92.サクヤの記憶
サクヤの記憶
ルノクスの大地には動くものはない、草一本、風さえなかった。サクヤは移植されたリリナの記憶をたどった。
「リリナと過ごした日々、イブとしてノアに選ばれた日、バジェスの背で話した、たわいもないこと。再誕の果てに出芽によりはじめて生まれたリカーナ。そしてカグマとの出会い……」
荒涼とした砂漠、目に映るものるものは砂と石。しかしサクヤには「それ」が見えたのだ。彼女は突然駆け出した、そして白く細い手で地面の赤茶けた砂を一心に掘りはじめた。
「あった、見つけたわ、リリナ。私が埋めた碧いエメラルドだわ、私はノア・スカーレット・サクヤの記憶を持ったまま、ようやく再誕したのよ」
だが、幾分上気したサクヤの声に応えるものは誰もいない。彼女のことを覚えているものは、この星にはもう誰一人いない。しばらくして彼女は、エメラルドを握りしめたまま出発体制の整った宇宙船に戻った。
「リカーナ、ゴラゾム、ビートラ、あなたたちなら私のことをサクヤと呼んでくれるでしょう。必ずシュラを止めてあげる。ゴラゾム様との約束を今度は私が果たします」
サクヤはゴラゾムと別れた頃の記憶をゆっくりと取り戻す。それはしばらく忘れていた事だった。ルノクスを出発して間もなく、右手に見える母星「ゴリアンクス」を眺めながら、彼女は母星を出発したあの日の「ゴラゾム」が告げた言葉をもう一度思い出した。ゴラゾムはインセクトロイドに惑星探査を命じた「カグマ・アグル・サクヤ」に厳しい表情でこう詰問したのである。
ゴラゾムの回想2〜シュラ編
「何故、『シュラ』にあの様なコマンドを組み込んだのだ!」
カグマは、押し黙ったままだった。虫人が生まれなくなった事に気付いた科学者カグマは、移住可能な星を探査するため『インセクトロイド』を創る。その一体が先日母星に通信してきた。
「……愚かな異星人に告げる、この兵器は我らには通用しない。我々の星は『オムズ』この星の知的生命体には違いないが精神社会に生きる。見ればこの兵器は生命エネルギーに異常に反応する様にプログラミングされているが、いくら攻撃しようと我々をせん滅などできない。残念だがこの星に異星人の住む余地はない。忠告する、他の生命体を滅ぼしその星に移住をしたところで、未来を手に入れる事は出来ない……」
『カグマ』は『二号』の通信回路を通じて送られたメッセージを、王子とともに聞いた。
「滅び行く生命体は、そのまま滅びてしまえというのか、断じて違う。しかし、他の生命体をせん滅する事は決して許されまい……。『カグマ』、別の方法が見つかるまで自重し、即刻『シュラ』を回収しろ」
「しかし、『ゴラゾム』様、我々には時間はそれほど残っていないのです……」
「これは、命令だ。カグマ!」
それが『カグマ』と『ゴラゾム』が交わした最後の言葉だった。ゴリアンクスを出発した小型の宇宙船が母星に帰還するのを待ちきれず、ゴリアンクスの王子ゴラゾムは虫人の移住を決断した。カグマが設計していた、大型宇宙船「キャステリア」はルノクスの「レムリア」ごと王女リカーナと虫人たちを曳航しつつ、すでに外宇宙へと向っていった後だったのである。




