94. 災厄
災厄
すでに地球に到着していた完全な体のシュラはアガルタの海底深く眠っていた。地球についたサクヤには遠いオロスからでは見つけることができなかった。それだけではない、サクヤの体の組織もまた、機能が低下していく。この星の亜硫酸ガスや塩水に対してインセクトロイドの人工の体では十分な耐性がなかったのだ。地球には大気とともにその亜硫酸ガスが存在していた。サクヤはその体がもうそれほど長く持つとは思っていなかった。
「シュラを一刻も早く倒さねばならない、ゴラゾムさまは何処、虫人たちは無事かしら?」
次の着陸地点をパピィは分析し、オロスを離れた宇宙船。ようやくその着陸地点が見えてきた。しかしその地は地平線の彼方まで、異様な光景だった、宇宙から青く見えた地球、しかしこの地は一面が赤茶色にただれていた……。
「もうすぐレムリアの次の着陸地点です。しかしサクヤ、すでにレムリアも虫人の反応もない……」
パピィにそれを聞くまでもない、一面の地面は熱線でひどく焼け焦げていた。それはサクヤがシュラに装備させていた「破壊光線」に相違ない。
「シュラはこの星に、一足先に到着していた。そして私のプログラム通り、この星の知的生命体を……」
サクヤはまばたきも忘れ、近づく大地をぼんやり見ている。
ヒドラが見せたのは赤く焼け焦げた大地だ、なっぴが少し声を震わせた。
「シュラの心肺弁一枚が、この星の知的生命体を……」
ヒドラがなっぴに見せたインセクトロイドの過去は偽りのない、もう一人のイブ「ノア・スカーレット・サクヤ」の再誕の歴史だった。リカーナそしてゴラゾム、ビートラの雌雄異体の生命体が「失った」あるいは「封印」した、再誕の力をサクヤは自身に封印し、エスメラーダ人魚「ルシナ」と同じく、過去の記憶と共に生き続けていた。ヒドラがなっぴに話し続けた。
「この星についた虫人たちは次にモンゴルに向かった。そこでこの光景を見る。そして間も無くの事、サクヤがついに追いついた」
「……これが、モンゴルですって!」
なっぴには、その風景は火星の地表にしか見えなかった。一体シュラの心肺弁はどうやって地球に持ち込まれたのか、それは想像するのに難くない。火星に一度立ち寄った「レムリア」の艦底に張り付いたのがシュラのAlの部品、一枚のリードだった。それは地球の大気圏に「レムリア」が突入した衝撃で剥がれ落ち、モンゴに落下したのである。
「ギギュルルルル……」
それはオロスの雪原をレムリアが離れるほんの数ヶ月前のことだ。緑の大草原モンゴルのある部族の村に、不完全ながらシュラが再生し、不気味な雄叫びを上げた。
「緑の大地が、一瞬で消えてしまった。炎の槍を吐き、目から閃光を放ちながら現れた悪魔によって……」
そう言い残し、男は村オサの腕の中で生き絶えた。村オサの命によって救助要請の「狼煙」が次々とそれを伝えた。それは遠くヤマトに済むキョウリュウ族、アガルタのカイリュウ族の国にも伝わった。
「スデニ惑星ニ知的生命体ガ、存在シテイタ場合ハ、ソレヲ殲滅セヨ」
なっぴがそのぞっとする機械音を再びシュラから聞いた。次々と焼き払われる村、紅蓮の炎と火柱。まぎれもないシュラ、星ひとつ滅ぼすインセクトロイドを止める事などできそうもない。その場にいたとしたらなっぴは……。その時、大声が響いた。
「おのれ、悪魔め!」
モンゴルの災厄を知り、救援に駆けつけたものが現れた。