60.戦士たち
戦士たち
なっぴそして、妹を気遣うテンテンはタオに尋ねた。
「ヨミの力をなっぴは使うつもりなの?」
「そうとも、ヒドラに残る闇と戦うにはヨミの力をぶつける、それが最も有効だ。なっぴはヒドラを倒さねばならない。イブとして、多くの虫人を守るために」
「そうかもしれないけれど……」
なっぴはナナが結界の中に入ったのを確認すると、深呼吸を一つした後、高く跳びブラックキューを回転させる。
「ギュル?」
ヒドラにはこの「挑戦者」の意図は理解不能だった。
「グルルル……」
ヒドラには視覚は備わっていない、肌に感じるのは、この者もまた、自分と同じ闇の力を持つと言うことだった。ヒドラは数本持つ太い足をせわしなく動かし、その場を移動した。その動きは思いの外、素早かった。
「トン」
なっぴは着地するとキューを横一文字にした。
「ヒュン」
ヒドラは触手を伸ばし彼女の顔を狙ってきた。その先の口器が大きく開く。それをなっぴのキューが受け止めた。
「ガキッ」
ヒドラの触手はその噛み付いたキューを離そうとはしない、さらに数本の触手がキューに噛み付く。相手は、武器らしいものは、それひとつきり。ヒドラはそう思い、ブラックキューをなっぴからもぎ取ろうというのだ。
「えいっ」
掛け声とともに、なっぴは渾身の力をキューに込めた。
「レン・ステノール!」
なっぴはキューをさらに長く伸ばした。
「ギュルルル」
ヒドラも負けてはいない。伸びたキューを見ると、負けじと触手をさらに増やした。
「グギュルル……」
ヒドラは太い足を地面に次々と打ち込み、なっぴとの「力比べ」に備えた。
「あんたの力ってその程度かぁ、もっと本気だしちゃえば?」
ヒドラはそう挑発するなっぴの言葉を理解した。更にヒドラの触手が増える。
「ヒュン」
新しい触手は次々と伸び、キューを狙い吸い着くように食らいついた。
「なっぴはヒドラの触手と力比べでもするつもりなのかしら?」
由美子は思った。なっぴがヒドラに引き寄せられて行く。なっぴは両手首を捻るようにさせ、ブラックキューを回転させ始めた。
「由美子、なっぴはあの触手を捻切るつもりだわ」
テンテンはそう言った。
「なっぴにそんな力があるのだろうか?」
「まあ、見ていろガマギュラス」
「いざとなったら、行くぞ二人とも」
ピッカーは飛び立つ用意をしながら、ガマギュラスとギリーバにそう促した。
「ああ、あのやっかいな触手を切り落とす武器は、どうやら俺たちしか持っていないようだからな」
ギリーバが、鋭い牙を開いた。それを見て赤ムカデのザラムもヤリをしごいた。
「ギリーバ、俺のヤリも使えるぞ」
「やれやれ、俺の忠告。マンジュリカーナの言葉も無視かい。まったく……」
ギラファが呆れて笑った。
「結界は、俺たちが守る。行って来い、お前たち、マンジュリカーナを頼むぞ」
ダゴス、ドモン、操りグモのガラムは結界の内側から、休みなく粘着糸を吐き出し続けていた。
「いい役目だな、羨ましいぜ」
渾身の力で結界の壁を押し、支えているカブトたちは、そう言うコオカと同じ気持ちだった。