62.結界の中で
結界の中で
「カン、カン」
キューが襲い来るヒドラの触手を左右にさばく、その度にちぎれ飛び消滅する触手、そして生じる無数の稲妻。無尽蔵にも見えるヒドラの新たな触手も次々と薙ぎ払われていく。その度に稲妻が起こりヒドラの体の「苞」(ほう)に吸い込まれていく。その永遠に続くようにも見える「闇と闇のぶつかり合い」にやがてわずかに変化が起こり始めた。その兆しに真っ先に気付いたのは、やはりテンテンだった。
「なっぴ、最初からそのつもりだったのね」
ヒドラの闇となっぴのヨミの力がぶつかるたびに生じる光、それが「始まりの光」マナとなる。そのことに結界の中の皆がようやく気付き始めた。
「ナナだけじゃあない、なっぴはこの宇宙に闇から光を生み出そうとしている。これがタオ様のおっしゃったことなのか」
「それが、やがてはこの二つの世界を一つにするのか」
コオカもラクレスも結界の外の様子を見守っていた。
なっぴのブラックキューがヒドラの触手をなぎ払う度に、稲妻が光る。繰り返されるその様子は、結界の中の虫人たちを勇気付けていった。さしものヒドラにも限界が必ず来る、ついに新たな触手を増やす勢いが弱まった。
「なっぴ、ヒドラの闇の力、80パーセント」
思わずテンテンがいつものように叫んだ。
「聞こえないか、やっぱり……」
虹の原石、そのひとかけらも残っていない。テンテンは口惜しさに「きっ」とくちびるを噛んだ。その様子に由美子の肩から小さな蝶が舞い上がった。それはギリーバたちと一緒に戻ってきた空色シジミだった。
「やれやれ、やっぱり戻ってきて正解だな、いいかい、テンテン。なっぴの襟元をよく見てごらん」
そう言われてテンテンたちは漆黒の戦士の襟元に注目した。
「ひょっとして、あれは……」
由美子の手を取り、テンテンが叫ぶ。
「そう、そうよ、由美子。間違いない。七色テントウのブローチ、人間界に戻る時に私があげたブローチだわ、形がかなり変わっているけど」
「あのブローチの力は、この結界を支えている。その力でわしたちは潰されずに居られるのだろう、ギラファ」
「はい、おっしゃる通りでございます、大臣」
由美子がパピィを見上げて言った。
「パピィ、あなたの知っていることを話してちょうだい」
「そうね、もう後戻りはできない、パピィ。由美子にすべて話しなさい」
「はい、女王様」
スカーレットに促され、空色シジミは話し始めた。




