74.サクヤ・プログラム
74.サクヤ・プログラム
「amato2」のインジケーター・ランプが次々と光を放ち、安定し終えたものは、グリーンに変わる。
「この中にいる限り、マイも安全だわ、もちろんシルティあなたもね」
「香奈、ついにこの時が来たのね。私がメシアとなる時が」
「シルティ、あなたは導くものとして生まれた。この星に着いたサクヤのプログラムを守り続けるために」
「サクヤのプログラム、それがすべてのはじまりだった」
「SAKUYA、そうかそれがこのプログラムのパスワードか……」
「タイスケ、パスワードって、いったい?」
ミーシャが操縦席に座るタイスケを振り返った。
「amato2には、まだ起動していないプログラムが残っている。パラレルエンジンとハニカム構造のモニターは、何のためにあるのか、そもそもどうやって起動させるのかがずっとわからなかった」
「わからなかった?」
「ミーシャ、パスワードはSAKUYAだ。早速入力してもいいか?」
「タイスケに、任せるわ」
「オーケイ」
タイスケによってそのパスワードが打ち込まれると「amato2」のエンジン音が消えた、しかし「amato2」は宙に浮いたままだ。
「静かね、これがもう一つのエンジンなの?」
マイが唇に人差し指を当てた。
「セイレ、静かにして。聞こえないわ」
「マイ、何が聞こえないって?」
「これは震動波エネルギーを使うエンジンだ。しかし、こんなものを博士が設計していたとは考えにくい……」
マイにだけ聞こえる古いルノクスの言葉は振動波に混じっていた。
「マイ、あなたに聞こえるのは、震動波に込められたサクヤの思い。それを受け止め、私たちに口伝しなさい。あなたにはそれが出来ます」
香奈がマイにそう命じた。命じられるまま、何かに取り憑かれたようにマイは口伝を始めた。
「アマトにたどり着いた我が子孫たちよ、よく聞くが良い。バジェスから生じた虫人はルノクスとともに滅び去るはずだった。タオがマナとヨミに告げた通りだ。再誕の度にバジェスは力を失っていく、それを補完していたのがイブ、マナの寄り代となった虫人の女王。サクヤとは代々のイブの名だ」
そう二度繰り返し、マイが沈黙した。
「あれを見て」
セイレが指差す先には、ハニカムモニターに映し出されたバジェスとイブの姿があった。
「アマトはバジェスの入り口として今開いた。ルノクスの子たちよ、さあ来るがいい。メシアとともにアマトをくぐれ」
「メシア、シルティのことかしら」
ミーシャはシルティを見つめた、香奈が呪文を唱えた。
「エスターナ・サクヤ・リカルティ」
香奈にシルティが重なっていく、次第に香奈はその意識を失っていった。そしてやがて明らかに別人の声で「amato2」に乗り込んだ皆に語り始めた。
「私たちはいつか、ルノクスに辿り着く。その星こそ、わたしたちの母だから」
虫人最後の王女「ヒドランジア」ことマイは、懐かしいその言葉を繰り返した。
「ル・ノ・ク・ス」
香奈が発するのはルノクス最後の女王、リリナ・スカーレットの声だ。