8.なっぴを救え(後)
なっぴを救え(後)
なっぴの作戦、レムリアにシュラを乗せて太陽に送るためのエネルギーは、王国の中心、その王宮に国中から集められることになっていた。しかし作戦は失敗した。その情報はマイが既に伝えていたにもかかわらず、王宮の庭には各国から集められた「マナ」が輝いているのだ。その「マナ」を見た二人にラベンデュラはゆっくりと話し始めた。
「リンリン、シルティ。虫人たちを融合させたのは、ゴラゾム王だと聞いています。そして『マルマ』がリリナに与えた再誕術はその娘にして、ゴラゾムの妃となったリカーナが『マンジュリカーナ』を産んだ時、ついに結実したのです」
地球に着いたムシビトたちをもとの姿に分離させ、再誕させたのはまだ幼い「マンジュリカーナ」だった。以来彼女は全てのムシビトたちの「イブ」となった。
「マンジュリカーナは、ある時期自分を消し去ろうと思ったのです。カブトを封印する力さえ持つ自分を呪ったのです。人間界に行き、再誕の術を伝えてしまったアガルタとともに消え去ろうとしたのです」
「でも、できなかった……」
「そう、リンリン。一度生まれた生き物は深い海底でも、生きようとする力に溢れていた。マンジュリカーナは里香や香奈、なっぴだけではない、全てのムシビト、生き物の『イブ』として今でも私たちにつながっている、いえわたしたちとともにいる」
「レムリアがなっぴを救うために再び動き始めた、そのためのマナはいったいどこから……」
シルティがサクヤの意志とシンクロした。
「サクヤとシンクロしたシルティにはもうそれが見えるでしょう?」
「カンブリア族とヨミ族が融合していく……」
「それだけではないわ、私にも解る。あのマナの光の中に王国のムシビトたちの命を感じる……」
二人の言葉を聞いているラベンデュラの体も次第に解け始めていた。
「さあ、レムリアへマナを呼び込みましょう」
「再びレムリアはなっぴの元へ、マンジュリカーナの元へ向うのです。『イブ・マンジュリカーナ』を救うために!」
王国は砂の様に消えていき、次元の谷が崩れ始めた。だれひとり動くものもいない、王宮が崩れていく。別れを惜しむように、レムリアはゆっくりと浮かび上がった。機械音が誰もいない船内にこう響いた。
「イブヲ救エ……」
「あれ程の数の虫人が、この異界で暮らしていたのか?」
ダーマがもしそれを見たなら、きっとそう驚いたに違いない。「レムリア」にむかって「ナノリア」「セブリア」「テラリア」そして「ゴラリア」の虫人たちがそれぞれ融合していく。「サキ」と「フランヌ」の二人の巫女をすでに身ごもっていた「トレニア」。その不思議な力の元は、「マンジュリカーナ」の娘。「トレニア」が受け継いでいた力だった。「マンジュリカーナ」は、この日がいつか来ることを知っていたのに違いない。
地球ー太陽の巨大な引力に偶然つかまり、偶然生命が生まれ、その生命体は偶然知的生命体に進化した。おそるべきこの偶然ーしかし、もしそれが必然だとしたら? 物語りは続く……。