76.消えたアマト
消えたアマト
沈黙を続けていた香奈がリリナに尋ねたのは、リカーナの事だった。
「リカーナ様はあなたの娘ですか?」
「あなたは?」
「リカーナ様の血を引く者、香奈と申します」
「そう、リカーナの末裔、それで私と心が通じるのですね。あなたの思っている通り、リカーナは私から生まれました、過去の記憶の受け皿として」
「記憶の受け皿、エスメラーダ人魚と同じだとおっしゃるのですか?」
プログラムが、ようやく搭乗者とリリナの古い言語をシンクロさせた。セイレの声がリリナに届いた。それまではリリナには見えなかったのだろう、その声に彼女は他の搭乗者の存在にやっと気づいたようだった。
「エスメラーダ人魚、あなたもそうなの?」
「私はこの星の海を治める、アガルタのセイレと申します」
「セイレ、私はエスメラーダ人魚については知らない。しかし、あなたの話ではこの星にもリカーナと同じ者が生まれているということね」
ミーシャがその話に加わる。
「私は、地上の巫女ミーシャです。リリナ様、ヒドラは何故なっぴを浄化しようとするのですか?」
なっぴの記憶をヒドラは何故消し去ろうとするのか、ミーシャ同様その疑問を皆は持っていた。
「あの娘は、きっと気づいたのね……」
「おそらく、そうでしょう。だからこうして大切な人たちをアマトへと導いたのに違いありません」
その声は聞き覚えのある声、しかしその姿は見えない。
「シ、シルティそんな……」
マイが思わず大きな声を上げた。目前の香奈の顔が、別人に変わりはじめた。
「おかえり、サクヤ」
「ただいま、リリナ」
シルティをサクヤと呼ぶリリナは、満足げに微笑み「amato2」に乗り込んだ5名をゆっくりと見渡した。
「あの娘たちの名はなんと言うの?」
外部の様子がモニターに映る。スサノヒドラに対峙するなっぴ、そしてなっぴに近づく少女、由美子が映し出された。
「マンジュリカーナ、そしてあの娘はスカーレット」
サクヤはそう答えると少し笑った。
「さあ、アマトを開き、彼の地へ飛べ!」
リリナはそう言うと長い杖を天にかざした。高周波と共に「amato2」の耐圧殻が剥がれ落ち、七色の苞に包まれた球体へと「amato2」は変化する。
「ウィーン・イン・イーン……」
球体は高周波とともに苞の表面から触手を伸ばし「原始生命体」に変わった。そしてそれは歪み始めた周囲の空間に吸い込まれていった。
その様子を見ていたスサノヒドラは一瞬動きを止めた、そしてあくまでも浄化を拒むなっぴにこう告げた。
「アマトが、遂に開いた。もうお前の浄化に余計な時間はかけれない、マンジュリカーナよ、その力を無くすつもりは無いのか?」
「無い、たとえこの身がどうなろうとも」
「お前は何のために戦うのだ、私の力がどれほどのものか知っているはずだろう、私の正体を知らぬ訳ではあるまいに」
「あなたこそ、私が何者なのか知っているくせに、私が一歩も引かないその訳だって知っているでしょう?」