83.最後の神の子
最後の神の子
「セイレもミーシャもルノクスに向った?」
なっぴにはそれは「連れ去られた」としか思えなかった。遠いルノクス、なっぴは悔しさに震えた。安全だと思った結界の中で虫人は再び原始生命体に戻り、仲間たちが避難した「amato2」はルノクスにそれごと連れ去られてしまった。そればかりか、新鮮な生命力として利用されるかも知れないのだ。
「セイレ、ミーシャ……」
なっぴの唇は固く閉じられた。なっぴのレインボー・スティックを握る手が小刻みに震えていた。
「今、目の前にいるのはヒドラの進入した由美子、それは疑いもない。姿はフローレスでも由美子を内包している、そんな由美子と私は戦えない……」
「そうだ、それでいい。おまえを殺すのではない、浄化の光をもって再誕の力を抜き取るだけだ。イブはこの星ではもう必要のないものなのだ」
そう響くのは、再びあのヒドラの声だ。
「ルノクスにアマトは向かったのね」
「アマトは、ルノクスで交わされた遠い約束を果たすために出発した」
「聞かせて、その約束の話を……」
「聞きたいと言うのなら、話してやろう。ただしおまえの浄化が少し伸びるだけだが……」
なっぴはそれでも知りたかった。
「お願い……」
レインボー・スティックを彼女は短く収めた。それを見たフローレスは「黒龍刀」を使い空間に六角の穴を開ける。その中に広がる宇宙空間に「アマト」があった。しかしそれはなっびの乗り込んだこともある「amato2」ではない。原始生命体でもなかった。その姿は「干からびた手首」いや「ヒドラ」そのものだった。
「ヒドラ、やはりあなただったのね。マナとヨミによって生まれた生命体は」
「タオによって一度は隔てられたアマとヨミ、おまえが経験したようにその二つが交われば新たなる光を生む。遠い昔タオの目前でマナに触れたヨミの手首はマナの光を宿した」
「それがタオの怒りに触れ。マナとヨミはその後実体を持つ事も無く、永遠に会うことはできなくなった。タオはその時、その手首のことなど気にもかけなかった。輝く軽きものマナと漆黒の重きものヨミを隔て、そして残ったものを取り出し自分の命を吹き込んだ。それがマルマ、最後の神の子だ」
「その神の子は不完全だったのね、あなたが欠けていたから……」
「この体がシャングリラとしてマルマの中心に入るはずだった」
「骨のない自立できない生命体、マルマにはあなたが必要だったのに」
「マルマはシャングリラを待つことに疲れ、原始生命体を残しルノクスでついに消滅してしまった」
「その原始生命体はバジェス?」
「いや、ビドル。わたしの別名だ」
「あなたのこと?」
「マルマはわたしのために再誕していた。その時生まれたのが最初の母、イブだ」
「最初に生まれたイブがマンジュリカということなの?」
「そうだ、マンジュリカは原始生命体から虫人を作る。しかし生まれた生命体は再誕のできない生命体だった。次第に生命力の枯渇する原始生命体ビドルは、そのために次の再誕をした。そして次のイブが誕生しそれと引き換えに彼女は消滅した」
「次に生まれた原始生命体、それがバジェス。その時生まれたイブの中に宇宙の果てにいた私を呼び寄せるほどの力を持つものがいた。その名はリリナ・スカーレット・サクヤ」