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なっぴの昆虫王国 イブ編  作者: 黒瀬新吉
62/141

62.結界の中で

結界の中で


「カン、カン」

キューが襲い来るヒドラの触手を左右にさばく、その度にちぎれ飛び消滅する触手、そして生じる無数の稲妻。無尽蔵にも見えるヒドラの新たな触手も次々と()ぎ払われていく。その度に稲妻が起こりヒドラの体の「苞」(ほう)に吸い込まれていく。その永遠に続くようにも見える「闇と闇のぶつかり合い」にやがてわずかに変化が起こり始めた。その兆しに真っ先に気付いたのは、やはりテンテンだった。


「なっぴ、最初からそのつもりだったのね」

ヒドラの闇となっぴのヨミの力がぶつかるたびに生じる光、それが「始まりの光」マナとなる。そのことに結界の中の皆がようやく気付き始めた。


「ナナだけじゃあない、なっぴはこの宇宙に闇から光を生み出そうとしている。これがタオ様のおっしゃったことなのか」

「それが、やがてはこの二つの世界を一つにするのか」

コオカもラクレスも結界の外の様子を見守っていた。


なっぴのブラックキューがヒドラの触手をなぎ払う度に、稲妻が光る。繰り返されるその様子は、結界の中の虫人たちを勇気付けていった。さしものヒドラにも限界が必ず来る、ついに新たな触手を増やす勢いが弱まった。


「なっぴ、ヒドラの闇の力、80パーセント」

思わずテンテンがいつものように叫んだ。

「聞こえないか、やっぱり……」

虹の原石、そのひとかけらも残っていない。テンテンは口惜しさに「きっ」とくちびるを噛んだ。その様子に由美子の肩から小さな蝶が舞い上がった。それはギリーバたちと一緒に戻ってきた空色シジミだった。


「やれやれ、やっぱり戻ってきて正解だな、いいかい、テンテン。なっぴの襟元をよく見てごらん」

そう言われてテンテンたちは漆黒の戦士の襟元に注目した。

「ひょっとして、あれは……」

由美子の手を取り、テンテンが叫ぶ。

「そう、そうよ、由美子。間違いない。七色テントウのブローチ、人間界に戻る時に私があげたブローチだわ、形がかなり変わっているけど」


「あのブローチの力は、この結界を支えている。その力でわしたちは潰されずに居られるのだろう、ギラファ」

「はい、おっしゃる通りでございます、大臣」

由美子がパピィを見上げて言った。

「パピィ、あなたの知っていることを話してちょうだい」

「そうね、もう後戻りはできない、パピィ。由美子にすべて話しなさい」

「はい、女王様」


スカーレットに促され、空色シジミは話し始めた。

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