64.里香と禁呪
里香と禁呪
櫻井博士は、人間界に残してきた娘の事を思い日記に残していた。人間の文字はリカーナには全く読めない。どうにか読めたのは由美子というのが彼の娘だということだけだった。そして時を経て、人間界に現れたのが里香、後の香奈の母だった。
「里香は、人間界で二つの大きなことをした。ラナとともにヤマタノオロチを浄化したこと、そしてもう一つはリカーナが浄化した『櫻井博士』の娘を再誕させた事だ」
パピィは、ナナに次ぐ古い精だ。テンテンたちよりも古いできことを話し始めた。
アロマの娘フローレスは「心が壊れてしまった」と「フローラ」国には伝わっている。それはラグナがリリナに預けた「再誕の力」だ、それをリリナは使わずまだ少女だったリカーナに封印したのだ。リカーナは地球で生まれたアロマにその力を封印した。アロマは使ってはならぬその禁呪をアガルタのマオの懇願に負け、クシナの産んだ「アキナ」の再誕に使ってしまう。それがのちの「ヤマタノオロチ復活」の原因を作った。責任を感じたアロマはその力を「虹のほこら」に封印したのだった。しかし、再誕の力は本来なら娘に伝授しなければならないものだった。アロマは娘「フローレス」の亡骸に禁呪を使い娘の再誕を果たす、その強力な力は、ラベンデュラ、スカーレット、バイオレットのちに「フローラの三姉妹」と呼ばれる巫女を生んだ。
「私たちはそれぞれにアロマの力を分け与えられている。それが時には制御できないほどにもなる」
ラベンデュラが由美子にそう告げた。スカーレットは由美子を抱き寄せるとこう言った。
「人間界に着いた里香様はカイリュウ族のシラトとヤマトに渡り、櫻井博士の娘『由美子』を探し出したのです。もちろんとっくに由美子は死んでいた。そしてその末裔の赤子が大病の末、息を引き取るところだったのです」
「それが、私の……」
バイオレットが話をつなぐ。
「完全な再誕にはマンジュリカーナの溢れるマナ、それが必要なのです。里香様は残ったマンジュリカーナの力で私たちの国へとその赤子をトランスポート(転送)させたのです、ミコトを送ったのと同じように」
その赤子に、三姉妹はそれぞれに伝授された再誕の術を使った。由美子はもともと虫人ではなかったのだ。
「あなたの持つその力は、パピィの力だけではない、里香マンジュリカーナの力も合わせ持つ。なっぴとは姉妹以上の絆に結ばれているのです」
「香奈様」
香奈はそれには頷くだけで、今度はテンテンに言った。
「虫人の国で再誕させれば、その体が壊れてしまう。由美子の再誕の際も三姉妹の時と同じく分散されたのです」
「私と、リンリンにも……」
テンテンは自分の両手に視線を落とした。
「じゃあ、私も再誕したの?」
マイが話に割って入った。
「あなたたち兄妹はナノリアで生まれたお二人に間違いございません」
マイとカブト(兄)は目を合わせた。それが安堵か落胆かは皆にはわからなかった。
「決まってるじゃない、マイったら」
「ヒドランジアの姿こそ、アロマ様の生んだフローレス。ラグナの言うスカーレットのお姿です」
ナナはマイにそう告げると、結界を通して戦い続けるなっぴとヒドラを見た。