61.創始のプロローグ
創始のプロローグ
「でも、この結界から外に出れると思う? 」
ミーシャの言葉に虫人たちは、押し黙った。リンリンが漆黒テントウになったのは、なっぴにマナの力がもう残っていないからだ。ここは、オロスの大地。しかしこの結界を壊す力はすでにミーシャには失せている。
「それにアガルタまでのトンネルはこの結界の外だし……」
恨めしそうに、セイレは結界の外のトンネルの入り口を眺めた。
「私がなっぴのマナを奪ってしまったからなのね」
「ナナのせいじゃない、なっぴはそれを望んでいたのよ」
「テンテン、ありがとう。でも闇の力はとても深く計り知れない」
「あの娘はわしがしたことを今まさに見せようとしているのだ」
「タオ様、よろしいのですか?」
「ふふっ、もうこらえきれんのであろうが、ヨミ」
「はい、あの娘の元へ」
なっぴはヒドラの触手を捻じ切るつもりだった、それを無数の触手が阻止していた。次第にねじれが戻り、足元から次第になっぴにもしびれがきた。それでもなっぴは気を抜けない、無尽蔵の闇の力がキューを通じて伝わってくる。
「なんて、深く強大な闇。こんなのあり?」
「ビリリ」
ヒドラの太い体の中心に巨大な口器が現れ縦横に四裂した。
「くっ、このままだとあの口器にやられる……」
ヨミの声がなっぴに聞こえた。
「なっぴ、わしを取り込め」
「ヨミが私に力を貸してくれるの」
なっぴはにっこり笑い、ヨミを召喚した。
「ヨミ、召喚!」
巨大な渦がなっぴの頭上に渦巻き、次第に形を変えていく。イオ、アギト、そしてイト。カイリュウ、ヤマタノオロチ、そしてついに漆黒の戦士にヨミは吸い込まれていった。
「ようし、パワー全開。触手しぼり、再開よ!」
「グギュ?」
ヒドラは突然、触手に不思議な手応えを感じた。硬いキューとは違う、それは柔らかなものだ。引き寄せられるはずの「獲物」は動きを止めた。再びなっぴのブラックキューは回転を始め、触手が捻られ始めた。
「ヒュン」
さらに新しい触手がなっぴを捉えた、なっぴの両腕の動きを止めるための触手は今度は腕に絡みついていった。しかしヨミの力を得たなっぴの腕をヒドラは止めることなどできない。
「なっぴ、やっちゃえ!」
マイが、そう言った時、大音響とともにヒドラの無数の触手が捩じ切られた。
「ドガガガーン」
雷鳴とともに、閃光が天空に走った。
「見て、みんな」
テンテンが興奮したのも無理はない。閃光は七色に分かれるとヒドラの体に現れてきた疱「ほう」に突き刺さるように消えた。ヒドラは突然の事に、戸惑ったもののすぐさま次の触手を伸ばした。今度の触手は口器の代わりに鋭利な槍に変わっていた。しかし、なっぴのお得意のスティック裁きをヒドラは知らなかった。
「ミノ・スティノール」
キューを手頃な長さに縮めると、なっぴはひとまわり小さくなったヒドラを誘った。
「ヒドラ、さあ、かかってらっしゃい。」