86.サクヤプログラム2
サクヤプログラム2
「ちょっとおばちゃんと話があるから、リカーナはもう城に戻りなさい」
「えっ、今来たばっかりなのに……」
「また明日会えるでしょう、さあ」
「わかった、ママ。おばちゃんバイバイ」
そういうと、リカーナはトコトコと草原に向けて駆け出し、つまずいて転がっていった。
「いたーい」
「まったく、王女様は無茶苦茶だ」
付き人のひとりが、苦笑いし急いでリカーナを追いかけようとした。
「あれくらいでないと、星の未来の決断などできませんよ。フフフフッ」
「それはそうと何度もおばちゃんて言われた、傷つく……」
「私もゴリアンクスの王子様にはそう言われたわよ」
「その二人は、近いうちにこの星へお祝いにやってくるって」
「あなたも、今度はカグマ様のために頑張らなきゃね」
そのリリナの声は遠い目をしたサクヤには聞こえなかった。それから彼女がリリナと最後に交わしたのは、たわいもない話だった。ゴリアンクスに戻ったサクヤは、二人の会話の大半はとうに忘れていた。
「リリナは心配していたけれど、カグマは私のことを気遣ってくれている。やはりゴリアンクスもルノクスと同じく星の寿命が尽き始めている。私にイブの力が十分にあれば、この星の虫人たちを再誕させることができるのに……」
ルノクスを後にしたサクヤは近づくゴリアンクスにそう話しかけた。自分に備わる再誕の力はリリナに少し劣る。ノアはバジェスよりも早く虫人を生む力を失ってしまった。リカーナ同様サクヤは「出芽」を行った。しかしその力はリカーナ以上だったのだろう。ゴラゾムに続きビートラという王子を生み出したのだ。
サクヤはカグマに、何度も彼女の体を解析してくれと頼んだ。だがその度にカグマはこう言って笑った。
「サクヤ、お前を切り刻むことなどおれにはできないよ」
カグマの「研究」はすでに完成しつつあった。新たな生命を人工的に生み出すこと、すなわちそれがのちの「インセクト・ロイド」の原型だった。人工的に作られた骨格と組織、そして無数の神経管とシナプス。これを結びつけるのが複雑なプログラムとコマンド。特殊な羊水の中で時折それは呼吸をしては、停止する。羊水を通しての皮膚呼吸だ、大気中の亜硫酸ガスに対しての肺組織がうまく発達しないからだった。しかしそれ以外は確実に成長していた。長い髪と二つの胸の膨らみもある、ゴリアンクスのカグマ研究所では、新たな生命体が生まれようとしていた。
「後一息のところまで来た、ようやくAIに初期コマンドとイブの記憶を植え付けるだけになったぞ」
カグマの額に一筋の汗が流れた。「サクヤ・プログラム」こそ、のちの「メタモルフォーゼ・プログラム」の原型だった。