59.なっぴの真意
なっぴの真意
漆黒のコマンドスーツに包まれたなっぴの右手には「ブラック・キュー」が握られている。出芽を終えたヒドラを切り離すための一刀、それを誰も疑わなかった。
「何故だ、何故ヒドラを切り離さないのだ」
ラクレスは不思議だった。絶妙のタイミングで振られるはずのキュー、しかし、キューはピクリとも動かない。
「ヒドラは出芽するとき、親ヒドラの体に余分なヨミを残す、その二つを切り離す必要はない」
ギラファが皆になっぴの真意を伝える。
「しかしあれだけのマナを持つ新たなヒドラを出芽したのだ、親ヒドラに残るヨミの力はあまりに強大だろう。なっぴが漆黒の戦士になった真の理由は親ヒドラを浄化するためなのだ」
「親ヒドラの浄化のために……」
ミーシャはその理由がなっぴらしいと心底思った。
「マナとヨミ、光と闇がぶつかれば、双方消滅する、そうタオ様はおっしゃった」
「マナ……」
「わしを浄化するために、なっぴはそれまでのマンジュリカーナを解き、再びレインボーに戻った」
「ヨミ……」
天空に造化三神の声が響く。
「ヒュン」
ようやくなっぴはキューを一振りした。勢いよく皆の方へ飛ばされたのは新しく生まれた「ヒドラの精」だった。その少女を受け止めたのはセイレとミーシャの二人だった。以前とは違うその姿、しかし二人には懐かしい少女に映った。
「ナナ」
「セイレ、ミーシャ……」
しっかりと両肩を受け止めてくれた二人に声をかけ、ナナはなっぴの作った結界の中に入った。
「なっぴ、ありがとう。私はようやく再誕した、あとはあなたに任せます」
「ピリッ」
そのとき微かな音が聞こえた、それに気づいたのは由美子だった。なっぴの結界がヒドラの強大な力にきしみ始めたのだ、もちろんこんなことは誰も想像だにしていなかった。
「親ヒドラは、どうなるの?」
「シャングリラとなり、消滅するのです」
ラベンデュラが由美子に答えた。
「ただし、あのヒドラは再誕したヒドラだ。ラグナ・マルマを追ってルノクスに向かった『干からびた手』よりも巨大なヨミの力を持つもの、すぐ消滅などしない」
ギラファが悲観的に言った。
「この結界さえ、圧し潰す力を持っているのか」
「コオカ、覚えているか。虹のほこらでわしたちがしたことを」
ラクレスが笑った。
「ああ、なんとか持ちこたえてみせよう今度は岩盤を砕くこともないしな、ハハハハッ」
「まあ、コオカ様ったら」
シルティが微笑んだ。