69.ヨミの綱.2
ヨミの綱
ヨミの綱は、由美子とミーシャの二人がかりで「amato2」まで一直線に伸ばされ、堅く結ばれた。二人はハッチを開き、少女に戻ったリンリンを「amato2」から外に連れ出し、結界の中へ合図を送った。
「ようし、全力で引っ張れ。ヒドラに悟られないようにゆっくりと動かすんだ」
ギラファがそう言うと、早速無数の手を持つザラムが綱を握った。
「丈夫な耐圧殻だ、軽量化されているとはいえ。そばまで引き寄せるには相当の力が必要だ」
「タイスケ、だがその案はいいぞ。香奈様、ミーシャ、セイレ……。結界から出たとしてもヒドラから身を守るのはそれしかないだろう」
ギラファはその案を即座に受け入れた。
「だがそれまで、この結界が持つかどうか」
「何をおっしゃられます、コオカ様。持たせるのです。何としても」
「シルティ、お前は時々ラベンデュラ様のように思えるぞ」
「お嫌いですか、こんな私は?」
「いや、俺にはちょうどいい」
ラベンデュラがそれを聞き留め、香奈に笑いかけた。
「あらあら、テラリアの王もシルティには形無しね。香奈、この結界はどのくらいもちそうなの」
「なっぴ次第。ヒドラの浄化が進めばその分結界は強固になる、その反対に……」
「あっ、なっぴがふらついている。リンリンの力がきっと底をつき始めているんだわ」
なっぴがヒドラを倒すことはできないかもしれない。テンテンはなっぴに渡した虹のブローチに祈った。
「今の私には、もう虹の原石のひとかけらも残っていない。でも、なっぴが命じたなら、私はきっと駆けつける、頑張ってなっぴ。最初に出会った私のことを忘れないで」
テンテンの肩に手を置き、バイオレットが口を開いた。
「テンテン、あなたの思いは必ず伝わる。リンリンを再誕させた力は、私たち虫人の意思に違いない」
「おそらく、それが『ビドル』ということだろう、ギラファ?」
結界にめり込んだまま・ヨミの綱を引き寄せ続ける黒サソリ、赤ムカデがもう何も話さなくなったギラファに尋ねた。
「テンテン、心配するな、俺は死にはしない。この結界の一部となり、最後まで見ている」
「バイス……」
結界の外まで「amato2」はあと少しだ、しかし綱を引く手に感じる重さがまた一つ重くなっていった。やりきれないタイスケは、ついに一言こぼした。
「なっぴ、虫人を再誕させたのは、もう一度彼らに苦しみを与えただけなのではないのか」
「タイスケ、そんなことはありません。虫人の意思は、この綱のように次第に撚り合わさっていく。振り返ってごらんなさい」
香奈が細い指でヨミの綱を握り、タイスケにそう伝えた。
綱を握るタイスケの後ろには、香奈、マイ、セイレ、テンテン、シルティ、ガマギュラス、ピッカー、ギリーバといった、人間界にかかわるものだけではなかった。ラべンデュラ、スカーレット、バイオレットの「フローラ三姉妹」、トレニアの娘ヴィオラとアイリスを加えた「五大巫女」も綱を握っていた。