカゲ2匹の捕獲だ。ホワイトトカゲは全長約30センチで、少し大きなトカゲだが、人は襲わなく気性も穏やからしい。ただ、限られたエリアでしか遭遇できないレアもので非常に見つけにくいのだそう。希少価値も高く報酬は1万セルと、駆け出しハンターにはおいしすぎる依頼であった。しかし、依頼されてから約1年半経っており、どこにも依頼達成のハンコが貼られていないところを見て少し不思議に思った。また、捕獲依頼のくせになぜか★★★★という謎。まぁ、それだけ見つけるのが大変なんだなと、見つからなければ帰って来ればいいと、そう思った。
そんなことを考えながらホワイトトカゲのいる森の奥地へ進んでいく。
すると、早くもルキリがトカゲを見つけた。
なんだ、余裕じゃないかと思った。
「ルキリ、トカゲもっといて。」
そういうとルキリは
「きゃぁぁぁ。私、爬虫類は触れないのーー!」
「はあ?」
「だ、か、ら、爬虫類は触れないの!」
僕は唖然としてため息をつき、皮肉混じりに言ってやった。
「爬虫類触れないでさ、よくドラゴンハンターやろうと思ったな。」
ルキリは、はははと笑うだけだった。
1匹目を見つけて数十分後にあっさりと2匹目、すなわち依頼が終わった。
あとは帰るだけだった。
そして奥地を抜けようとしたとき、急に地響きが鳴った。地震かと思ったが、次第に何かが近づいてきているような音がした。
それはまるでゲームの効果音とも似たような鈍い、
「ズシーン、ズシーン」
という音だった。
振り返るとそこにいたのはあの金色の首をした竜だった。噂よりも猛々しく、龍鱗は赤熱していた。そしていつ炎を吐いてきてもおかしくない、とにかくやばい口元だった。
僕らはまずいと思いこそこそと逃げようとしたが、ルキリがまたやらかしたのだ。こんな状況でもくしゃみをする。どんな根性をしてるんだと、そんなことはもはや考えている暇などなく、竜は追いかけてくる。そこで初めてこの依頼の危険度の意味が分かった。
もちろん、ここで死んだら一環の終わりだ。ルキリは本能的にか、僕よりもはるかに早く逃げていく。
そして一対一のこの状況は非常にまずいと思った。
装備は古びた防具一式に、鉄の剣。勝てる気などしなかった。
だが
あえて、あえて逃げても無駄だと感じ勝負を挑んだ。
すると、いきなり竜は火の球を吐いてきた。間一髪避けることができたが、未熟のハンターにはどこから攻撃を仕掛けていいかわからなかった。
僕はなんとか攻撃には当たらないよう間合いをとったがこっちからはまだ攻撃すらしていない。
すると、部活や運動に興味のなかったツケが回ってきたのか、必死に動いているうちに身体が動かなくなってしまったのだ。こんな重い防具なんかつけてればあっという間に疲れてしまう。
もう終わりだと思い、竜の大技といってもいいようなゆっくりとしたブレスを、僕は諦め、眺めていた。
そして吐く寸前、一本の火を纏った矢が飛んできて、竜の右目を射抜いたのだ。竜は激しく暴れ、やがて空の彼方へ飛んで行った。
その弓使いはあのルキリだった。わが仲間でありながら見事な弓使いだと思った。
「ルキリ、これからもよろしくな!」
「おーーう!!」
そう言って空に拳を高高と上げた。
その後、依頼達成届けと一緒にホワイトトカゲ×2をもっていくと、依頼所の受付、駆け出しハンター達は驚いた様子で僕らを褒め称えたのだった。
その後1万セルと、ゴールドネック=ファイヤードラゴンの撃退の報酬で5万セルを受け取ることができた。
僕らは、この新たな世界で新たなる生活が始まったのだった。
場合によっては続きを書こうと思ってます。