90.シュラの行方
シュラの行方
「あれからどのくらいたったのだろう」
カグマは母星に進路を固定したまま、軽い眠りについた。シュラ三号は、回収しコマンドを書き換えた。そしてシュラ二号はカグマと三号により完全に破壊したのだった。相変わらず一号の行方は知れなかった。だが母星に帰ればその行方を調べることはできる。
『ゴリアンクス』に降りたその宇宙船は、すでに残り少なくなった燃料を補給する事もしなかった。そして宇宙船は再び飛び立ち、兄弟星『ルノクス』に降下していった。
「ここにはまだ、ホストコンピュータを起動出来るエネルギーが残っているのか」
原色に点灯する起動コマンドを見て、カグマは驚きの声をあげた。『ゴラゾム』のメッセージをダウンロードしたところで、母星『ゴリアンクス』のコンピュータは、ようやくその使命を終えた。その最後のメモリーを再生するために、宇宙船はルノクスに向ったのだ。再生したメッセージが王宮に流れ、三次元映像システムが起動した。そこに映し出されたのは疲れた表情の『ゴラゾム』だった。『カグマ』は、静かにそれを見つめていた。
「……カグマ、すまない。おまえの言う通り、時間はなかった。おまえのあとを追うように毎年『ゴリアンクス』から多くの者が移住先を探しに旅立った。だが誰一人戻ってこなかった、とうとう我々の人口は半減した。それでもおまえが戻ってくればと国民は望みをつないだ。しかし『ゴリアンクス』だけではない『ルノクス』でも同様に原因不明の人口減少が止まらなかった。『ルノクス』の王も女王も、わしの父もおまえの母も没した。父は私にこの星を捨て、旅立てと告げた。おまえの創った最高の宇宙船『キャステリア』に、われら虫人は乗り込みこの星を出立する。もはや『ゴリアンクス』も『ルノクス』もない。おまえが『シュラ』に与えたコマンドが間違っていたのか仕方のなかった事なのか、今のわしにはもう断言する自信もない。ただ『カグマ』おまえがあのままこの星にいたら、きっと良い方法を考えたに違いないだろうと私は思う。『カグマ』おまえは宇宙一の科学者だ、そのことは断言しよう。我々は今より外宇宙に向けて出発する、我らの航跡を見る事ができたら必ずそこへ向かってくるのだ。わしはその日をいつまでも待っている……」
さすがにそこでルノクスの補助電源も底をつき、三次元映像再生システムが沈黙した。
「ゴラゾム様、私は何のために『シュラ』を回収したのですか?」
『カグマ』は『キャステリア』の航跡レーダーを呼び出した。その到着地を計算させるために、すでに機械部品となった右の指をプラグに変換したのだった。
航跡レーダーは外宇宙の果ての銀河を指した。そしてそれは太陽系の第三惑星を指して止まった。それは宇宙歴で百年前の事だった、無事にゴラゾムと虫人たちはその星に着いた様だった。
「第三惑星、惑星の情報はほとんどない。ただ『シュラ三号』を回収した惑星と条件は似ている。良かった、ここなら虫人は生きていけるかもしれない」
『カグマ』は念のため『シュラ』の探査システムを利用し、残る一号が故障した位置を確かめた。なんという事だろう。『レムリア』が到着する数年前、その星には既に『シュラ』が着いていたのだ。