84.二人のイブ
二人のイブ
アマトが、遂に開いた。「amato2」に乗ったセイレ、ミーシャ、マイ、タイスケそして香奈にシルティが憑依したことで現れた「サクヤ」の姿が浮かぶ、モニターの中のリリナに引き寄されるように「アマト」はルノクスに向かっていた。宇宙空間を進むその球体はいつしか枝分かれをし、手首の様な形に変わっていた。船内は冷たい空気に満たされていた、動く者はサクヤ一人の他はいない。
「アマトは開き、マルマがあなたたちを待っている。ルノクスに到着するまで、私の記憶を夢枕にして、もうしばらく眠りなさい。目覚めた時はすでに私の記憶はあなたたちのものになっていることでしょう……」
なっぴはそんな事が「amato2」の中で起こっていることは知らない。なっぴとヒドラの「浄化の戦い」が小休止の今、静かにサクヤの物語の幕が上がる。その前に少しサクヤについて整理してみよう。
サクヤという名は、イブの呼称としてある。リリナ・スカーレット・サクヤ、ノア・スカーレット・サクヤは最初のイブ、マンジュリカの後を継いだ。ルノクスに辿り着いた「干からびた手首」を使い、リリナはダーマに人型を与える。マルマの再誕した原始生命体「ビドル」に宇宙の彼方から呼び寄せた「シャングリラ」を融合させた。そしてリリナは消滅した。ダーマはリリナを再誕する、しかしそれには魂は無かった。ダーマは落胆し彼女と連れ立ってルノクスを去った。
一方でサクヤはノアのイブとして、ゴラゾムとビートラを出芽し、ついにインセクトロイドの研究者「カグマ」に再誕の力を預け消滅する。その記憶をダウンロードして完成したのが、人工的に生まれた「虫人」インセクトロイドの原型「サクヤ」こと「カグマ・アグル・サクヤ」だった。カグマ博士はヒドラの言う通り、ほどなく消滅し、のちにサクヤはゴリアンクスで最高の科学者として虫人のために「インセクトロイド」を「三体」作り出した。「三体のシュラ」のうち回収した一体に「リリナ」が再誕した姿「スカーレット」の外皮を使い、AI(人工知能)に自身の脳を移植し「カグマ・アグル・サクヤ」は生まれ変わる。シュラを倒すために地球に向かった「サクヤ」は「カグマ・アグル・サクヤ」の生まれ変わった姿だった。
「リリナほど、巧みに再誕術の使えたものは未だに現れない。彼女はマルマの元へとわたしを呼び寄せるとこう言った」
ヒドラの回想に耳を傾けながらなっぴは、ぼんやりとその様子を頭に浮かべた。
「なき王の体を使い、あなたに人型をあげましょう」
リリナはマルマ(ダーマ)の希望を叶えたのだった。人型を手にしたダーマはリリナに惹かれ、次第に愛という感情を持つ。
「それはダーマがリリナに新たな力を与えて生じたのだろう。リリナは出芽という方法でこの星と同じ生命体を産む。その娘の名はリカーナ、つまりお前たちの祖だ」
「知っているわ、リカーナはゴリアンクスの王子と結ばれた。虫人の王子と……」
「いや王子は虫人ではない、彼等もまたゴリアンクスのイブ、サクヤによって出芽したのだ」
「もうひとりのイブ……」
「ゴリアンクスのサクヤがイブとなっていたのは、ノアという名の原始生命体だ。ビドルはルノクスから見える兄弟星にも自分の体をもうひとつ分けていた」
ヒドラはルノクスのイブ、リリナの話を続けた。
「サクヤはリリナと同じ様に原始生命体「ノア」から生まれた「イブ」だった。再誕の力はリリナに少し劣るものの、優れている力もある。それが「ゴラゾム」「ビートラ」を続けて「発芽」したその力だった」
しかし、ノアの生命力エネルギーは枯渇し、ひと足早くゴリアンクスには新しい虫人は生まれなくなっていた。早晩、イブはノアとともに消滅した。