80.ヒドラの正体
ヒドラの正体
「レインボー・スティック!」
なっぴが七龍刀を左右に振る、ヒドラの数本の触手が苞ごとドサリと地面に落ちた。
「グリュリュリュッ……」
たちどころにそれは消え去った、なっぴの持つ浄化の力の方がスサノヒドラをついに超えた。
「ええいっ忌々しい、リリナの末裔、お前たちの役目を忘れたのかっ!」
ヒドラは明らかにうろたえてそう口走った。ついにスサノヒドラはなっぴを浄化する事を諦め、その動きを止めた。
「役目ってなんですかぁ?」
耳の側に手のひらを添え、大げさになっぴが聞き返した。
「うぬ、忘れたとでも言うのか」
もちろん、なっぴは知っていた。マンジュリカの精が彼女の脳にその記憶を残していったのだ。
「リリナの娘、リカーナはわれにこう約束した。新たな生体エネルギーを集めるために、しばらくルノクスを離れると。引き換えに再誕の術を封印して欲しいとな」
「再誕の術を封印して欲しい……」
「そうだ、リカーナは不老不死を自らの体に封印してしまった。せっかく持っていたイブの力もそれで消え去った」
「イブの力は不要だと、そうリカーナがいったのね」
「もう一人われにそう言ったものがいた。あのゴリアンクスでも……」
「カグマ博士」
「そんな名だった、もっともゴリアンクスの男はイブではない、自らの体に封印したところで制御などできない。身の程知らずの男は、たちまち粉々に砕け散った」
そのかけらのひとつが、闇の力により変化し、ナツメの石に変わったことは誰も知らなかった。
「マナの力があなたに集まり、スサノヒドラに変わったように見せてはいたけれども、正体を現したわね」
なっぴは「その確信」をついに得た。タオもヨミもそしてマナもそんな約束などするはずもない。リリナと最後にあった神の子「マルマ」ですらそんなことは知らないはずだ。
「あなたの正体はマナとヨミから生じた干からびた手首」
「……」
「マルマを追い、あなたがルノクスに着いた時、すでにマルマは原始生命体へと姿を変えていた。その一つバジェスはイブとしてリリナ・スカーレットを選び、虫人を生み続けていた。マルマの残したもう一つの原始生命体ノアはイブの代わりにダーマという寄代を持っていた」
「われは、ひからびた手首だと……」
「あなたは再誕の度にリリナが流す涙を得て生きていた、再誕の際に邪魔になるのは過去の記憶。この地球ではアガルタの再誕のプログラム、エスメラーダ人魚たちに受け継がれた記憶をね」
「過去の記憶は、元の原始生命体に戻るべきもの、再誕するお前たちには邪魔なものだ。リリナは、われにその始末を頼んでいた、しかしある時ルノクスから虫人たちは消え去った。われを残したまま……」
「ルノクスに残されたあなたの名前は、ビドル」
「リリナはそう呼んでくれた、お前は何でも知っているのか」
「私は、遠い昔のリリナの記憶もこの胸の引き出しにある、わたしはマンジュリカーナ」
「マンジュ、今、マンジュと言ったか?」
「そう、マンジュリカの精霊に選ばれしもの」