79.虹の戦士
虹の戦士
かけ声は勇ましかったものの、その戦士は思いのほか体が小さかった。
「虹の戦士だと、クククッ、そんな小さなお前に何ができる」
「あれれっ?」
テンテンは人型を手にしたものの、妹リンリン同様に小学生の体だった。
「これでも食らえ、黒こげにしてやる」
攻撃用の触手から火炎弾がテンテンに向けて吐き出された。
「えいっ」
ヒドラの火炎弾をバック転回で一度避けただけでテンテンの額に汗がにじんだ。この体のままでヒドラを浄化するのは不可能だ。由美子が起き上がりテンテンに叫んだ。
「なっぴと交代するのよ、テンテン。シンクロナイズドしているんだからオッケー!」
確かに、彼女の言う通り、テンテンの役目はなっぴとシンクロすることだ。ヒドラを倒すことではない。
「ようし、ヒドラ見てなさい。チェインジ・レインボー・なっぴ!」
そのコマンドとともに、テンテンのコマンドスーツが膨らみ始めた。由美子からはテンテンの体の中からまるでなっぴが「羽化」するようにも見えた。新たな虹の戦士は虹色テントウに似ていた。
「意外とテンテン、このコマンドスーツいいわよ。
なっぴが、新しいキューを握りしめた。その緑色のキューは次第に紫の光を強めていく、なっぴは息を深く吸い、テンテンにこう言った。
「せっかく結界の中にいたのに、二人とも出てきちゃうなんてどういうこと?」
「私も、由美子もリンリンも100%の虫人ではなかった、ラベンデュラ様がそうおっしゃった」
なっぴに結界の中でのテンテンの経験が次々と刷り込まれていく。それは、空色シジミの精「パピィ」の話から始まっていた。
回想ー結界の中で-
「里香は、人間界で二つの大きなことをした。ラナとともにヤマタノオロチを浄化したこと、そしてもう一つはリカーナが浄化した『櫻井博士』の娘を再誕させた事だ」
パピィは、ナナに次ぐ古い精だ。テンテンたちよりも古いできことを話し始めた。
アロマの娘フローレスは「心が壊れてしまった」と「フローラ」国には伝わっている。それはラグナがリリナに預けた「再誕の力」だ、それをリリナは使わずまだ少女だったリカーナに封印したのだ。リカーナは地球で生まれたアロマにその力を封印した。アロマは使ってはならぬその禁呪をアガルタのマオの懇願に負け、クシナの産んだ「アキナ」の再誕に使ってしまう。それがのちの「ヤマタノオロチ復活」の原因を作った。責任を感じたアロマはその力を「虹のほこら」に封印したのだった。しかし、再誕の力は本来なら娘に伝授しなければならないものだった。アロマは娘「フローレス」の亡骸に禁呪を使い娘の再誕を果たす、その強力な力は、ラベンデュラ、スカーレット、バイオレットのちに「フローラの三姉妹」と呼ばれる巫女を生んだ。
「私たちはそれぞれにアロマの力を分け与えられている。それが時には制御できないほどにもなる」
ラベンデュラが由美子にそう告げた。スカーレットは由美子を抱き寄せるとこう言った。
「人間界に着いた里香様はカイリュウ族のシラトとヤマトに渡り、櫻井博士の娘『由美子』を探し出したのです。もちろんとっくに由美子は死んでいた。そしてその末裔の赤子が大病の末、息を引き取るところだったのです」
「それが、私の……」
バイオレットが話をつなぐ。
「完全な再誕にはマンジュリカーナの溢れるマナ、それが必要なのです。里香様は残ったマンジュリカーナの力で私たちの国へとその赤子をトランスポート(転送)させたのです、ミコトを送ったときと同じように」
その赤子に、三姉妹はそれぞれに伝授された再誕の術を使った。由美子はもともと虫人ではなかった。
「あなたの持つその力は、パピィの力だけではない、里香マンジュリカーナの力も合わせ持つ。なっぴとは姉妹以上の絆に結ばれているのです」
「香奈様」
香奈はそれには頷くだけで、今度はテンテンに言った。
「虫人の国で再誕させれば、その体が壊れてしまう。由美子の再誕の際も三姉妹の時と同じく三体に分散されたのです」
「私と、リンリンにも人間の……」
テンテンは自分の両手に視線を落とした。
その記憶とともに、多くの虫人がセイレたちを「amato2」に乗り込ませるために消えていったこともなっぴは知った。なっぴは気づいた、その「amato2」が陰も形もないことに。
「テンテン、amato2が消えてしまっている……」
「そうなの、私と由美子が飛び出した後、浮き上がって間もなく見えなくなってしまった」
「見えなくなった……」
スサノヒドラが答えた。
「あの球体はアマトとなり、戻るべきところへ戻った。もはや誰にも追いつけない」
「まさか、ルノクスへ……」
「もう時間はない、おまえたちは浄化されるかそれとも消滅するかだ」
「そのようね、ヒドラ」
ヒドラは一度に浄化の光を放出した。なっぴのストールの七色の星がその光を受け止めた。
「何故、お前に変化がないのだ。マナの光が足りないのか……」
続けてヒドラは火炎弾を吐き出す。それさえバイオレット・キューがはじき飛ばす。
「馬鹿な、マナの力で浄化できない訳はない。火炎弾に込めたヨミの力が聞かないなどありえん」
「レン・スティノール」
なっぴはキューを伸ばし高く飛び上がった、そして今度はキューを縮めた。