95.シュラ消滅
シュラ消滅
「後は、任せるぞマオ」
キョウリュウ族を束ねる、カムイの「ミコト」は隙あらば再生しようとするシュラのAIを握りつぶした。その片方の腕は肩からもぎ取られていた。なっぴが後に経験したように、単純な攻撃、打突はAIは対抗策を学習できなかった。さらに心地よい大気、亜硫酸ガスをまとうこの手強い敵に、シュラは思うように近づけなかったのが幸いしたのだった。
「解った、こいつはアガルタの最深部の水圧で押しつぶしてくれよう」
マオはAIを潰されたシュラをその背に乗せるとクシナとともに海中に消えた。
「ミコト、その怪我は深すぎる。しばらくここに留まりましょう」
「ヒメカ、いやオロスの者達も村が気になっているだろう……」
足下のちぎれた腕を拾い上げると、ミコトが笑った。
「ミコト様、ヒメカ様あーっ!」
「まあ、オンサたら、あんなに兵を引き連れて」
オロスのオサ、オンサだ。彼は救助の狼煙を見るやいな、村人を避難させ、兵を引き連れて二人を援護しに参じていた。余談だがその後レムリアがオロスに着いたときには、村人はおびえていてでてこなかったのだ。
「この焼けた大地は元通りになるのかしら、多くの生き物が死んでしまった」
「ヒメカ、あの化け物は生き物ではなかった。あれを作ったのは聖三神いや、あるいは造物主なのかも知れない……」
それを聞き、ヒメカはにっこり笑って立ち上がった。それを見てミコトは満足げに笑った。
「体は持つのか、ヒメカ」
「ええ、少しならできますわ」
次第に体力が衰えはじめているヒメカはそれでも黒髪の一本にまで力をためた。
「奥義、ツチムスビ!」
少しどころではない、赤茶けた大地が緑の大地に甦っていく。そしてヒメカがゆっくりミコトの腕に沈んでいった。
「生き物もやがてここに集まってきましょう、命を甦らせるのはツクヨミ様にしか許されない、この星は何度もこうして生と死を繰り返してきた。さあ、カムイに戻りましょう」
シュラの残した赤茶けた大地は元に戻った。数ヶ月後レムリアが着陸するまで、モンゴルには生き物は存在していなかったのだった
「あれが、最初に人型として地上に降りた聖神たちの姿なのね、ヒドラ。わたしの記憶と同じ、アガルタのマオのこともよく知っているわ」
「そうだろうとも、だがもう一度この大地は焼き払われる、大いなる闇がレムリアとともに持ち込まれたからな。マンジュリカーナよ、お前はそれについては、おそらく知るまい」
「もう一度、ここが?」
「もっともそれは、虫人たちに責任はなかった。ルノクスのヒドラがお前たちを追って宇宙船に乗り込んだからだ」
「リカーナに置いていかれると思ったヒドラが慌てて出芽して、レムリアに乗り込んだ事は知っているわ」
「……それは正しくない。リカーナはヒドラに約束したのだ。たとえどんなに時間が経とうと何世代かかろうと、必ず戻ると。それをヒドラは信じなかった。まだ闇を含んだままの新しいヒドラを出芽し、急いでレムリアに乗り込ませた。そう、まるで虫人を監視するようにな」
「その新しいヒドラが、モンゴルを焼き払ったというの?」
なっぴの問いは、意外な声で答えられた。
「モンゴルを焼き払ったのは虫人だったのよ、マンジュリカーナ」
それは由美子の声に相違ない。なっぴは由美子の言葉をもう一度繰り返した。
「モンゴルは虫人が焼き払った……」