65.ヒドラの声
ヒドラの声
繰り返すキューの打突に、ヒドラは閉口した。素早いなっぴの動きが、ヒドラの触手をすべてなぎ払い、もぎとっていく。ついには触手の数も元の八本に戻りヒドラの体色もわずかに薄くなった。
「このままヒドラを浄化できるのか、リンリンが着床しただけのなっぴが、ヨミの力に持ちこたえられるのか」
ヒドラの闇とヨミの持つ闇がぶつかり、新たに生じた稲妻がヒドラの苞の中で妖しく輝く。
「グルルル」
ヒドラは、戦法を変えた。黒い霧を数本の触手から噴出させながら、なっぴに襲いかかる。毒素の混じった霧だ、なっぴの肺にわずかでもそれが入り込めば、かなりのダメージを与える。
「えいっ」
バック回転でそれを逃れ、着地するなっぴ。しかしその足元がぐらついた。
「あれれっ、少しばてちゃったかしら?」
「何というヒドラの闇の深さ、ヨミに匹敵するわ。このままだとなっぴの体が持たない……」
漆黒の戦士の疲れは、マイにもはっきり見えた。シルティは長く無言だった、しかし一度はアロマの依り代となった彼女は、すでになっぴが二度と闇には落ちないことを確信していた。
「私は何も話さない、皆が自身で決断すること。決断はこの結界の中の皆が決める、そうでしょうなっぴ……」
「シルティ、そうだ……」
コオカは右手でシルティの細い手を握りしめた。
「この結界から出る方法は二つしかない。一つはリンリンのようになっぴに召喚される場合、もう一つはこの結界そのものを消滅させることだ。しかしそうすれば虫人は消滅するだろう」
ギラファが皆に警告した。
「この結界の中は、バジェスやノアのように地球の亜硫酸ガスから守られている。外に出ればおれたちは長くは生きられない」
ラクレスの言葉を聞いても、皆良い案はひとつも浮かばなかった。
「ギャルルル」
ヒドラが触手を今度は一気に放出した。それは瞬く間に大蛇となり、なっぴに襲いかかる。その頭を狙ったキューをするりと交わし、大蛇はそれぞれの尾をなっぴの腰に巻きつけた。
「あっ!」
突然のことになっぴは声を漏らした。それはなっぴの細い腰をきつく締め始めた。別の大蛇はキューに腕ごと巻きつき、締め付ける。腕の自由を奪われたなっぴにはどうすることもできなかった。
「しまった、キューが使えない……」
そして口器から、黒い霧を吐き出した。その一呼吸分の霧をなっぴは吸い込んでしまった。甘美な刺激がなっぴの脳に届く。そしてはっきりと声が聞こえた。
「なぜ、お前は私と戦える、そのヨミの暗い闇を使い、何をするつもりだ」
なっぴは吸い込んでしまった霧のおかげで、ヒドラの声を聞いた。しかし体はピクリとも動かない、それは他から見れば、ヒドラに捕まったなっぴがその霧で「眠らされている」ようだった。
「なっぴが、また気を失いかけている。ヒドラの闇はなんて深いの」
テンテンは、今にも泣きそうな声で言った。