73.浮かび上がる「amato2」
浮かび上がる「amato2」
「航行システムを全てチェックする暇はない。ミーシャ、直接動力チューブをつなぐぞ」
「了解。タイスケ、ラダーは正常よ、浮き上がれればなんとかなる。よーし来た来た、すぐに動力を反重力トランス・ポートにつなぐわ!」
定員5名の「amato2」は、地上では有酸素航法が可能だ。とはいえ、8人は無理だ。そう判断したテンテンと由美子は「amato2」からそっと外へ出ると、迷うことなくハッチを閉めた。プルッと一瞬震えると「amato2」はたちまち浮き上がった。
「さあ、これからどうする?」
「由美子、私に決めろというの。なっぴの代わりに今度はあなたに着床しろというのね」
「そう、虹の戦士としてなっぴとともに戦いなさい。虫人を救うにはスサノヒドラを浄化するしかない。マナの暴走を制御するには、なっぴの力だけではきっと足りないわ」
「確かにそうかもしれないけれど……」
テンテンはもう一度考えた。だがそううまくいくものなのだろうか、テンテンは由美子に正直に答えた。
「今のあなたには、ナナの力を借り、コマンドを書き込むことができる。でもシンクロナイズが可能なのか私にはわからない……」
「何言ってんだか、やるっきゃないでしょ。見て、なっぴもそろそろ限界よ」
相変わらず、なっぴはスサノヒドラを攻撃しない。なっぴはその衣服が裂けようとも、浄化の火炎を避けるばかりだった。スサノヒドラの元、マナの暴走をなっぴの力だけでは制御できないからだ。意を決しテンテンは由実子に賭けようとした。
「ようし、由美子の中に入るわよ」
「このままで大丈夫、テンテン?」
「チャッ、チャッとコマンドを書き込むわよ」
「わかった」
テンテンは小さなテントウムシとなり、由美子の耳の中に消えた。
その頃「amato2」の中でもまた、慌ただしい動きがあった。ミーシャはタイスケの指示する箇所を次々と再チェックし、着々とプログラミングを再構築していった。
「システムの損傷は、自動修復装置で修復できる。タイスケの言った通り、月までも行けるくらいになるわ」
ミーシャは大げさではないこの「amato2」のポテンシャルを見抜いていたタイスケに感心した。
「なっぴを救うために役立つものは搭載されていないの、タイスケ?」
セイレがタイスケに尋ねた。
「残念だが、武器は積んでいない。もともとこいつは深海探査用だからな」
「確かに、私も父から武器があるとは聞いていないわ。それに私にもわからないシステムもあるの……」
ミーシャは、そう言いながらも自動安定装置が機能するまでじっとインジケーターランプを見つめている。
「香奈様!」
マイの声にミーシャも振り返った。同時に香奈が床に倒れる音が響いた。
「大丈夫、少し休めば楽になる。それよりマイ、シルティを見てあなたは何か感じない?」
「シルティを見て……?」
マイにはシルティはシルティとしてしか、映らない。しかし他の二人には別人として映っていた。
「か、母さん」
「ミーシャは振り返ったまま、シルティを見てそう言った」
同じく、もう一人セイレもそう思った。巫女アゲハ、シルティの持つこの力とは一体何なのか。
「私には見えない何かの力がシルティを包んでいるの?」
そうとしか、考えられない。それでも、マイには不思議で仕方なかった。
「二人のために、少し話をしましょう。ミーシャもこっちに来なさい」
香奈が、座席に座り、深呼吸をひとつした。そして優しく笑いながらミーシャを呼んだ。
「変わろう、ミーシャ」
タイスケがミーシャに変わり、最終確認中の操縦席に座った。